コアシェル型ナノ粒子による赤外吸収増大


 ナノメートルオーダーのサイズのAu、Agなどの金属微粒子はバルクの状態とは物性が異なり、ポリマーなどの媒質に混入させることによって可視領域では着色、赤外領域では吸収強度の増大を引き起こすことが知られている。また、吸収強度の増加率は粒子サイズ、体積分率、形状に依存することが今までの研究でわかっている。また、近年可視域で異常光吸収は金属微粒子の表面層の効果によって決定するというシェルモデルが発表され、その表面層は1Åであるという見解もなされている。このシェルモデルが最近赤外域でも考えられているが、表面とはどこまでの領域を指すのか、内部の効果はないのかということに関してはっきりとした答えは出ていない。

 そこで今回、異種金属を組み合わせたコアシェル型ナノ粒子を用いて、このシェルモデルの正当性を判断することとした。用いたサンプルは金コア/銀シェルの構造を持つサンプルが2つ(シェルの厚さが異なる)、銀コア/金シェルの構造を持つサンプルが1つ、誘電体コア/金シェルの構造を持つサンプルが1つの計4つであり、基板にフッ化バリウム、ポリマーに共重合体櫛形ポリマー、測定にFT−IR分光器を用いて実験を行った。また、可視域と赤外域では数十倍の波長の違いによるメカニズムの違いがいわれているが、赤外域でも2〜3倍の波長の違いがあり、この程度の波長の違いでのメカニズムの違いはないのかということに疑問が残る。よって、今回赤外域の2つの波長のピークを見ることによってメカニズムの違いの有無を見ることも目的とした。

 金コア/銀シェルの2つのサンプルではシェルの厚さによりサンプル間に吸収の増大率の差はあったが、両方ともコアの影響が見られた。よって、この2つのサンプルからは1Åの表面層が光学特性を決定するシェルモデルは否定される結果となった。銀コア/金シェルのサンプルではシェルがコアを均一に覆っておらず、銀コアが表面にでていたために銀コアの影響が見られたということも考えられるため、シェルモデルを否定するという結果にはならなかった。また、金コア/銀シェルの2つのサンプルのうちのシェルの厚さが薄い方よりもさらに薄いシェルの厚さであったにもかかわらず、吸収の増大率に及ぼすシェルの効果が金コア/銀シェルのサンプルよりも大きくなり、今までの考え方では説明できない点があった。誘電体コア/金シェルのサンプルでは誘電体が自由電子を持たず、赤外吸収増大を引き起こさないため、扱いは難しいところではあるが、結果は同じ粒径の純金微粒子よりもやや低い吸収の増大率を示した。これについても1Åのシェルモデルを当てはめるのであれば同じ粒径の純金微粒子と同じ吸収の増大率を示すはずであり、1Åのシェルモデルを否定する結果となった。これらから、3つのサンプルで1Åのシェルモデルを否定する結果となり、表面層のみで光学特性が決まるのではなく、粒子全体が吸収増大に関わっているという結果となった。しかし、今回のサンプルの最大のシェルの厚さは3.1 nmであり、表面層がその厚さ以上であるという可能性は残っている。また、銀コア/金シェルでは今までの考え方では説明できない点があった。これについても、金の方が吸収の増大率に大きく影響を与えるというようなことが考えられるが、明確な結論を出すに至らなかった。よって、明確な結論を出すためにもっと多くの試行を繰り返すことが望まれる。また、これら4つのサンプルでそれぞれ2つの波長ピークを見てメカニズムの違いの有無を調べたが、Mie散乱の振る舞いの違いによるであろう増大率の値の違いはあったものの、吸収増大の傾向は変わらず、メカニズムの違いはなかったということが言える。