赤外吸収スペクトルとXAFSによるAg型ゼオライトのPL機構
大澤 裕美 

 ゼオライトとは、構造中に規則的な直径数Åの細孔構造をもつアルミノ酸塩多孔質結晶である。また、細孔内部に様々な陽イオンや水分子等を置換、保持する ことができるという特性をもつ。Ag型ゼオライトは、photoluminescence(PL)材料として有望であり、PLをコントロールできるのな ら、さらに利用価値は高まるが、PLが起こる要因はよく分かっていない。

 これまでの研究において、Ag型ゼオライトは、真空下加熱により内部に存在する水を脱離することができ、その後また大気中に戻すことで、強い着色が起こ ることが確認されている。また、大気中加熱したAg型ゼオライトAの着色とPLの研究において、PLが強く起こるのは加熱温度が80〜70 ℃付近であることが確認された。
 そこで本研究では、ゼオライトにおけるPL機構とゼオライト細孔中に吸着される水分子との関係をより詳しく調べるため、XAFS測定, PL測定, Si基板静電吸着法による赤外吸収測定を行い、Agクラスターの局所構造やゼオライト骨格構造変化、吸着される水分子とPLの関係を調べることを目的とし た。

 XAFS測定において、 500 ℃加熱することによってゼオライト中には、Agクラスターが形成された。第一近接Ag-Oの配位数は、100 ℃と 70 ℃では、激変しており70℃以下の温度において大きく増大していた。Agクラスターの形成自体は、PLバンドの変化と対応はしなかったが、Agクラス ター未形成においては強いPLが現れないことからAgクラスターがPLに関連することが確認され、吸着水とPLの関連が推測された。
 PL測定において、測定した120 ℃から30 ℃のすべてにおいてPLを観測することができ、ガウスフィッテイングによって得られた最も強度の強い2.1 eVのバンドでは、90 ℃から80 ℃においてピークが急激に強くなった。この2.1 eVのPLバンドと1.9 eVに観測されるPLバンドは、水蒸気と接触させることで出現することが確認された。この1.9 eVのバンド゙は、2.1 eVのバンドとは異なる温度依存性を示した。他に、ゼオライト骨格からのPLである2.7 eVのPLバンドは、2.1 eVのバンドと類似する温度依存性を示した。このことから、2.1 eVのPLバンド゙はAgクラスターとゼオライト骨格の両方に関わるTrap準位に関連していると考えられる。
 Si基板静電吸着法による赤外吸収測定において、ゼオライトのT-O伸縮に帰属される骨格部の代表的なスペクトル(1068 cm-1 と667 cm-1 )における強度変化をみると、90 ℃で急激に変化した。また、O-H伸縮に帰属される3000 cm-1 付近の吸収ピークにおいても、90 ℃を境に激変した。
この温度依存性は、2.1 eVのPLバンド強度における高温側の温度依存性に一致している。以上より、温度降下することによって、脱離された水が沸点もしくはそれ以下の温度におい てゼオライト内に拡散し、ゼオライト骨格に影響を与えていることが2.1 eVのPLバンド強度増大の要因になっているとわかった。

 以上より、本研究では水がゼオライト骨格に関わることがAg型ゼオライトにおけるPL増大の要因である。