論文題目:局在場における吸収帯の非対称性

 自由電子金属の蒸着薄膜は、赤外吸収を大幅に増大させるということがわかっている。赤外吸収の強度が試料分子に作用する電場の二乗に比例することから、赤外吸収の増大は自由電子金属薄膜による電場の増大であると考えられている。しかしこの吸収増大メカニズムについては明らかにされていない。
 自由電子金属の蒸着薄膜に分子を吸着させた赤外吸収スペクトルを見てみると、膜厚が増加するにつれ吸収増大が大きくなっている。そして、それと同時に非対称な吸収帯が生じている。このことから、吸収帯の非対称性と吸収増大は関係していると予測される。
 よって本研究では、非対称性を表す断熱状態の破壊を考慮したモデルを用いてfittingを行い、非対称性と吸収強度増大の関連性を調べることを目的とした。
 なおfittingに用いたスペクトルは、自然酸化Si基板及びBare Si基板にAgを蒸着した膜にメタノールを吸着させたものであり、C-O伸縮振動に帰属される1025 cm-1付近の波数領域をfittingした。

 非対称性を表す断熱状態の破壊を考慮したfittingの式を用いて、上記の実験データである透過スペクトルとfittingさせた。この式のパラメータは、吸収強度、共鳴振動数ω0、非対称パラメータτ、スペクトルの幅γの4つである。
 このfittingにより得られたパラメータの結果を導入量に対してプロットし、その結果から吸収強度から膜厚ごとの電場強度を求めた。また、その他パラメータの導入量依存性はほぼ一定値となるので、その他パラメータの一定値を膜厚に対してプロットした。
 それぞれのパラメータの膜厚依存性の結果より、吸収強度と非対称パラメータτに明確な相関関係が見られなかったため、吸着子の振動が減衰する時の断熱破壊が赤外吸収増大と明確な関係がないと言える。したがって、吸収増大と非対称性は直接的に関係しないことが判明した。