磁性

鉄はなぜ磁石に吸い付けられるのか。 その原理の探求に取り組んでいます。

強相関電子系(磁性と超伝導)
バルク磁性

現代の磁性物理に突きつけられている2大課題は(1)強磁性の起源の解明(100年来の難問)と(2)超伝導と磁性を包含した強相関電子系における3d電子と4f電子の理解です。 磁性は超伝導を破壊しますから,超伝導と磁性は相反する性質のものと信じてきました。 ところが自然は人知の及ばぬ奥深いものだったのです。 電子間に働く強い電気的反発力(電子相関)は,磁性の発現にのみ重要なのではなく,超伝導の発現にも深く関わっていることが最近になってわかりました。 人間は意表をつかれました。 自然は長い間人間を騙しつづけていたのです。

私たちは3d電子や4f電子の性質を解明するために,Cr,Fe,Niの3d遷移金属やLa,Ceの4f希土類金属の光電子分光研究を行っています。 図は代表的な強磁性体であるNi金属の光電子スペクトルですが,3d主線はバンド構造を反映したものです。 これは,3d電子が,その間に働く強い電気的反発力のために,互いに牽制しあって,接近しないように(時間平均的には)一定の距離を保ちながら,整然と運動している状態です。 しかしながら,瞬間的には平均からの乱れ(ゆらぎ)は必ずあります。 この電子相関効果の現われが光電子スペクトルのサテライト構造です。 私たちは長らくこのサテライト構造を調べてきました。 1S構造はごく最近発見されたものです。 サテライト構造を解析することによって裏に隠された3d電子の真の姿を知ることができます。

表面磁性

清浄表面の場合,真空と接している最外部原子層ただ1層を表面といいます。 強磁性金属NiやFeの表面では,強磁性が消失しているとか,逆に増強されているとか,諸説紛々でした。 一方,反強磁性金属Crの(100)表面では,バルク磁性と違って,強磁性状態になっていると理論的に予言されていました。 私たちの光電子分光実験では,NiやFeの表面の磁性がバルクのとは違っているという証拠は出てきませんでした。 Cr(100)表面の強磁性については,世界に先駆けて,これを完全に否定する実験結果を出しました。 このように,私たちは種々の磁性体表面の電子状態を光電子分光によって調べる研究を行っています。

超伝導

1986年,銅酸化物高温超伝導体が発見されました。 当初,転移温度以上で金属なのに,その光電子スペクトルにはサテライトがある上にフェルミ端のない摩訶不思議な物質であり,固体物理学の一大革命期の到来と,異常さを,国の内外で,ことさらに強調し喧伝され,奇妙奇天烈な理論が頻発されていました。 私たちはちゃんとした光電子分光実験を実施してフェルミ端の存在を確認,サテライトはNi金属にもあることを指摘し,Ni金属と同程度に電子相関は強いがバンド理論は成り立っていることを初めて明らかにしました。 私たちは超伝導体を含めて酸化物の電子構造の研究をしています。

加藤 博雄、任 皓駿