2008年6月13日に青森県津軽地方で発生した
竜巻の調査記録

2008年6月13日に青森県津軽地方で竜巻が発生し、 住宅やリンゴ園に大きな被害が出ました。 発生時の気象データに基づき発生要因について考察を行いましたので、 被害地の状況とともに報告します。 情報は逐次追加します。

このページは、2008年6月24日の 陸奥新報で取り上げられました。

文責: 石田 祐宣
2008.06.17.作成/2008.06.20.改訂


[ 被害概要 (場所 被害状況)| 被害時の気象場 (天気図 気象衛星画像 合成レーダー AMeDAS)| 防災対策 ]


被害概要

2008年6月13日午前10:40頃に藤崎町に竜巻が発生し、 1〜2分間かけて横沢地区・中野目地区を東北東の方向へ約2km移動した。 竜巻によるけが人は幸いなかったが、 被害は家屋5棟(半壊2棟, 屋根など一部損壊3棟)、ビニールハウス8棟、リンゴ倒木123本に上った (藤崎町役場調べ, 6月16日現在)。 飛散した物体が電線に掛かり、現場付近は一時停電した。 現場の被害状況から、竜巻の強さを表す 藤田スケール (リンク先最下方) はF1(風速33〜49m/s)以上とされる。 【情報源: 現場調査及び 青森地方気象台、 報道機関と藤崎町・板柳町役場の発信情報】

場所

現場調査は、発生日の15:30〜17:30にかけて行った。 現場調査の結果、被害の中心は東経140度29分57.0秒, 北緯40度40分56.8秒(世界測地系)であった。 この場所を地図に表したものが図1である。 詳細な地図は、例えば上記の位置情報を 電子国土ポータル(地図を見る) へ入力することで見られる。 この地点では住宅の屋根が筐体ごと飛ばされた。 日本海側では沿岸海上で発生する場合が多いが、今回は津軽平野のやや奥で発生した。 周辺にはリンゴ園と水田が広がっている。

被害地の位置図

図1: 被害地と周辺の地形図. 星は被害地点、黒丸はAMeDAS, 四角は大学関連施設(弘大: 弘前大学本部, 農場: 農学生命科学部附属藤崎農場)の位置を表す.

被害状況

現場のパノラマ写真

図2: 被害領域を南東方から見た合成パノラマ写真. 目撃情報から、竜巻は写真の左側から右側へ移動したものと考えられる. [1]は最も被害が大きかった家屋, [2]は屋根のトタンがほとんど飛んでいた家屋, [3]よりも東側ではリンゴの倒木が渦巻き状に見られたり、ビニールハウスが倒壊していた. (写真をクリックで拡大)

図2中[1]の家では屋根の筐体ごと飛ばされ、 窓ガラスも大半が割れてしまっており、被害の大きさを物語っていた。 水田には、竜巻によって飛ばされたトタンの破片や折れた木の枝、 農作業用具などが落ちていた。 現場に到着時には大きなトタンなどは既に取り除かれていた。 図2には写っていないが、 東方では大規模なリンゴの倒木やビニールハウスの3棟の倒壊が見られた。 倒木の方向は円を描くようになっており、 またハウスの潰れている面が南北で異なることから、 明らかに曲率半径の小さい竜巻が通過したことがうかがえる。 被害状況には見落としもあるが、 図3〜7に現場で確認した状況の詳細を載せた。 全ての写真はクリックすると拡大される。

東奥日報の読者から報告された貴重な 竜巻の写真をいただきました。

家屋被害1 家屋被害1裏側

図3: 屋根が飛ばされた家屋. (左)表側, (右)裏側.

家屋被害2 家屋被害3

図4: 屋根のトタンが飛ばされた家屋.

リンゴ被害(単独) リンゴ被害群

図5: リンゴ樹の被害. (左)単独で抜けた木, (右)複数の木が別々の方向に抜けたり折れている.

ビニールハウス(南) ビニールハウス(中央)
ビニールハウス(北)

図6: ビニールハウス3棟の被害. 潰れている面は南側のハウスは南面(上左図)、中央のハウスは中央(上右図)、 北側のハウスは北面(下図)であり、 中央のハウスの真上を竜巻の中心が通ったものと思われる.

東側から見た被害領域

図7: 東側から見た被害領域. 遠方の山は西方向に位置する岩木山. ビニールハウスの地点から約200m東に離れているが、水田に飛ばされた落下物がある.

上空から見た被害全域

図8: 上空からみた被害全域. 矢印は竜巻の進行方向(西南西→東北東)で、特に被害が大きかった地域(距離約700m). 被害状況より、実際には1km以上西側で発生したことがわかっている. (青森県防災消防課提供の写真[午後1時頃撮影]に説明)

上空から見た竜巻発生地点

図9: 上空からみた竜巻の大きな被害が出はじめた地点のビニールハウス破損. (青森県防災消防課提供)

上空から見た家屋の被害状況

図10: 上空からみた家屋の被害状況. 黄色の丸囲みはトタン(屋根板)が飛散、赤色の丸囲みは屋根ごと飛散、四角囲みはそれぞれ落下地点. ただし、飛散元が特定できないものもある. (青森県防災消防課提供の写真に説明)

上空から見たビニールハウスの損壊状況

図11: 上空からみたビニールハウスの損壊とリンゴの大規模倒木. ビニールハウスの右側はリンゴの木で、 上部から見ると倒れていない木も多くの葉がなくなっていることがわかる. (青森県防災消防課提供)

被害時の気象場

被害前の6月13日午前9時には、500hPa(地上5500m)に氷点下21℃の寒気をともなった低気圧が 津軽海峡西方の日本海をゆっくりと南下しており、広い範囲で大気が不安定な状況だった。 「ゆっくり南下」という表現を用いたが、高層天気図を見ると切離低気圧になっており、 12日夜から13日夜にかけてほとんど停滞していた。 そのため、13日は1日中落雷や降雹が発生した。 地上天気図では低気圧の中心気圧もあまり低くなく(1004hPa)、 前線をともなっていないため、地上天気図を見ただけでは危険を察知しにくい。

青森地方気象台は、上空に寒気が入っていたことから雷注意報を発令していたが、 基準には達していなかったため竜巻注意情報は発表されていなかった。 レーダーエコー強度(降水強度に相当)は10:10頃から急激に発達しており、 竜巻予報の難しさがわかる。 いくつかの発雷に関する指数について、 秋田と三沢の高層気象データから計算した結果を下表に示す。

表: 2008年6月13日9時の高層気象データから計算された雷に関係する指数. 雷が発生する可能性を示す数値は強調されている. 指数の指標は「雷雨とメソ気象」(大野久雄 著)による. (ワイオミング大の 解析データを使用)

指数秋田三沢指数の指標
SSI-1.241.46秋田で雷雨の可能性あり.
LIFT-3.781.78秋田で激しい雷雨の可能性あり.
KINX33.7028.50 雷雨の可能性は、秋田: 60-80%, 三沢: 40-60%
TOTL54.8051.00 秋田は広域で並程度の雷雨の可能性, 三沢で散発的な激しい雷雨の可能性あり.
CAPE723.040.85対流有効位置エネルギー
CIN0.0-171.66対流抑制

SSI: ショワルターの安定指数, LIFT: リフティド指数, KINX: K指数, TOTL: トータルトータルズ指数, CAPE: 対流有効位置エネルギー, CIN: 対流抑制.

天気図

地上天気図08061312

図12: 地上天気図. 2008年6月13日12時. (気象庁のページより引用)

500hPa高層天気図

図13: 500hPa高層天気図. 2008年6月13日9時. (HBC(北海道放送)が収集した資料の一部を使わせていただいた)

気象衛星画像

赤外画像と可視画像より青森県西側に背の高い積乱雲ができあがりつつあることがわかる。

ひまわり赤外画像 ひまわり可視画像 ひまわり水蒸気画像

図14: 気象衛星ひまわり(MTSAT-1R)の画像. 2008年6月13日10:30. (左)赤外, (中央)可視, (右)水蒸気. (気象庁のページより引用)

合成レーダー

日本全域

降雨域は限定的で、 津軽海峡を中心に渦を巻いている様子がわかる。 青森県津軽地方から陸奥湾方面に局所的に強い降雨域が見られ、西に移動している。

10:00-11:00までの降水強度のコマ送り動画はこちら。 図の上部に書かれている時刻は世界協定時(日本時間は+9時間)。

合成レーダー画像 合成レーダー画像

図15: 日本域合成レーダー画像(降水強度). 2008年6月13日(左)10:40, (右)10:50. 星印は竜巻発生地点. (レーダーは気象庁データを使用)

合成レーダー画像 合成レーダー画像

図16: 日本域合成レーダー画像(エコー頂高度). 2008年6月13日(左)10:30, (右)10:40 (図15の10分前). 星印は竜巻発生地点. コマ送り動画はこちら. (レーダーは気象庁データを使用)

竜巻発生地周辺

コマ送り動画を見ると、竜巻発生地点の西側で10:10頃に強いエコーが発生し、 発達しながら東へ移動し現場付近を10:50頃通過している様子がわかる。 現場付近を通過するエコーは、 五所川原から青森にかけて移動する強いエコーと連続したものか不明だが、 つながっていたとするとフック型エコーのフックの部分にも見える。 竜巻はこのエコーの積乱雲から発生したものと思われる。

10:00-11:00までのコマ送り動画はこちら。 図の上部に書かれている時刻は世界協定時(日本時間は+9時間)。

合成レーダー画像
合成レーダー画像

図17: 竜巻発生地周辺の合成レーダー画像(反射強度). 2008年6月13日(上)10:40, (下)10:50. 星印は竜巻発生地点. (レーダーは気象庁データを使用)

合成レーダー画像 合成レーダー画像

図18: 竜巻発生地周辺の合成レーダー画像(エコー頂高度). 2008年6月13日(上)10:40, (下)10:50 (図13の10分前). 星印は竜巻発生地点. コマ送り動画はこちら. (レーダーは気象庁データを使用)

地上場

地上風の収束(シア)は渦を生み、竜巻発生のトリガーとなる。 そこで、現場に隣接するAMeDASのデータを解析した。 図11ではわかりづらいが、 10時頃から現場より北側の五所川原と青森大谷(青森空港)では 冷たい北寄りの風、南側の弘前と黒石では南寄りの比較的暖かい風が吹いており、 非常にローカルな寒冷前線が形成されていた可能性がある。 またレーダーデータを見る限り上空は全般的に西寄りの風であり、 鉛直シアーも大きいことがわかる。 これらの風の収束とシアーが竜巻を発生させたものと思われる。

06:00-12:00までのコマ送り動画はこちら。 図の上部に書かれている時刻は日本時間。

AMeDAS 10:40 AMeDAS 10:50

図19: 竜巻発生地点付近のAMeDASの風・気温場. 2008年6月13日(左)10:40, (右)10:50. 星印は竜巻発生地点. 矢羽根は長い羽根1本が2m/s, 短い羽根は1m/s. 各地点右脇の数値は気温. 青森のデータは1時間値のみ入手できた. 他に、10:00, 10:10, 10:20, 10:30のデータ。 (AMeDASデータは気象庁のページの値を使用)

防災対策

気象庁は2008年3月26日より、竜巻が発生する危険性が高いとき雷注意報に付随して 竜巻注意情報 を発表しています。 リーフレット「竜巻から身を守る 〜竜巻注意情報〜」 に注意する点がまとまっているので、重要な点をピックアップします。

竜巻とは...

発達した積乱雲の近づく兆しとは...

「竜巻」が間近に迫ったら...



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