<大気中加熱Ag型ゼオライトのラマンスペクトル>

 最近の研究から、真空下または大気中で加熱されたAg型ゼオライトに光を照射すると発光するというフォトルミネッセンス(PL)現象が新たに発見され、同時に着色も見られる。PLについては、真空下加熱において水を脱離したゼオライトに、励起光を照射することでPLが起こると知られている。ただし、真空排気のみのゼオライトではPLはおこらない。また、大気中加熱でゼオライト内部の水分子を脱水した場合も同様にPLが起こり、着色を示した。本実験では、この着色やPLにおける原理を探るため、ラマン測定を行い、大気中加熱を行ったAg型ゼオライトを用いてPL現象に関わる加熱温度毎による局所構造の変化や、水分子の脱離について調べることで、PL現象の原因解明を行うことを目的とした。

 

 その結果、構造の変化として、700℃以上で24時間大気中加熱すると、ゼオライト骨格が崩壊している。300℃加熱を行うと、四員アルミノケイ酸環に変化が生じ、逆に六員アルミノケイ酸環では変化しないことが明らかになった。500℃加熱では300℃加熱と、どのバンドも変化せず、ゼオライト骨格自体に変化がないことがわかった。PL測定では300℃加熱から発光し始め、500℃まで発光強度が増加している。ラマン測定でも、300℃加熱を行うと確かにスペクトルが変化したが、500℃加熱では300℃加熱と全く変化がなかった。スペクトル変化がないのは、ゼオライト骨格から、ある程度離れた所にあるAgイオンが変位することによってPL発光強度の増加が起こっているのではないかと考えられる。

 非骨格成分である水分子の脱離に関しては、Ag型ゼオライトとNa型ゼオライトを比較すると、Ag型ゼオライトでは加熱温度の上昇に伴って水分子のOH伸縮振動に帰属されるバンドのラマン強度が減少し、脱離した水分子が戻りにくい状態であると考えられる。

 300℃加熱を行った際の、これらのゼオライト骨格におけるスペクトルの変化は、Agイオンの位置の変化、または電荷が変化することに起因するものと考えられる。元々、チャージバランスを保つために、陽イオンは然るべき位置に存在しているはずである。アルミナの電荷不足と、それを補うためのAgイオン、また水分子のマイナス電荷によってチャージバランスを保っているが、加熱することで水分子の量が減少し、チャージバランスが崩れることが考えられる。このチャージバランスの変化により、ゼオライト骨格の近くに存在していたAgイオンが変位することで、ゼオライト骨格の構造に変化が起こり、スペクトルの変化につながると考えられる。これらのことから、スペクトルの変化が生じているが、その中でも、六員アルミノケイ酸環のスペクトルでは加熱によって変化がないことから、六員アルミノケイ酸環のスペクトルが加熱によって変化しなかったのは、六員環が関与するサイトでは、Agイオンに関する変化が全くないためと考えられる。逆に、四員アルミノケイ酸環のスペクトルが加熱によって変化しているのは、四員環に関与するサイトで、Agイオンの数や位置が変化するためと考えられる。これまでの赤外測定による結果からは、Agイオンが変化しているのは、どの部分が関与したサイトによるものかわからなかった。しかし本実験から、PL現象と関連していると思われるAgイオンの変位は、四員アルミノケイ酸環が関与したサイトのAgイオンによる変化であるということが明らかになった。