蒸着銀薄膜によるPNTPの赤外吸収増大

- 吸収増大の銀薄膜形状依存性 -

佐々木 良太

 薄 膜の状態により光学的性質も大きく変化することが知られている。物質の情報を得る手段の一つとして、物質に光を当てそのエネルギーで分子の振動や回転を励 起させ、そのエネルギーから分子の構造を特定する赤外分光法がある。この赤外分光法には情報分解能に優れているという長所があるが、反面測定感度があまり 良くないという短所を持っている。しかし、この短所は自由電子金属の蒸着膜等の薄膜を用いることによって補うことができる。金属薄膜を用いることにより試 料の赤外吸収が大幅に増大するということが明らかになっているが、しかしその赤外吸収増大のメカニズムについては完全には解明されていない。赤外吸収増大 で明らかになっていることは、吸収増大が薄膜の形状に 大きく依存するということである。薄膜の生成方法の一つとして蒸着法があるが、この方法で膜厚を変化させて生成すると、膜厚と同時に形・サイズなどの様々 なパラメータが全て同時に変化してしまう。しかし、試料をアニールすることによりその問題を解決でき、質量膜厚一定で形・サイズなどを変化させることが可 能となる。

 本研究の目的は、Si/Ag試料をアニールすることにより質量膜厚を一定として薄膜の形状を変化させることによる影響を、吸収強度に着目して、赤外吸収増大の銀薄膜形状依存性を解明することである。まず、シリコン基板上に銀薄膜を蒸着させて、アニールして試料を作成した。試料の表面状態を調べるため、試料表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した。さらに、試料にp-ニトロチオフェノール(PNTP)を堆積させて、赤外透過スペクトルを測定した。データから、アニールによる薄膜形状の変化と吸収増大関係性ついて考えた試料はアニールしていない(as-depo)もの、100150200300℃でアニールしたものを用意した。それらから赤外分光解析を行いCH伸縮振動バンド、CS伸縮振動バンド、NO2曲げ振動バンドから、吸収強度を求め、さらに吸収強度を面積強度として求めた。本研究では全試料で安定して得られるCH伸縮振動の面積強度を考察に使用している。次に、試料のSEM写真から銀薄膜形状の度数分布による評価から、銀の粒子サイズと粒子間距離の平均値を求めた。次に、試料のSEM写真から銀薄膜形状の画像処理による評価から、銀の粒子数、平均粒子サイズ、全面積に対する銀面積の割合を求めた。 as-depo試料を除く全試料を銀薄膜形状の状態に従い3つのグループに分別する。ひとつは連続膜のグループ、ひとつはアイランド膜のグループ、もうひとつは連続膜とアイランド膜の中間状の膜のグループである。膜形状によるグループ分けをすることで、膜形状による影響を考慮した、考察が可能になる。

 求めたデータから銀薄膜形状の各値とCH伸 縮振動の面積強度をグラフにプロットして関係を考察する。すると中間状の膜とアイランド膜において、粒子サイズの平均値の増加、粒子間距離の平均値の増 加、粒子数の増加、全面積に対する銀面積の割合の減少が吸収増大につながる可能性があることがわかった。しかし、このような銀薄膜形状の各パラメータ変化 が同時に起こることは矛盾している。今回は、銀薄膜形状の各パラメータが複雑に作用し合い、このような結果になったと思われる。今後の研究において、銀薄 膜形状の各パラメータの相互関係を考慮して、吸収増大の銀薄膜形状依存性を解明する必要がある。