ポ リマー分散金属ナノ粒子による赤外・可視吸収スペクトルのアニール温度・時間依存性

中津拓馬

 ナノメートルオーダーの金属微粒子は、特異な物理的性質を 示すことから近年注目を集めており、様々な分野での利用が期待されている。しかし、これには未だ解明されていない部分も多く存在している。この特異な性質 の一つとして光学的性質が挙げられるが、特に金や銀などの貴金属微粒子では異常光吸収が確認されている。異常光吸収とは、光の電場がナノメートルオーダー の金属微粒子の表面プラズモンと相互作用した結果、可視域では着色、赤外域では吸収増大が起る現象のことを言う。

 本 研究で用いた金、銀微粒子分散ポリマーは、ほぼ球状を保ち、サイズの揃った微粒子膜を得ることができる。しかし、金属粒子そのものだけではなくポリマーが 存在し、アニールすることによってポリマーが失われる一方、金属微粒子はその形状やサイズがアニールすることによって変化することが報告されている[3]。 そこでポリマー分散金属微粒子をアニールすることでどのようにポリマーが変化し、またどのように金属粒子が形状変化し、それらの変化を可視および赤外吸収 スペクトルにより明らかにすることを目的とした。


 粒子サイズ増大は可視領域でのスペクトルはブロードし、 レッドシフトを起こす。赤外領域では吸収増大が弱くなる。ポリマーの減少は可視領域ではスペクトルはシャープニングしブルーシフトを起こす。赤外領域では 金属の体積分率が増大するためにポリマー1 nm当りの吸収は増大する。

 金微粒子分散ポリマーでは、今回の試料では粒子サイズ変化 は30020分間アニールまでは変化がない。30030分間アニールすると粒子サイズは増 加し40分間アニール するとさらに増加する。ポリマーCC-H伸縮振動を元にその量を算出する と100度では少し減 少し200度では約半分になり300度 では30分間アニール すると吸収が観測されなくなる。それを元に可視吸収スペクトルを見ていくと200度までは変化は見られないが、30010分間、20分間アニールすると大きくブルーシ フトする。30分から は粒子サイズが増加する効果も加わるために20分 のピーク位置よりレッドシフトしている。赤外吸収増大は今回の実験の体積分率の範囲、約0.1から約0.6までは体積分率が増加するにつれenhancement factorが大きくなることがわかった。30030分間アニールした値は粒子サイズがas depositionより約二倍になっているがあまり寄与していない可能性がある。30040分間アニールするとポリマーがほと んどなくなり、粒子サイズもas depositionと比較して約4倍 となっているために正しい評価はできなかった可能性がある。

 銀微粒子分散ポリマーでは、粒子サイズ変化は200度までは変化がないが30010分で大きく凝集し、その後変化な し。ポリマーBC-H伸縮振動を元にその量を算出する と100度はほとんど 減少しないが20010分アニールすると3割程度になり20分アニールすると吸収が観測されな くなる。300度は10分で吸収が観測されなくなる。可視 吸収スペクトルでは100度 は変化がないが200度 では20分からピーク が二つ観測された。20分 では長波長側のピークが大きいが30分 では二つのピークの大きさが同じぐらいになり40分 になると短波長側のピークが大きくなった。ポリマーが減少するために短波長側へシフトしていったためだと考えられる。300度は10分でブルーシフトし20分以降でレッドシフトしている。10分ではポリマー減少効果が強く現 れ、20分以降では粒 子サイズ増大効果が強く現れた。赤外吸収増大は今回の実験の体積分率の範囲、約0.1から約0.8までは体積分率が増加するにつれenhancement factorが大きくなることがわかった。300度 アニールはポリマーBが なくなってしまったために評価はできなかった。