Agナノ薄膜における赤外吸収増大の基板温度依存性


 本研究の目的は、基板加熱により質量膜厚一定とし、アイランドの形・サイズと赤外吸収増大との関係を明らかにするということである。そのために、Si基板上Ag薄膜を加熱し、ポリマーC(アクリル系共重合体ポリマー)を堆積させて、赤外透過スペクトルを測定した。また、加熱による薄膜形状の変化と吸収強度の関連性、透過率から表面散乱の効果や異常吸収と吸収強度の関連性について考えた。

 

 膜厚4,6,10 nmの薄膜を加熱することでそれぞれの質量膜厚における、薄膜形状を変化させ、吸収強度・透過率を測定した。膜厚4 nmの場合、100〜200℃へ加熱する事により透過スペクトルは右上がりからほぼ水平となり、透過率はほぼ1となった。このことから、薄膜形状はAg粒子が数個繋がった状態から、100,200℃加熱でAg粒子が繋がり大きな島ができ隙間のほうが目立つ状態へと変化した。一方、吸収強度は高波数側では未加熱から100℃で減少した後一定となり、低波数側では一定となった。膜厚6 nmの場合、50〜300℃に加熱する事により透過スペクトルは右下がりから90℃付近で水平となり、その後右上がりへと変化した。このことから、薄膜形状はAg粒子がほとんど繋がった連続膜の状態から90℃付近でPercolation Thresholdとなった後、Ag粒子が繋がり大きな島ができ隙間のほうが目立つ状態へと変化した。一方、吸収強度は増加し、高波数側では200℃、低波数側では150℃で最大となった後に減少した。膜厚10 nmの場合、100〜300℃に加熱することにより透過スペクトルは右下がりから200℃付近で水平となり、その後右上がりへと変化した。このことから、薄膜形状はAg粒子が繋がった隙間のある連続膜の状態から200℃付近でPercolation Thresholdとなった後、Ag粒子が繋がり大きな島ができ隙間も大きくなった状態へと変化した。一方、吸収強度は高波数側では増加し250℃で最大となった後に減少、低波数側では単調増加した。

 

 これらのことから、薄膜形状と吸収強度の関係は、吸収強度が最大となるのは質量膜厚にかかわらず表面散乱の効果が異常吸収より大きく、Ag粒子が完全にはつながりきっていない隙間のある薄膜で、Percolation Thresholdとなる温度より高温であることが明らかとなった。つまり、Ag粒子が繋がりすぎず離れすぎない薄膜が適しているということである。そして、異常吸収は赤外吸収増大を妨げるということが示された。また、吸収強度の変化の様子、つまり加熱によって強度が増加した後に減少するか、減少のみ起こるかは、加熱前の薄膜形状の違いが原因であることが明らかとなり、未加熱でPercolation Thresholdとなる膜厚より厚い薄膜は加熱する事により吸収強度が増大することが考えられた。そして、透過率と吸収強度には関連性が無いということ、透過率が不変でも吸収強度は変化するということが明らかとなった。

 本研究で得られた各膜厚で吸収強度が最大となったときの薄膜形状は、透過スペクトルから判断して各膜厚で同様な形状(Ag粒子が完全には繋がりきっていない隙間のある薄膜)となっていると考え、波数別に比較すると、高波数側と低波数側の吸収強度が最大となる膜厚が異なるという結果が得られた。これから、吸収強度が最大となるのは波長から相対的に見たAg粒子のサイズや隙間のサイズに依存するということが明らかとなった。