八甲田山系猿倉岳の樹木被害
2003年8月24日更新: 過去の被害状況に間違いあり。 (図2(a)一旦不掲載)
1. 環境庁自然公園指導員 久末正明氏からの報告

「猿倉岳中腹*で樹木が強風によって被害を受けている。その状況は異常で、太い幹や枝が100m近く吹き飛ばされている。今回だけではなく、1994年にも同じようなことが起こっている」
という報告を受けた。被害が起こったと思われる期間は4月23日以前数日で23日朝に寒冷前線が通過している。(発見日4月23日、報告日4月24日。)
久末氏は、非常に局所的(半径100m程度)に被害が限定されているため、例えばダウンバーストのような風が吹いたのではないかと考え、もしそうならば、被害領域は春先の山スキーのコース上であり、登山道にも近いことから、登山者に注意を出すことを希望している。
なお、現場付近では1994年にも同じようなことが起こっているそうだ。

猿倉岳*: 40deg 36.7'N, 140deg 53.5'E, 1353.6mASL(山頂), 現場は山頂より約300m東方で標高1200m付近.
1/25,000地形図で見ると, 山頂付近の斜度30度, 現場付近20度, 斜面平均斜度は24度.

2. 現地調査

現地調査を2000年4月29日に行ったので、調査結果の概要をここにまとめた。

2.1 現場の地形
 

図 1(a) 八甲田山系の地図 (PDFファイル 908k)
図1(b) 猿倉岳 (PDFファイル 631k)

図1 のように、猿倉岳は八甲田山系の東側に位置しており、被害地域は猿倉岳の比較的緩やかな東南東斜面に位置している。
被害地点は2つの稜線に囲まれた平均斜度10度程度の斜面上である。
国土地理院の数値地図50mメッシュ(日本II)を使用
 

図2(a) 斜面正面からの図
図2(b) 斜面断面概念図 (木を大きく描写)

図2(a) の横線で囲まれた領域で被害が起きている。 また、斜面は図2(b)のように階段状になっている。
図2(a) の新しく発見された領域の中でも、違う時期に起こったと思われる被害も存在した。
注: 発見者の久末氏より、過去の倒木発見情報に誤りがあるとの指摘 を受けたので、図2(a)は一旦掲載を取りやめています。 (過去に樹木被害があったことには間違いありません。)

2.2 目立った残存被害樹木

調査日の前に積雪があり、積雪の下に被害樹木がある可能性もあるが、調査日に発見でき目立った新しいものだけをここに挙げる。
吹き飛ばされた樹体は全て斜面下方向へ落下している。
実際にはここに挙げるもの以外にも被害を受けた樹体は存在し、折れ口から見てかなり古いものもあり、現象は複数回有ったものと思われる。


3. 風以外に考えられる要因と否定理由
 

4. その他現場の様子

[1] 図2(a)過去にあった被害地(右)(以下<古右>).
[2] 新しい被害地周辺.木の下方の枝が無くなっている.
[3] 斜面下方向.すっぽり開けているのは沼地.94年7月22日にはここで太いアオモリトドマツの幹を発見.
[4] 新しい被害地(以下<新>).倒れる木と倒れない木が存在.
[5] <新>他の折れた木.
[6] 上と同じ.
[7] <新> 左は枝が飛んだダケカンバ.
[8] <新> 他の被害樹.新しく見つかった被害地に近いが、傷は古い.
[9] <新> 比較的急な斜面下にアオモリトドマツの幹を発見.
[10] <新> 上から見ると、他にも飛ばされた枝などが縦方向に散乱している.
[11] <新> 他の幹
[12] <新> 落下していたアオモリトドマツの幹の断面は新しい.断面が下になっていたので何とかひっくり返す.
[13] <新> 散乱した枝.
[14] 斜面下方から稜線をのぞむ.
[15] 落下している枝や幹の方向は比較的一定.
[16] 同上.
[17] 同上
[18] <新> [9]を遠くから.

上空からの航空写真をデーリー東北新聞社に打診中.

5. 飛んだ物体より推測される風速 New

[PDF (13k)] [GIF (9k)]
Fujita and Wakimoto(1981, Mon. Wea. Rev.) を元に、物体が放物線を描いて飛んだことを想定してし、かつ現場が斜面上にある事を考慮して風速を推定した。この推定値が本当ならば、かなり強い風が吹いたことになる。Initial Angleは物体が飛び上がった初期角度を表す。風速の推定はこの角度と、物体の重さでかなり異なる。第1回調査時では物体の重さに不正確さが含まれるため、枝の切れ端等を用いて5月18日に物体の密度を測定した。

防衛大学校の小林文明先生に上記文献を教えていただきました。ありがとうございます。

6. 被害が発生したと思われる時期の気象データ

7. リンク

このページを見た方から頂いたコメント[実際には現場をご覧になっていません]
下館市の例 (気象研究所)
同研究所の赤枝健治氏からも「ダウンバーストの可能性はある」とのコメントをいただきました。

下北半島の屏風山や北八甲田雛岳でも同様の現象が発見される (石田は現場を見ていません)


デーリー東北新聞社(八戸-十和田), 朝日新聞社, 読売新聞社, 共同通信, 青森放送, 毎日新聞社, 河北新報社, 東奥日報社 (およその問い合わせ順) 等から問い合わせや取材がありました。


以上の観察結果から、樹体が運ばれたのは強い風による可能性が高いと思われます。

は、是非石田(ishida@cc.hirosaki-u.ac.jp)まで御連絡下さい。御協力をお願い致します。

いずれにしても、木の枝や幹などが100m程度移動した激しい現象が起きているので、
少なくともこの山の登山者には注意を促したいと考えています。