リアルタイム光電子分光による半導体表面準位の新解析法

リアルタイム光電子分光による半導体表面準位の新解析法


表面準位同定の問題点

半導体デバイスの高品質化・高安定化の基礎的要因として基板の清浄化・表面平坦化・結晶構造の完全化等が 挙げられる。いずれもその根本は表面・界面準位に影響を与えるものである。したがって表面界面準位を如何 に制御・抑制するかがデバイスの品質向上、ひいてはさらなる微細化につながると考えられる。光電子分光法、 特に励起源として紫外光を用いた紫外光電子分光法(UPS)は高い表面感度で表面準位を直接的に観測でき、 表面準位評価の極めて有効な手段として広く用いられている。しかし考慮すべき点は得られたUPSスペクトル からの表面準位の同定法についてである。UPSスペクトルには当然バルクからの成分も含まれるので表面準位 成分を分離・同定する必要がある。これまで一般に行われていた同定法は次のように挙げられるが、いずれの場 合もそれぞれ問題がある。

表面準位同定法 問題点
バルクのバンドギャップ中に存在する。 バルク価電子帯中に存在する表面準位は同定できない。
水素等の表面終端化により消失する。 新たな表面準位の発生やサブサーフェスの変化が懸念される。
角度分解型のUPS測定によりバンド分散を測定したとき得られた分散の周期性が表面ブリ ルアンゾーンのそれを反映する。 角度分解型の測定は多大な時間を必要とし、また装置や測定が煩雑である。さらに分散があま りないまたはあいまいな表面準位の場合、その同定が難しい。

以上のように表面準位の同定は一般にフェルミ準位に近い準位に限られ深い準位は困難であった。 表面準位の新たな同定法の開発はUPS法の能力・信頼性を高める重要な課題と考える。


光電子強度振動による表面準位の同定

「シリコンMBE成長中の光電子分光強度振動」で紹介したエピタキシャル成長中のUPS強度振動は、 表面準位の新同定法開発につながる興味深い現象である。すなわち、下図に示した実験から以下のことがわかる。

図 ジシランGS-MBE中のUPS振動。様々な光電子エネルギー(a-l)で測定している。

ジシランによる結晶成長中の表面が清浄表面と同一の表面準位を持っているとは限らないが、これまでに分かっている 清浄表面の表面準位とかなり合致する結果になっている。すなわち、 以上のように、結晶成長中にリアルタイムで光電子スペクトルを測定することで、表面準位の同定が可能であると 示唆される。特に、通常の方法では深い準位は表面準位の同定が難しかったが、本方法ではエネルギーに依らず 同定できる点が特徴である。