弘前大学理工学部物質創成化学科


平成23年度弘前大学学術特別賞授与式を挙行

本学は,平成23年11月11日(金),弘前大学学術特別賞授与式を挙行しました。

弘前大学学術特別賞は,本学における研究水準の向上に著しい貢献をした論文を顕彰することにより,本学の研究水準の一層の向上を図ることを目的として,今年度新たに創設したものです。

授与式に先立って,これまでも弘前大学創立60周年記念行事に際し,モニュメント「幸せのリング」(コラボ弘大に展示)を制作いただくなど,本学と御縁の深い国立大学法人東京藝術大学学長の宮田亮平氏に制作いただいた「シュプリンゲン」の除幕式を行いました。この「シュプリンゲン」は,弘前大学学術特別賞(遠藤賞)の創設に当たり制作いただいたものです。

その後行われた授与式では,遠藤学長から受賞者に各賞が授与され,さらに弘前大学学術特別賞(遠藤賞)の授賞者には,「シュプリンゲン」を模したトロフィ(宮田氏御自身の制作。オフィシャルナンバー入り。)が副賞として宮田氏本人から受賞者へ贈呈されました。

受賞者は次の方々です。

1.弘前大学学術特別賞(遠藤賞)

所属部局 職名 受賞者名 受賞テーマ
理工学研究科 教授 吉澤  篤 「アモルファスブルー相発現の分子設計および無秩序−秩序相転移に基づく表示機能の創成」
医学研究科 准教授 森  文秋 「神経難病の病理発生機序と病変進展様式の解明」

2.弘前大学若手優秀論文賞

所属部局 職名 受賞者名 受賞テーマ
農学生命科学部 特別研究員 尾ア  拓 「Mitochondrial m-calpain plays a role in the release of truncated apoptosis-inducing factor from the mitochondria」
保健学研究科 助教 細田 正洋 「The time variation of dose rate artificially increased by the Fukushima nuclear crisis」

受賞研究
「アモルファスブルー相発現の分子設計および無秩序-秩序相転移に基づく表示機能の創成」

研究概要

吉澤教授は弘前大学着任(2000年4月)以来,種々の階層構造を持つ液晶相を発現させるための分子設計について研究を行ってきた(論文4)。分子内に秩序を導入した液晶オリゴマーにより,層構造を持つネマチック相,不整合スメクチック相,新規液晶相,パターン形成,キュービック相などが発現する事を示した。その分子設計の一つが本研究の発端となった2005年に発表したT型化合物によるブルー相III(BPIII)の発現(A. Yoshizawa, M. Sato, J. Rokunohe, J. Mater. Chem., 2005, 15, 3285)である。本研究ではこれを展開し, BPIIIが電界に応答し,ディスプレイとして使用できることを示し,さらに実用的な液晶表示媒体を開発した。
ブルー相(BP)はキラリティー由来の階層構造液晶相の一つで,液体とキラルネマチック液晶の間のごく狭い温度範囲(1K以下)で発現し、分子レベルで二重にねじれた配列を持つが光学的には等方な液晶相である。その構造は3つに分類され,ブルー相I(BPI)とブルー相(BPII)はともに格子構造からなる三次元秩序を持ち,BPIIIはアモルファス状態である。BPは光学的に等方であることから偏光子を直交させた状態ではどこから見ても黒くなる。一方,近年の液晶ディスプレイ開発において消費電力の低下と部材の低減が大きな課題である。消費電力低下の有力な手法として赤,青,緑からなるLEDを時分割で点灯するフィールドシーケンシャル(FS)方式によるカラー化がある。そのためには応答時間が1ms以下の表示素子が必要となる。BPは高速応答を特長とし,さらに光学的に等方であることから配向処理が不要となる。BPを表示媒体とすることで, FS方式の適用, 製造プロセスの簡略化と部材の低減が可能となる。格子構造を持つBPIについてはすでに高分子による温度幅拡大が報告され,2008年にはサムソン電子から試作ディスプレイが発表された。しかし,格子構造に由来する安定性やコントラストの低下等の問題が存在する。一方,BPIIIは特殊な自己組織体を形成しており,構造解明を含む基礎科学の対象ではあるが,温度幅が狭く,応用については全く検討されていなかった。吉澤教授らは階層構造液晶構築の方法論をBP設計に適用し,新規なキラルT型化合物を設計・合成してBPIIIの温度幅を広げ,さらにそのBPIIIが電界印可で明暗のスイッチングをする事を見つけ,BPIIIが次世代表示媒体として有望であることを実証した(論文1)。この化合物のBPIIIを示す温度範囲は44-48℃、応答時間は8ms程度であり,温度幅・応答とも実用レベルにはないが,BPIIIが表示媒体として有望である事を示した最初の論文である。
BPIIIを発現する化合物はT型分子等特殊な構造のものに限られており,ディスプレイに必要な種々の物性を調整できる混合系からなる実用材料の開発指針が必要となる。液晶相におけるキラル化合物とホストネマチック液晶との間のねじれ力伝達の基礎研究を行った(論文2)。一分子中に不斉軸と不斉炭素という2つのねじれ源を導入することで,ホスト液晶の構造に依存して,不斉軸由来のねじれと不斉炭素由来のねじれが別々に誘起されることがわかった。得られた結果からホストーゲスト分子間相互作用により,混合系においてBPの二重ねじれに相当する2つのらせん軸を導入できると考えた。
そこでねじれ力伝達の基礎研究成果をもとに,BP安定化添加剤を設計した。既存のネマチック液晶にこのノンキラルT型構造を持つ安定化剤を少量添加し,そこにキラル化合物を混合することにより室温を含む温度範囲でBPIIIが発現した。室温での電界応答を調べたところ,格子構造のBPIでコントラスト低下の問題となっている電圧-透過率曲線のヒステリシスを生じず,応答時間はFS方式を可能とする1ms以下であった。液晶セルの視野角は広く,どこから見ても良好な暗表示が得られた(図1)。さらに,このセルを室温で保存したところ,1ヶ月経過後も電気光学特性に違いは見られず,良好なスイッチングを示した(論文3)。この研究により実用的なBPIII液晶材料の設計指針が得られた。それにより設計された材料を用いたBPIII液晶表示素子が従来のネマチック液晶にはない優れた表示特性を示すことを実証した。また室温での評価が可能になったことで,ディスプレイのみならず光制御素子への展開を可能にした。
図にBPIII電界を印可した際の挙動のモデルとパネルを示す。電界無印可ではBPIIIの光学的等方性による黒表示,電界印可により分子が一方向に揃い明表示となる。

図1 電界印可BPIII-N相転移
受賞対象論文
1."Electro-optical switching in a blue phase III exhibited by a novel chiral liquid crystal oligomer", M. Sato, A. Yoshizawa, Advanced Materials, 2007, 19, 4145-4148.
2. "Host-guest effect on chirality transfer from a binaphthyl derivative to a host nematic liquid crystal", A. Yoshizawa, K. Kobayashi, M. Sato, Chemical Communications, 2007, 257-259.
3. "Amorphous Blue Phase III Exhibiting Submillisecond Response and Hysteresis-Free Switching at Room Temperature", A. Yoshizawa, M. Kamiyama, T. Hirose, Applied Physics Express, 2011, 4, 101701/1-3.
4. "Unconventional liquid crystal oligomers with a hierarchical structure (Invited Feature Article)", A. Yoshizawa, Journal of Materials Chemistry, 2008, 18, 2877-2889.

平成23年度学術特別賞の対象(平成23年度が第1回)
(1)弘前大学学術特別賞(遠藤賞)
@ 応募者は本学の教員であること。
A 独創的かつ完成度の高い研究で,平成18年4月以降に学術雑誌に発表さ れたストーリー性のある論文数編を対象とすること。
B 研究は本学で行われ,研究内容が本学の研究水準の向上に著しく貢献した と認められるものであること。
C 応募者は個人であること。
(2)弘前大学若手優秀論文賞
@ 応募者は本学の研究者(学生,大学院生及び特別研究員等を含む。)であ って,応募した年度の年度末に40 歳以下の者であること。
A 独創的で著者の将来性を伺わせるに足る論文で,平成21年4月以降に学 術雑誌に発表された論文1編を対象とすること。
B 研究は本学で行われ,研究内容が本学の研究水準の向上に貢献することが 期待できるものであること。
C 応募者は個人であること。

受賞者数
遠藤賞の受賞者数については毎回2名以内とし,若手優秀論文賞の受賞者数に ついては毎回3名以内とする。