アイザット/ブラッドショウ/サーベージ研究グループでは、大環状化合物に発色団を化学修飾したアームドクラウン化合物を用いた、蛍光性化学センサー(Fluorescent Chemosensors)の研究を、現在、精力的に行っています。
上の写真は、アイザット/ブラッドショウ/サーベージ研究グループの論文が、世界で最も権威ある有機化学の雑誌の一つである、アメリカ化学会の The Journal of Organic Chemistry の2001年7月号の表紙をかざった時のものです。こアームドクラウン化合物は、合成を担当した大学院生のトッド(Todd Bronson)の名前から、研究室内では、通称 "TB3"(トッド・ブロンソンの合成した3個目の蛍光性化学センサーという意味) と、呼んでいましたが、亜鉛イオンが無い時は、無蛍光ですが、亜鉛イオンが存在すると強い蛍光を示し、しかも、TB3:亜鉛イオン=1:1とTB3:亜鉛イオン=1:2では、発光極大波長が変わる、つまり色が変わるという面白い性質を示しました。この論文は、大変注目され、米国では、専門雑誌の他、一般の新聞やTVでもとりあげられました。丁度、私がいた時も、ブラッドショウ先生らが、TVの「ナショナルジオグラフィックチャンネル」の取材を受けていました。
多くの金属イオンの生物学的な重要性は、よく知られています。しかしながら、金属イオンが、ある濃度で、環境中、給水、食物連鎖、工業的な化学薬品や製品において存在する場合に、有毒となることがあります。そのため、それら金属イオンの認識、センシング、選択的な輸送のできる様々な、センサー分子の開発には、多くの努力がはらわれています。優れたセンサー分子をつくれば、水溶液、或いは非水溶液中で、これら金属イオンの濃度を、定量的に検出でき、商業的な価値の金属イオンの廃液からの回収、環境におけるある有毒な遷移金属イオン等の除去できるようになります。
この研究の有用性についての一例を、もっと簡単に説明すると以下のようになります。「もし、ある湖が有害物質で汚染されていたとします。その湖の水質検査は、今でも、高価な機器を使い、時間をかければできます。しかし、もっと簡単に、湖の水を採取して、その場で、蛍光性化学センサー分子を少量加えることにより、発光の有無や色によって、有害物質の種類や濃度がわかれば、どんなに素晴らしいことでしょうか。」と言うことです。
この研究では、レセプター-基質相互作用によってシグナル生じるサブユニットを持つ特別な金属イオンレセプターを開発し、イオン選択性の優れたセンサーをデザインすることが重要です。
そこで、私は、米国での1年間、大学院生のトッドと組み、トッドが合成し、私が蛍光測定を担当し、TB3を初めとする、まだ報告例の少ない、亜鉛イオン、カドミウムイオンに対する、新規な蛍光性化学センサーについての研究を行いました。ここでは、その内容については、詳しく書きませんが、以下に、関係する論文を、示しておきますので、興味の有る方は、是非御覧下さい。