私のいた、BYUの化学・生化学科には、幸か不幸か日本人が1人もいませんでした。そのため、研究室での日常会話は、もちろん英語となります。もしかしたら、これを読んでいる人の中には、「大学の教員は皆、英語がペラペラ」と、思っている人がいるかもしれません。確かに、私達理科系の大学教員は、普段、英語で書かれた文献を読み、英語で論文を書いています。しかしながら、「読む」「書く」と「聞く」「話す」は、大変違うものですので、なかなかそう簡単にはいきません。ここでは、私が体験した英会話に関する、幾つかのエピソードを、書こうと思います。
○「R」の発音
私のいた研究室には、「ランディ(Randy)」というカリフォルニア出身の大学院生がいたのですが、私が、例えば「Where is Randy?(ランディーはどこ?)」と誰かに訪ねると、決まって「Who?(誰?)」と聞き返されました。何度か「Randy」だと言うと、やっとわかってくれて「Oh! Randy.(あっ、ランディーか)」と気がついてはくれましたが、よく言われるように「日本人の "R" の発音は、やっぱりだめなんだ。」と思ったものです。しかしながら、日がたつにつれて、舌を引くような感じで「Randy」と言うと、相手が理解してくれることがわかったので、正しい発音かは別として、それ以降、そのように発音するようにしました。
○「Jun has gone.」って何?
米国人は、とにかくよく声をかけあいます。それは、知っている人、知らない人にかかわらず、目が会えば、ニコッと微笑んで「Hi!(やあ!)」「Hello!(今日は!)」「Morning.(おはよう)」「How are you?(元気?)」と声がとんできます。特に、知り合いの場合は、名前を呼ぶことが多く、私の場合ですと「Hi! Jun.(やあ、淳!)」とか「Jun, how are you?(淳、元気?)」或いは、単に「Jun(淳)」といった感じでした。ところで、この挨拶のなかで、渡米直後、意味のわからいものが1つありました。それは、「Jun has gone.(淳は行った。)」と言う言葉です。中国人の大学院生 インニンに聞いてみると「How are you?(元気?)」と同じだというのですが、何故、「Jun has gone.」が「How are you?」なのか疑問に思っていました。この謎を解いてくれたのが、BYUの学生で、ベンソンビルディングに掃除のアルバイトに来ていた日本語の話せる日系ブラジル人の女の子ナオミです。彼女は、大笑いをして教えてくれたのですが、私が「Jun has gone.(淳は行った。)」と思っていたのは「Jun, how is it going?(どう?元気?)」、「how is」はつなげて「how's」、米国人は「it」をあまり発音しないので「Jun, how's going?(淳、どう?元気?)」と言っているのだということでした。この様に、簡単な言葉でも、耳から入ってくる本物の英語に対しては、当初なかなか対応できませんでした
左の写真の右端がインニンで左は博士研究員のシャオティー、いずれも中国人です。
右の写真はBYUの学生さん達と日本食レストランに行った時のもので、左から3番目が「Jun has gone.」と「Jun, how's going?」の違いを教えてくれた日系ブラジル人の女子学生ナオミです。
○米国人は「How do you do?」を使わない
日本の英会話の本を見ると、「初めまして」として「How do you do?」とよく記載されています。しかしながら、渡米して多くの米国人と会いましたが、あまり「How do you do?」と言う人はいませんでした。聞いてみると、「How do you do?」は、米国人から見れば、堅苦しいイギリス英語で、殆どの米国人、特に若い人は使わないということでした。米国人は、大抵「Nice to meet you.(お会いできて嬉しいです。)」と声をかけてきます。
米国は、移民の多い国ですので、実は、結構英語の話せない人も暮らしています。しかし、折角暮らすのなら、やはり英語を自由に使って話しをしたいものです。米国のテレビ番組は、英語のまだ話せない人のために、全て英語の字幕が出るようになっています。耳で聴きながら、目でも文字が確認でき、大変良いことだと思いました。私は、海外ドラマが好きなので、米国にいる時は、趣味と耳ならしの実益を兼ねて、よくドラマも見ましたが、日本で海外ドラマが放送される際も、吹き替えや日本語字幕の他に、是非英語字幕のもの(スカパーで一部放送中)をもっと多く放送して欲しいと思います。
それから、誰にでも声をかける、米国人のフレンドリーさは、日本人から見て、とてもうらやましく、ここちよいものでした。笑顔を向けると、笑顔が返ってくる。「Hi!」と言えば、「Hi!」と返してくれる。とても素晴らしいことだと思います。日本では、見知らぬ人を見て、ニッコっとしたら、目をそらされるか、人によっては「何を見ているんだ」と文句を言って来るかもしれません。日本人は一般的に皆シャイですが、勇気をもって誰にでも、声をかけれるような社会にしたいものですね。