弘前大学理工学部地球環境学科地圏環境学分野堀内研究室

2008.7.8 堀内一穂

過去約千年間の太陽活動変動を南極ドームふじアイスコアの分析により復元


地球気候変動との関わりで,過去の太陽活動―すなわち太陽放射や太陽磁場強度の変動が注目されている(図1).太陽活動は,太陽の黒点数と良い相関を示すことが知られているが,黒点の観測記録は西暦1600年程度までしか遡ることができない.それ以前の太陽活動変動を知るためには,年輪中の炭素14やアイスコア中のベリリウム10を分析することが必要とされる.


気候絵変動の要因

図1:地球気候を変動させ得る主な要因の概念図.人類誕生以降の過去数百万年間では,熱循環や炭素循環などの地球システム自身の変化や地球軌道要素が気候変動の主因とされているが,太陽活動や宇宙線変動の貢献も無視できない.図は堀内(2008)より3)


弘前大学大学院理工学研究科地球環境学科)の堀内研究室では,東京大学タンデム加速器研究施設(MALT)国立極地研究所などとの共同研究により,南極ドームふじ観測基地から得られたアイスコア(ドームふじアイスコア)中のベリリウム10を分析し,西暦700年から1900年の太陽活動を復元することに成功した1)


宇宙線と大気との相互作用

図2:宇宙線と大気との相互作用を示す概念図.例えば太陽活動が活発な時期には,太陽磁場の強度が上昇することにより地球大気に到達する銀河宇宙線が弱くなり,その結果ベリリウム10や炭素14の生成率が減少する.また,銀河宇宙線や太陽からの紫外線の強弱は,高層大気の熱分布や雲の形成の変化などを通じて,気候システムに影響し得ると考えられている.図は堀内(2008)より3)


ベリリウム10や炭素14は,宇宙線と大気との相互作用により生成する宇宙線生成核種と呼ばれる物質である(図2).太陽活動が活発な時には,太陽磁場の強度が上昇することにより地球大気に到達する銀河宇宙線が弱くなり,その結果ベリリウム10や炭素14の生成率が減少することになる.他の大陸から隔絶された南極内陸域から回収されたドームふじアイスコアは,過去のベリリウム10の増減を連続的に復元し,その結果に基づいて太陽活動の変動史を知るために,理想的な試料と言える2),3)


過去千年間のベリリウム10変動記録

図3:ドームふじアイスコアから得られた過去千年間のベリリウム10変動記録1).図中では,単位面積あたりの年間降下量(フラックス)で表現されており,樹木年輪から復元された炭素14の生成率変動とあわせて示されている.過去千年間では,4つの大きな太陽活動の極小期(グランドミニマ)が知られており,それぞれオールト極小期(西暦1010〜1050年),ウォルフ極小期(西暦1280〜1340年),シュペーラー極小期(西暦1420〜1540年),マウンダー極小期(西暦1645〜1715年),及びダルトン極小期(西暦1795〜1820年)と名付けられている.ドームふじアイスコアのベリリウム10 も炭素14の生成率も,図中に陰で示した4つの極小期にて,明瞭に増大している.


今回行われたドームふじアイスコアの分析結果からは,有名なマウンダー極小期をはじめとする4つの太陽活動の極小期(グランドミニマ)が,ベリリウム10の増大期として明瞭に検出された(図3).また,ベリリウム10の変動と年輪中の炭素14の変動が,これまで期待された以上に良く一致していることも明らかになった(図3).


ドームふじアイスコア


図4:ドームふじアイスコアには過去72万年間の雪氷堆積層が連続して保存されている.これを対象にベリリウム10を分析することで,太陽活動変動などに由来した過去72万年間の宇宙線変動を復元することができる.図は堀内(2008)より3)


ドームふじアイスコアは過去72万年間の雪氷堆積層を連続して保持しており,従って今後より古い時代にまで遡って太陽活動変動を復元することが可能となる(図4).また本研究にて判明したベリリウム10 と年輪中の炭素14との変動の良い一致は,アイスコアと年輪という異なる複数の古気候記録を,宇宙線生成核種の変動に基づいて,高時間分解能で比較できることを示す.これらの成果は,国際誌「クォーターナリー・ジオクロノロジー」の8月号に掲載された1)


1) Horiuchi, K., T. Uchida, Y. Sakamoto, A. Ohta, H. Matsuzaki, Y. Shibata, H. Motoyama (2008) Ice core record of 10Be over the past millennium from Dome Fuji, Antarctica: a new proxy record of past solar activity and a powerful tool for stratigraphic dating. Quaternary Geochronology, 3, 253-261.

2) Horiuchi, K., A. Ohta, T. Uchida, H. Matsuzaki, Y. Shibata, H. Motoyama (2007) Concentration of 10Be in an ice core from the Dome Fuji station, Eastern Antarctica: preliminary results from 1500-1810 yr AD. Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B, 259, 584-587.

3) 堀内一穂(2008)加速器質量分析計を用いて宇宙線と地球環境の変動史を探る.放射線と産業,118,33-38.



※このページの内容は「東奥日報」と「陸奥新報」に紹介されました.詳しくはこちら


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