スチレンの不斉重合による光学活性ポリスチレンの直接合成

光学活性高分子は自然界に多数存在し、材料としての可能性から、その人工合成が強く望まれています。スチレンはプロキラルな分子であり、立体規則性を制御して重合させることにより光学活性となると期待されますが、ポリスチレンの繰り返し単位の立体化学を全て同じに制御したアイソタクチックポリスチレンは、高分子鎖内に対称面をもつため一般的に光学不活性になることが知られていました。

我々は、光学活性なシクロデキストリン骨格からなるHUGPHOS配位子を有するPd錯体が一酸化炭素雰囲気下でスチレンの重合を引き起こすことを見出しました。得られたポリスチレンの立体規則性は高くはありませんが、光学活性であることを明らかにしました。重合には一酸化炭素圧が大きな影響を及ぼします。すなわち、1 atmの一酸化炭素雰囲気下では光学活性ポリスチレンが得られますが、さらに加圧下で反応を行うと、光学不活性なポリスチレンが生成します。また、一酸化炭素が存在しない場合には、連鎖移動が頻繁に起こり、高重合体は得られません。

詳細な重合機構解析の結果、パラジウム錯体の動的な挙動が光学活性高分子生成の鍵になっていることが示唆されました。このような動的な挙動を示す光学活性錯体を利用することで、様々なプロキラルモノマーから光学活性高分子を合成することが可能になると期待されます。

本研究成果は、フランス・ストラスブール大学のMatthieu Jouffroy博士、Dominique Armspach教授Dominique Matt教授との共同研究によるものです。

M. Jouffroy, D. Armspach, D. Matt, K. Osakada, D. Takeuchi, Angew. Chem. Int. Ed.2016, 55, 8367-8370.