局所増大場の共鳴型および非共鳴型機構

  物質に自由電子金属などの薄膜を取り付けることにより、その金属表面付近に存在する分子の赤外吸収を飛躍的に増大することができる。この赤外吸収増大は共鳴・非共鳴双方による局所場の増大が原因だと考えられている。
 3相系における第2相は金属と媒質が混合しているが、この2つの誘電率の違いにより電場の集中がおこる。この局所場増大を非共鳴機構という。この局所場増大は、自由電子金属を用いた薄膜のSEM写真をモデル化、サンプリングすることにより計算可能である。
 可視領域において自由電子金属の共鳴は自由電子金属の集団共鳴で、これをプラズマ共鳴というが、それは縦波であり本来横波である電磁波とは相互作用しない。しかし粒子のサイズが電磁波の波長より遙かに小さければ粒子は電磁波によって分極する。同様のことが赤外領域にもいえ、分極により電磁波と電子が相互作用、その結果、局所場増大がおこると考える。この局所場増大を共鳴機構といい、これは実験により求められる共鳴・非共鳴両方の影響を受けている値と、計算された非共鳴機構による局所場増大の値を比較することにより求めることができる。

 本研究では自然酸化Si基板、Bare Si基板それぞれのシリコン、銀、空気で与えられた3相系において、実験により測定された赤外吸収に対し、その原因となる共鳴・非共鳴機構を考察することによって、局所場増大のメカニズムを明らかにすることを目的とする。

 共鳴機構においては粒子の形態、粒子のサイズ、粒子間距離、粒子のアスペクト比(縦横の比)の変化により、局所場増大が変化していくと考えられてきた。ただ、これらは質量膜厚の変化に伴いそれぞれ同時に変化していくのでそれぞれ同時に考察することはできない。そこで、粒子の形態の類似したものを比較するために、各基板で粒子が全体で半連続的な膜を作り出す直前で実験値による電場増大が最も大きかった2点についての考察を行った。
 この2つの比較において共鳴による吸収増大は自然酸化Si基板の方が約10倍も強かったのに対し、形態、アスペクト比は同等、粒子サイズ、粒子間距離もその違いを生む原因とは考えにくかった。そこで、粒子内の電子状態に着目する事にした。

 本研究では2つの基板をもちいたわけだが、それにより自然酸化被膜の存在という違いが生まれる。また、基板の違いが粒子の形態に影響を与えている。この粒子の形態への影響が例えば電子のやりとりなどといった、粒子と基板間での相互作用によるものであるなら、その結果、粒子内の電子状態に影響を与えている可能性がある。自然酸化被膜の有無による粒子と基板間の相互作用を考慮することにより、粒子内の電子状態の違い及びそれによる共鳴機構の局所場増大の違いにも説明がつく。
 これらのことから、支援酸化被膜の存在が、銀粒子内の電子状態に影響を与え、結果、吸収増大に大きな影響を与えた可能性が本研究の結論として指摘される。