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<気象大学校 大野久雄先生>

(1) ダウンバーストは平野でも山岳域でも起こります。山岳の場合、福島県南会津群館岩村や早池峰山中でもそれらしい現象が発生しています。

(2) ダウンバーストは積雲または積乱雲(雷雨)の下で発生する強い下降気流です。(日本では、積雲の下で発生することはまずないはずです。)

(3) 雷雨が発生した場合、「雷雨だけで終わるのか、その雷雨がダウンバーストを発生するのか」の違いは、大気中層の乾燥の度合いに一義的に依存します。乾燥している場合、そこを通過する雨や雹が蒸発して周囲の空気から気化熱を奪い、気化熱を奪われた空気は冷えて重くなり下降しますので、下降気流が加速され、地上に到達します。

(4) ダウンバーストは地上に達したあと、そこから突風となって周囲へと発散します。激しい場合は家・大木を倒壊させたりします。したがってダウンバーストの被害域では、木などの倒壊パターンは風が放射状に吹きだしたようなものとなります。今回、こうしたパターンが見られるかが、犯人をダウンバーストしてよいかの決め手の1つになります。 (確認した範囲内では全て斜面下方向へ倒れています。:石田)

(5) 日本の場合、降雹を伴うダウンバーストは、「激しくて、サイズが小さい」という特徴があります。1991年6月27日に岡山市で電柱(51m/s耐風設計)18本を折った負ったのもダウンバーストで、被害域の範囲は500m×500m程度でした。

(6) 激しいダウンバーストの場合、被害域の水平スケールは数km以下がほとんどです。百メートル以下ということもよくあります。

(7) ダウンバーストが発生するのは雷雨の下です。「付近に雷雨があり、雹が降ってきたらダウンバーストに注意」ということは言えます。

(8)参考資料としては、「日本におけるダウンバーストの発生の実態(天気、1996年2月)」、読み物としては「マイクロバースト/ダウンバースト(天気、1993年1月)」が直接役立つと思います。


<北海道大学大学院 理学研究科 上田博先生>

[第1報]
 ホームページを見せていただいた内容からして,ダウンバースト(マイクロバースト)であった可能性は高いと思います.東南東斜面であり,上空が西北西の風であれば,ダウンバーストがきれいな放射状にならず,「樹体は全て斜面下方向へ落下している」ことはつじつまがあうと思います.
 登山者の安全確保のためには,このような事実(現象)があったことを紹介し,大気が不安定になるときには登山を控えるよう注意をうながす必要があると思います.登山を始めてしまった人に対して,ダウンバーストの予測情報を伝達することは至難の業でしょうから.

[第2報]
 雪氷関連の方から、まだ雪崩の可能性もあるのではないかという指摘があることはきちんと検討する必要があると思います.木の枝が折れているのが低い部分に集中している場合,雪崩を考えるのも妥当だと思います.「樹体は全て斜面下方向へ落下している」ことは当然のことになりますので.ダウンバーストの可能性は否定できないので,ダウンバーストであったというためには,雪崩では説明できない証拠を見つける必要があると思います.


<防災科学技術研究所 新庄雪氷防災研究支所 小杉健二氏>

 煙型の雪崩の場合、積雪表面に比べ、ある程度上の方(数m)が衝撃力が大きいと考えられています。煙型雪崩では、密度の高い雪崩の本体と密度の低い(しかし衝撃力は大きな)雪煙層が異なる経路をとることもしばしばあります。樹木に摩擦痕は無いが大きな枝が折れているのは、雪煙層の通過によると考えられないでしょうか。
 ホームページの地図を拝見いたしましたが、樹木の破損のあった地点の上方の斜面はいくらか急になっているようです。そのあたりで発生した雪崩が流れ下ってきたとは考えられないでしょうか。煙型の表層雪崩ならばいったん発生すると傾斜10度程度の斜面でもかなりの距離(数100mから数km)を流れます。現場の上方の斜面は稜線に囲まれているようですが、そのような地形では雪崩の発生も十分に考えられるかと存じます。
(雪崩の形跡が無いかもう一度調べる必要がありそうですね。 :石田)


<京都大学 防災研究所 牛山素行先生>

 条件によっては着雪ではなく着氷による可能性もある。着氷で木の枝などが折れて散乱する可能性がある。発生時の気象条件は明らかで、地表付近の気温が0℃弱くらい、天気は雨またはみぞれで、上層に0℃前後の気温逆転が存在している、というのが条件なので当日の気象条件や、追加写真を見ると当てはまらないかもしれない。(石田が要約しました。)


<気象研究所 予報研究部 中村一氏>

[第1報]
ダウンバーストであると推定できる現地の証拠としては、
1.被害域が比較的円形であること、
2.風向が放射状にひろがっていること、
3.被害発生時に活発な積乱雲があったこと、
4.降雹があったこと
などです。

今回のケースでは1についてはOKです。

2については、倒木被害が斜面下方に向かっているようで、広がっている傾向があったかどうか石田さんの報告では良く分かりません。被害域の中で、個々の倒木の倒れた向きを詳しく調べていただき、放射状に広がっているか、それとも、全て平行に山頂から斜面下方に倒れているのかの違いが明らかになればと思います。(後者の場合、山の地形による山越えの気流の強化の可能性もあります。後述)

3については、寒冷前線通過中なので、現地付近で積乱雲があったことは十分考えられます。気象庁のレーダー、現地の山小屋などの方の聞き取り調査などで、確認していただければと思います。

ただし、寒冷前線の通過前後は、しばしば強風が吹きます。特に前線通過直後は一般に西よりの風が強まります。猿倉岳東斜面で被害があったということは、このような西風が猿倉岳と周辺の地形により、山を越えた時に強化された可能性もあります。いわゆる下ろし風です。猿倉岳にぶつかって強化された西風が、山を越えた後、丁度東側斜面に降りてきて木を倒した可能性もあります。また、山と山の間の峠を吹き抜ける時に強風となり、それが風下の斜面にぶつかったとも考えられます。(猿倉岳の地形を見るとこの可能性は少ないようですが)

4の降雹は激しい積雲活動の証拠となるものです。八甲田山で寒冷前線通過中にそのような現象がなかったか調べていただければと思います。
もし、そのようなことはなく、通常の雪だけならば、ダウンバーストを起こすような激しい積雲活動があったとは考えにくいです。もしそうなら、地形による風の強化の線が有力になります。過去にもあったということは、地形強風の説に有利です。
(4月22日夜中には雷鳴が聞こえたようですが、降雹の確認は取れていません。 :石田)

[第2報]
新しい写真を拝見したところ、現地はかなり広大な斜面だということが分かりました。そうすると、山と山の間を吹き抜けた風が集中した可能性はほとんどないようです。また、山の稜線を越えた強風が上空から降りてきて斜面にぶつかった可能性も、被害域が狭いことから考えにくいようです。ダウンバーストが最も可能性が高いと思います。放射状に倒れていることが確認できれば良いのですが、普通、一般風(周囲の大きな流れ)のなかで、このような小さなスケールの発散上の風が起こると、一般風と同じ方向(この場合は西風、斜面を降りる向き)には風が強化され、反対方向は風がうち消されて弱まります。したがって、倒木などの被害として見えるのは、風が強化された一般風と同じ向きの方向だけになり、なかなか放射状であったことは確認しにくいことがあります。


<東京大学 海洋研究所 新野宏先生>

1.「数年前にも同じ斜面で類似の現象があった」とのことですが、ダウンバーストが以前と同じ場所のすぐ近くで発生する確率は非常に低いと思われます(もっとも、かつてアメリカで最初に出された竜巻予報は、以前と同じ場所が竜巻に襲われるという偶然中の偶然に恵まれ、成功(?)に終わったのですが・・・)。むしろ、斜面の特性による再現性のある現象の方が可能性としては高くないでしょうか。

2.ダウンバーストの風は、摩擦の影響を受けた地表面近くよりも少し上空の方が強いものです。下枝だけが折れているものがあることは、少なくともダウンバーストの風だけでは説明しにくいように思います。

3.ダウンバーストの風が、非常に大きな木の幹を100m近くも飛ばすことができるかどうか、かつて行ったいくつかの突風の被害調査の経験からはやや疑問に思います。仮にダウンバーストがあったとしても、何らかの複合的な要因が作用したのではないのでしょうか。

いずれにしても、1.現象の発生日時を特定すること、2.ダウンバーストとすれば強い対流性エコーが上空を通過したかどうかをレーダー画像で確認すること、3.発生日時周辺の天候や気温、総観的な気圧傾度などの確認することが不可欠と思います。1.2.3.は互いに見比べながら行う必要があるのかも知れません。
(レーダー画像を取り寄せようと思います。 :石田)


<岐阜大学 工学部 玉川一郎先生>

こういう場合に、山岳越えの跳水現象の可能性もあります。ちょうど山を越えて山岳波が地面にタッチダウンしたところに被害が出るという話を昔々防災研時代に何度か聞きました。それなりによくある現象のようですし、被害も局地的になるようです。私が聞いた話はたいてい山の斜面にとびとびに被害地があるというものでした。
キーワードはフルード数でしょうか。
(高層気象データで安定度や風速の情報が必要ですね。:石田)