短い周期の風と気温

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Cup anemometer[背景]

 一般の方が、風速を測る道具は? と聞かれたら左の写真のような 風速計や風見鶏式のプロペラ式風向風速計を想像すると思います。 写真は風を受ける杯(赤色の部分)が3つある、 三杯式風速計と呼ばれるものです。 これら風速計の計測原理は、風が吹くと羽根が押され回転することを利用し、その回転数から風速を求めるというものです。これらは電力を必要とせず、原理が簡単なため時間平均的な長期間の観測に向いています。

 しかし、これらの風速計はセンサーに可動部(動く部分)があり、実際の風のながれへの追随が遅れてしまいます。風車を回したことがある人はよくわかると思いますが、風の吹きはじめに遅れて回り始め、風が止んだのにしばらく回っているのがこの遅れの例です。また、1m/s以下のような非常に弱い風では羽根が回らないという問題も出てきます。

<写真: 牧野応用測器社製 三杯式風速計+手作りの通風乾湿計>


 気温を測る場合にも、棒状の温度計では同様に追随性の欠点があります。センサーそのものを小さく細くすれば、周りの温度と応答時間(なじむ時間)が短くなりますが、今度は壊れ易くなります。短周期での計測では風速にしても、気温にしてもこの応答時間が問題になるわけです。


Ultrasonic anemothermometer[道具]

 そこで考え出されたのが右の超音波風速温度計です。 写真の測器は、風速を水平2方向、鉛直方向の計3成分を測定するものです。 原理は、一対の音波発信受信機を向かい合わせ、 両方向の音波伝播時間の差から風速を測定するというものです。 (風下への音波は伝播速度が速く、風上への音波は遅くなります。) これなら周囲の環境と応答時間が必要なく、 しかも非常に微弱な風速も測定することが出来ます。 さらに、大気中を伝播する音速は気温の関数(絶対温度の平方根, 正確には湿度にも依る)なので、 同時に気温も測定可能です。 写真の測器で測定周波数は20Hzです。

 一方で、雨天にノイズが発生することや、安定した交流電源が必要なこと、計測原理が複雑なためにトラブルに見舞われた時に対処がしづらい等の欠点もあります。

<写真: KAIJO社製超音波風速温度計 DA600-3T>


[観測例]

 最後に(本来ならば順番が逆ですが)、この装置で短周期の風速、温度を測り何に使うか触れておきます。熱の伝わり方には放射伝導対流の3通りあります。基本的には、

 対流による熱は、大気(流体)の複雑な運動(乱流など)を伴うため、大気の熱物性は勿論、大気の運動(つまり風)と温度の変動を測定する必要があります。しかも、対流による大気の運動は短時間での変動が大きいので上記のような測定機材が必要となるわけです。下のグラフはその観測例です。

Fluctuation of vertical wind speed & air temperature

 上の赤い線気温変動、下の黒い線鉛直風速の変動(正が上向き)を示しています。 この例では観測時間は10分間です。天気が良く風の弱い日中だったため、 これでも変動は少ない方です。 よく見ると、w(鉛直風速)とT(気温)がともに増加傾向にある時間帯があります。 これは、暖かい空気が上へ間欠的に運ばれている様子を示しており、 プリュームと呼ばれます。 ちなみに、この対流によって地表面1m2当たり約47Wの熱が 大気へ奪われている計算になります。


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