
このKretschmann配置の薄膜は、数nm〜10数nmと非常に薄いため、完全に一様な膜を形成することは困難です。そのため、約5nmまでの膜厚の場合、金属微粒子が島のように存在する「Island状膜」、約15nm以上はIsland状膜の金属粒子が繋がっていった状態の「欠陥のある連続膜」となります。
Kretschmann配置がなぜ赤外吸収増大を起こすかについては、金属の連続的な膜におけるSurface Plasmon Polariton、或いは、Island状の膜におけるCollective Electron Resonanceという二つのEnhancement Mechanismによるものが、以前から考えられていました。しかし、Kretschmann-ATR法によって励起される電場の到達距離が非常に短いことから、前者の説はすでに否定されており、現在は、入射光エネルギーの一部が金属薄膜内部のの局在電場の増大に消費されることに原因があると考えられています。実際にこの考え方により、測定結果に対する理論的な裏付けが可能となりました。
しかし、この考え方のみでは説明できない、吸収スペクトルの挙動も見つかっています。
これまでのKretschmann-ATR法における赤外吸収増大の研究では、Island状、欠陥のある連続膜に対してのみ、吸収スペクトルの測定が行われてきており、この部分に関しては理論的な裏付けが取れています。しかし、膜厚が5〜15nmの範囲、Island状膜と欠陥のある連続膜の中間形態である場合、ある特定の基準振動による吸収ピークの形状が、入射角に依存して複雑に変化し、その原因が明らかになっていません。
赤外吸収増大機構を統一的に解明するためには、全ての膜厚領域における吸収スペクトルの挙動が理論的に裏付けられなければなりません。そのため、本研究ではKretschmann-ATR法における金属薄膜が、Island状膜、欠陥のある連続膜の中間形態をとる、膜厚5〜15nmの領域の測定による吸収スペクトルの複雑な挙動に対し、理論的裏付けをもって赤外吸収増大機構を明らかにすることを目的として、測定結果の吸収スペクトルの再現を試みました。