宇宙線観測・コンピューターシミュレーション・TL画像処理

理工学部月刊ホームページ(2006年2月号)
電子情報システム工学科計算機工学講座
最終編集日 2006年2月8日


このホームページを高橋研究室で担当することになり,研究室の学生たちに手伝ってもらって 作成しました.4年生がまとめの段階に入っている卒業論文の図や文章のなかからいくつかを 提供してもらい,またhtmlのタグ編集も全面的に協力してもらい,比較的短時間でまとめるこ とができました. 私たちの研究室でやっていることやその雰囲気などを少しでもお伝えできればと思います. 不備なところもあると思いますが,さらに修正・追加をしていくつもりです.

(2006年学科構成変更によりこの研究室は4月から 物理科学科 へ移りました)


ある日の研究室


今月中旬に予定している卒研発表会の準備で4年生はもっとも忙しくしています.院生の彼は ちょっとのんびり.研究室では弘前大学の姉妹校(ロシア・イルクーツク大学物理学部) からの S.教授を招聘していて,なにやら慣れない英語がとびかって,,,,,,,


写真撮るの


この忙しいときにHPもつくるのかあ?


レジュメできた?


にらみをきかせているのはだれだ!

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空気シャワー観測

○ 空気シャワーを観測しています.

理工学部1号館および総合教育棟の屋上に小規模な空気シャワー観測装置(HIROSAKI AS ArrayTU)を 設置し連続観測を行っています.HIROSAKI AS ArrayTについては月間ホームページ1999年2月号 で取り上げましたので
こちらを ご覧ください.


理工学部2号館最上階(11階)から.ArrayTとArrayUは約125メートル離れています.


HIROSAKI AS ArrayUのデータ収集・記録装置.
詳細はこちら(pdfファイル)をご覧ください.


最高エネルギー宇宙線の有無,10の15乗eV(電子ボルト)以上の宇宙線の起源,点源からの高エネルギーニュー トリノ検出などの研究のために,他大学の研究者と共同して以下のテーマを目標にしています.

 (1) 天体からのバースト現象に伴う高エネルギーガンマー線による地球規模的大広域シャワー現象
 (2) 太陽光子による宇宙線破砕反応などによる多重シャワー現象
 (3) 高エネルギーニュートリノなどによる大気圏深部で起こる大天頂角空気シャワー
 (4) 10の15乗eV(電子ボルト)以上の宇宙線のエネルギースペクトル
 (5) 気象データ(大気圧と気温)と宇宙線強度の時間的相関並びに観測地点間相関


HIROSAKI AS Array についての基礎的な解析結果をいくつか示します.
(1)空気シャワーの日別飛来数 (2)空気シャワーの飛来時間差

グラフ(1)は1日ごとの空気シャワーの飛来数の変化をグラフにしたものです. 1日平均約3600例の空気シャワーを観測していることがわかります.   グラフ(2)は空気シャワーの飛来時間差の分布をグラフにしています.  飛来時間差は指数分布(緑色の線)に従っており,空気シャワーはランダムに飛来する事象 であることを示しています.

(3)空気シャワーの飛来方向分布

グラフ(3)は2005年9月のある日に空気シャワーがどの方向から飛んできたのかをプロットしたものです.
左の図は観測器から見た方位角分布と天頂角の分布,右の図は地球を基準とした赤経と赤緯の分布です.

(4)連続飛来する空気シャワーの時間差分布.連続シャワー数が12の場合.

空気シャワーの中には短い時間間隔で連続飛来するものがあります. これをAS cluster(Air Shower cluster)といいます. このAS clusterの候補を探すには,確率分布から期待される値(平均値)と比較し, 大きく超える場合を探す方法があります.グラフ(4)はアーラン分布を用いて解析し, K=12(連続数12)の場合です.また,ArrayTとArrayUの同時刻解析(1マイクロ秒以下)も行なっています.

また,他大学の研究者と共同して,大広域宇宙線観測実験(LAAS: Large Area Air Shower)を 行っています.HIROSAKI AS Array は LAASグループ内の北端に位置しています.


LAAS観測実験は,宇宙線空気シャワー観測技術と,GPS衛星からの信号 による時刻保障を実現した1マイクロ秒(0.000001秒)の時刻同時性の確保によって,日本国内の 最長で約900kmの基線長を有する観測装置群を構築し,実験テクノロジーとして,ユニークかつ 合理的な取り組みに成功しました.
 (a)大広域での同時性,
 (b)比較的小規模の同時性,
 (c)時空間相関を伴う同時性・同方向性,
などを研究対象とする宇宙線観測システムです.

何百万もの観測データから不思議な事例を探し出して,それらがやってきた宇宙の彼方について, あれこれ考えてみませんか?

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高エネルギー宇宙線のシミュレーション

○ 高エネルギーの宇宙線μ粒子のシミュレーションをしています.

超高エネルギーμ粒子のシミュレーションプログラムをモンテカルロ法を用いて開発しています. 多くの研究者に利用されている既存のプログラムGEANTなどでは,加速器のエネルギー領域まで しか対応していないので,超高エネルギー領域では独自に作成する必要があります.

μ粒子は相互作用により,エネルギーが減衰します.
相互作用には,(1)制動輻射,(2)直接電子対創生,(3)核相互作用, (4)電離損失などがあります.
これらの相互作用を考慮してエネルギー減衰のすべての過程を計算します.

次のグラフは,初期エネルギー10の18乗eV(電子ボルト)で,10の9乗eVになるまで シミュレーションした結果です.
横軸は進んだ距離(g/cm^2),縦軸はエネルギー(eV)です.

すべての反応過程を計算しているので,(1)(2)(3)の反応がどの地点で, どれだけのエネルギーの反応をしたかがわかります. 横軸は反応が起こった地点,縦軸は初期エネルギーに対する反応によって失ったエネルギーの 比率をあらわします.


制動輻射


直接電子対創生


核相互作用


○ ニュートリノを観測するための観測器シミュレーションの準備研究をしています.

ニュートリノを観測するためには物質と反応して出てきた粒子を観測することで行っています. しかし,この反応は大変起こりにくく,加速器で人工的に作られたニュートリノの場合, 水の中を1億キロメートル走っても物質と反応するのがわずか1回程度というくらい起こりにくいです. 1億キロメートルと言えば太陽から地球までの距離くらいです. それだけ走っても1回程度しか反応しないニュートリノを観測するのは大変難しいです. 実際この観測をする観測器を設計するにあたり,あらかじめコンピュータ上でシミュレーションが 出来れば大変役に立つことが考えられます. その観測器のシミュレーションの研究を進めています.

現段階では観測器に電子とμ粒子の射出される様子を表示するアプリケーションの開発を行っています.

粒子は走っていると,電磁散乱という現象が起こります. これは荷電粒子が原子核の近くを通るとその原子核の相互作用によって進行方向が変えられる現象の ことを言います.この電磁散乱はエネルギーが低くなるほど大きい散乱を起こすようになります. そのため,静止エネルギー(質量)が大きいミュー粒子は大きく散乱を起こす前に消滅し,逆に電子は 静止エネルギーが小さいため, 静止エネルギーに近づくと大きく散乱するようになります.
ミュー粒子の様子 電子の様子

今現在Javaによるアニメーション表示のアプリケーションを作成しています.


○ 地球の裏側から飛来する上向きニュートリノのシミュレーションを行っています.

これについては,昨年インドでの宇宙線国際会議で発表してきました. (水に中ったか,4年ぶりの外国での緊張のためか,下痢になってたいへん! 思い出したくない)


インド・Pune大学の敷地への入り口.ここから10分くらいバスで森(ジャングル?)を進んで会場に着きます.


国際会議の主会場.


このときの論文はこちら( pdf ファイル )をご覧ください.
さらに詳細に関してはこちら( arXiv:hep-ex/0505020 の pdf ファイル ) をご覧ください.


◎ 「バイカル湖で超高エネルギー宇宙ニュートリノ観測」という夢物語

そもそもニュートリノのシミュレーションは,バイカル湖で超高エネルギーの宇宙ニュートリノを観測 したいという夢物語から始まりました.  この夢物語については弘前大学学園だより106号に書きましたので こちらをご覧ください.


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TL画像処理

○ 微弱な熱蛍光(TL)の発光動画の画像処理をおこなっています.

熱蛍光物質を利用した新しいタイプの放射線検出器(TLシート) を用いて未知の暗黒物質(ダークマター)や超重粒子の探索を行なっています. TLシートから未知粒子の痕跡を読み取るには,TLシートからの微弱な発光の様子を効率 よく解析する必要があります. この微弱な光はイメージ・インテンシファイヤにより輝度増幅され,映像にはノイズ輝点が 多数含まれているため,目標とする対象映像を見えにくくしています. このノイズを画像処理で軽減させる処理方法を開発しています.
元画像 2値化画像
・単純加算
加算する.

・SPS検出
奇数正方形の窓(3×3画素,5×5画素,7×7画素・・・) を当て,中心点の輝度が周りの点よりも高ければ,0xFFを入れている.
加算画像 SPS検出
・アダマール変換
アダマール変換して加算する.

・広域加算法
連続する数枚のフレームのうち,あるフレームを中心にした前後数枚に関して, ある座標に信号があるとき,それらのフレームの同じ座標から一定の範囲内に信号が あった場合,その座標に0xFFをいれる.    
アダマール変換 広域加算法
・同位差分法
連続する3枚の画像について,初めのフレームのある点の信号がNであった場合, 次のフレームとその次のフレームの同じ座標がN+K,N−Kであった場合,その 座標に0xFFを入れる.

・加算分割法
処理する画像がN枚であるとき,画像をM分割しN/M枚ずつ加算ていく. その際,Mの値によって決まるKという閾値以上の値が見られた場合,0xFFを入れる.
同位差分法 加算分割法

これがうまく行けば,すでに記録されている微弱映像の解析精度の向上も期待できます. 同一フレーム内の輝点は,目標光源からの輝点か,あるいはノイズによる輝点かを判断することは 難しく,これに対して目標画素の近隣の画素,及び目標フレームの前後数フレームまでも考慮する 処理を試みています.その後のコンピュータ性能向上と廉価,及びさまざまな画像処理機器の進歩 によって,懸案事項であった微弱熱蛍光のような,極めて微弱な発光画像が伴っている「ランダムノイズ 」の除去方法について研究しています. またこの研究により,暗視カメラ映像の解析,生物発光・植物発光の解析,きわめて弱い天体の発光映像の 解析になどにも役立つと考えられます.

TLシートは,イタリア・グランサッソ(ローマの北東約150km)の地下観測実験所(昨年夏に一部回収済)や, イタリア・フランス国境のモンブラントンネル内の実験所などでも設置し,基礎データを得ています. 昨年末には弘前大学内にも設置して観測をはじめています.


The Gran Sasso National Laboratories, Istituto Nazionale di Fisica Nucleare, Italy


トンネルに向かう手前の高速道路のパーキングにて


The Gran Sasso. この山脈を貫く高速道路のトンネル最深部に宇宙線地下観測施設(LNGS)があります.


LNGS の Hall A に LVD(Large Volume Detector)実験装置(ニュートリノ及びμ粒子観測)が設置されています.
このLVD装置の間にTLシートスタックを設置し,未知の暗黒物質や超重粒子の探索実験をしています.


モンブラントンネル内の実験については,弘前大学学園だより94号に書きましたので
こちらをご覧ください.

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弘前大学 理工学部 物理科学科 助教授 高橋信介
(2006年学科構成変更により電子情報システム工学科から移りました)

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