ゼオライトは、結晶性のアルミノケイ酸塩であり、多孔質の骨格を持つ籠状構造の物質である。骨格成分はアルミナ( )とシリカ( )で構成され、 原子もしくは 原子の周りに4つの酸素原子が結合した 四面体を基準とし、頂点の酸素をそれぞれが共有することによって、立体的な結晶構造を持つ。この骨格を構成する の原子価は本来3価である。そのため、 原子に4つの酸素原子が結合した場合、 となり、-1価の電荷を有する。この電荷の不足分を補うために、非骨格成分であるナトリウムイオンなどの陽イオンが含まれる。この陽イオンと骨格との間に生じる電場のため、ゼオライトは水などの極性分子や陰イオンに対しての吸着特性をもつ。ゼオライトはこの吸着特性のため、吸着材、保湿材などとして広く一般に利用されている。また、ゼオライトの籠状構造は、その細孔の大きさによって吸着する分子を選択することができ、分子ふるいとしての利用が可能である。
ゼオライト中の陽イオンは、他のイオンで置換することができ、銀イオンで置換したものを銀型ゼオライトという。この銀型ゼオライトは、含まれる水が真空下加熱によって脱離すると、銀イオンが集合しクラスターを形成すると考えられている。このゼオライト内で形成される銀クラスターのサイズは、ナノメーターオーダーである。そのため、このナノ粒子を利用した量子デバイスなどの新たな作成方法として注目されている。
銀型ゼオライトを量子デバイスの作成に利用するためには、ゼオライト内での銀クラスター形成のメカニズムについて明らかにする必要がある。
銀型ゼオライトの銀クラスター形成過程における局所構造の変化を明らかにするために、真空下及び真空下加熱における銀型ゼオライトの水の脱離・吸着、骨格の変化について赤外分光法を用いて観察した。また、EXAFSによって内部に含まれる銀の局所構造について測定した。
試料として用いたのは13X型ゼオライトであり、ゼオライトのユニットセルにつき86個のナトリウムイオンが含まれている。これを硝酸銀水溶液に浸漬ことによって、ナトリウムイオンを銀イオンで置換することができる。また、水溶液の濃度、浸漬時間により、置換する銀イオンの数を制御することができる。今回、ユニットセルにつき86個、66個、12個の銀イオンが含まれた銀型ゼオライト3種と、比較のため、ナトリウム型ゼオライトを用いた。
赤外分光法は、ゼオライトの骨格成分に起因する吸収バンドについての、実験操作と、含まれる銀イオンの数による違いを示した。
EXAFSは、実験操作によるゼオライト内の銀イオンの局所構造の変化を、それぞれの試料について示した。
 以上の結果から、ユニットセルにつき86個の銀イオンを含む試料は、300℃で準安定状態、66個の場合は200℃、12個では常温(真空下)で準安定状態となることがわかった。ゼオライト内での銀イオンの局所構造については、ナトリウムイオンの影響を考慮することによって説明可能である。