UHV-ATR法を用いた銀ナノ微粒子による赤外吸収増大

 

赤外分光法は分子の振動や回転を観測することができる情報分析のに優れた手法である。測定感度が不充分であると言う欠点はあるものの、AuやAg等の自由電子金属の薄膜を用いることによって解決することができる。これは赤外分光法において自由電子金属が存在することによって試料の赤外吸収強度が増大するためである。赤外吸収強度が増大するときにはスペクトルの吸収強度の増大に伴って、多くの場合吸収バンドの変形が確認されている。しかしバンドの変形と吸収の増大率の間には明確な関連はなく、バンドの変形の原因についてもいまだ解明されていない。

 そこで本研究では半円柱型のGeプリズムを用いたATR法によって、金属薄膜としてプリズムの底面にAgを真空蒸着し、試料にメタノール(CH3OH)を用いてAg膜厚と導入量をそれぞれ変化させたときのCO−伸縮振動に対応する1020 cm−1付近のスペクトルを観測した。

 その結果、メタノールの導入量が分子1層分を超える場合にもバンドの変形が生じていることから、バンドの変形が分子1層分(First layer)にのみ生じるというこれまでのこれまで考えられてきたモデルの矛盾か指摘された。

 さらにP-偏光とS−偏光では吸収バンドの変形が起こり始める膜厚にさが生じることについての原因を探るために、本研究ではAg蒸着後の反射率に注目した。

 反射率においてAg膜による表面散乱と異常吸収の効果のどちらが支配的であるかを考えると、バンドの変化が起こるのはAg膜による異常吸収の影響が反射率に現れるときであることが新たに判明した。このことから自由電子金属薄膜を用いた赤外吸収増大において吸収バンドが変形するのは、自由電子金属膜による異常吸収が何らかの影響を及ぼすためであることが解明された。