Si上Ag微粒子による赤外吸収増大機構

弘前大学理工学部 蒔苗博充  (hiro9@cc.hirosaki-u.ac.jp)





 数ある分光法の中で、赤外分光法は、情報分解能に優れるという反面、測定感度があまりよくないという欠点を持つ。この欠点を補うためには、自由電子金属薄膜を用ればよい。この自由電子金属薄膜による局所電場の生成が赤外吸収増大を導き、測定感度の向上へと繋がる。このように測定感度を向上させる手段は一般に知られている事実である。
 しかし、赤外吸収増大のメカニズムは完全には明らかになっていない。本研究では、赤外透過法における赤外吸収増大メカニズムの解明にあたって、シリコン自然酸化膜上Ag微粒子によるLocal FIeld の詳細を明らかにする事を目的とし、調査を行った。


実験
 作成した膜厚は、1.0 nm, 3.0 nm, 5.0 nm, 6.0 nm, 7.0 nm, 8.0 nm, 9.0 nm である。これらそれぞれの薄膜を用いて赤外透過法における吸収スペクトルを測定。
 測定象対としてメタノールのC-O伸縮振動の見られる吸収ピーク(1020cm-1付近) を採用。メタノールは液体窒素により-160℃程度に冷却し、サンプル上に固体として堆積させた。これら一連の薄膜の作成、スペクトル測定は超高真空下で行った。



結果および考察
 実際に得られたスペクトルから、銀のない場合と銀のある場合とを比較してみる。

スペクトルから気付いた事ことは、

  • 銀のある場合は、銀のない場合よりも明らかに吸収が増大した。
  • 質量膜厚が7.0 nmの時に最も吸収が増大した。
  • 銀のある場合は、比較的少ない導入量で吸収強度増加の割合が大きくなった。


 すべての膜厚について言える事だが、吸収強度増加の割合が、ある導入量でもっとも大きくなることがわかった。このことから、Ag薄膜の微細構造を踏まえて考えると、Ag薄膜には最大電場強度を与える位置が存在することが考えられる。そこで、吸収強度とメタノール導入量との関係を検討して得られた、それぞれの膜厚とメタノール導入量との関係を右の図に示す。右の図から、最大電場強度を与える位置が、膜厚とともに高くなっているということがわかる。この得られた測定結果と、Ag薄膜の微細構造とを結び付けるために、モデルを仮定した。本実験で作成した薄膜の様子を見る事はできなかったため、同じような条件のもとで作成された薄膜の写真を例にとり、仮定したモデルの下、検証した。









モデルの仮定


 写真はシリコン基板上に蒸着したAg微粒子の様子であり、島状になっているAg粒子の大きさはおよそ1.0 nmである。一般に知られている粒子間相互作用を考えモデルを設定し検証してみると、Ag粒子間の高さHまでメタノールが積もった時に最も大きい局所電場が生成される可能性がある。即ち、Ag微粒子間距離が最も近い所で、最も大きい局所電場が生成されると考えられる。図のようにAgは丸みを帯びた形状をしているため、膜厚が厚くなると高さHも高くなると考えることができ、この可能性を否定することはできないと思われる。




結論
 仮定したモデルは島状であるという限定であり、連続した膜、欠陥のある膜の場合などを説明する事はできないが、赤外吸収増大メカニズムの一つの側面を担うものとしては十分なものであるだろう。一般に知られている粒子間相互作用を考えると、銀の島同士の距離が一番近いと思われるところで最も大きい局所電場が生成されるために、赤外吸収増大が起こるという結論に達した。



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