Ag型ゼオライトによるPLの構造依存性
-Agクラスターおよび骨格構造のIR・XAFS解析-
07GS209 木村 佳文
ゼ
オライトとは、結晶構造内に数Åの細孔を持つ結晶性のアルミノケイ酸塩の総称であり、骨格成分はSi(ケイ素)、Al(アルミニウム)、O(酸素)がSi
-O-Al-O-Siの構造が三次元的に組み合わさることによって形成されている。また構造成分には骨格を形成している骨格成分の他に、それに吸着して存
在する非骨格成分(陽イオン)で形成されている。この非骨格成分は簡単に交換できる。
ゼオライト骨格内にAgイオンが含まれるAg型ゼオライトは真空中加熱により強い着色を示すことが知られている。また大気中加熱では同様の着色に加えて、フォトルミネッセンス(PL)が起こる。
この着色現象、PLにはゼオライト骨格内に含まれるAgイオンおよびAgクラスターが重要な役割を果たしていることが報告されている[1]が、詳しいこと
はまだわかっていない。そこで本研究では、大気中加熱500~300 ℃で50 ℃間隔で、また真空中300
℃加熱後大気にさらしたAg型ゼオライトのPLを測定後、赤外吸収、XAFS測定を用いてPLの原因について調査した。
大気中加熱後の試料と真空中加熱の試料の比較から、加熱する際に周りに大気が存在していると存在していないではゼオライトに起こる変化が異なることが示された。XAFS測定から真空中300 ℃加熱した試料は大気中室温の状態でNAg-OⅡの
値が未加熱の状態に比べて大きく減少していること、また赤外吸収スペクトルでは大気中加熱に比べて骨格部に変形が目立つことから、真空中加熱によってゼオ
ライトの骨格酸素の欠損が起こることが示唆された。骨格酸素の欠損がある状態ではPLが観測されないことから、加熱の際に大気が存在していることがPLを
観測するために必要だということが言える。
大気中加熱後の試料ではPLの強度は加熱温度が高くなるほど強くなり、また大気中300 ℃とそれ以上の加熱温度では形成されるトラップ準位が異なることが示された。このことから、300 ℃加熱と350 ℃加熱の間にポテンシャルが存在していることが考えられる。
強いPLが起こる際には2.15
eVのバンドがPLスペクトルのメインバンドとして存在している。PLスペクトルの封入温度による変化を見ていくと、強いPLが起こる構造が形成されてい
る場合には封入温度90~70
℃でPLの強度が急激に強くなる。この温度ではゼオライト骨格内に水が大量に戻っており、それに対応して強いPLが起こることが以前にも報告されている
[2]。加熱温度によるPLの違いにも水が関係していると考えたが、赤外吸収測定より加熱温度300
℃以上では骨格内から水が全て抜けていること、また加熱によって脱離した水はどの加熱温度の試料においても冷却過程の90~70
℃で骨格内に戻ることが明らかとなった。このことから、PLが起こるにはゼオライトを加熱後、冷却過程において水が骨格内に戻ってくることが必要だが、水
自体は加熱温度毎のPLの違いには関係していないことがわかった。つまり、加熱によってゼオライトの骨格やAgイオンに起こる変化がPLに関係しているこ
とが考えられる。PL強度の低温側の強度変化が赤外スペクトルの1145 cm-1のバンドの強度変化と対応していることからも、PLにはゼオライト骨格や骨格内のAgイオンと密接に関わっていることが支持される。
今回測定した試料において、PLが最も強かった大気中500 ℃加熱した試料には他の温度で加熱した試料と比べて特徴的な変化が見られた。大気中500
℃加熱後の試料では他の温度で加熱した試料よりも冷却過程において早い段階、つまりより高い温度でゼオライトの骨格内に水が戻っていた。500
℃加熱とそれ以外ではゼオライトの赤外スペクトルの骨格部のバンドが異なることから、Agイオンと骨格の関わり方の違いがあることがわかった。500
℃で加熱することによるAg型ゼオライトへの影響は他の加熱温度では見られない特別なものだということが言える。つまり、Ag型ゼオライトには500
℃加熱でなければ超えられないポテンシャルが存在していることが考えられる。
以上より、Ag型ゼオライトにおけるPLにはゼオライトの骨格とAgイオンが関係していることがわかった。PLを観測するためには大気中での加熱が必要で
あり、PLの強度は加熱によってゼオライトの骨格やAgイオンに起こる変化に影響を受ける。強いPLを観測するには今回の実験で言えば『大気中500
℃加熱』という条件が重要であることが示された。
[1] : H. Hoshino, Y. Sannohe, Y. Suzuki, T. Azuhata, T. Miyanaga, K. Yaginuma, M. Itoh, T. Shigeno, Y. Osawa and Y. Kimura, Bull. Fac. Educ. Hirosaki Univ., 99, 55-62 (2008), J. Phys. Soc. Jpn, Vol. 77 No.6, 064712-7 (2008)
[2] : 大澤裕美, 赤外吸収スペクトルとXAFSによるAg型ゼオライトのPL機構 平成20年度修了研究