蒸着鉄薄膜上に90Kで堆積したペンタカルボニル鉄の熱分解および紫外光(254nm)による光分解過程を赤外反射吸収分光法(IRRAS)を用いて観測した。本来のペンタカルボニル鉄では観測されない赤外不活性な吸収モードが現れることから表面に吸着することによってペンタカルボニル鉄が歪むことが明らかになった。約1.0Lでの飽和吸着の場合には2065cm-1に吸収ピークが現れる。導入量を1.2Lに増やすと、2060cm-1に肩が現れ、マルチレイヤーが形成される3.2Lまで、その強度を増しながら2065cm-1へシフトしてゆく。155Kで分子が脱離するより低い温度でマルチレイヤーの再配列が起こる。160Kで僅かにペンタカルボニル鉄のピークが観測されることから、少量のペンタカルボニル鉄が残存していることが判る。90Kにおいて、マルチレイヤーのペンタカルボニル鉄を光分解すると、Fe(CO)4による2084cm-1のピークがメインとなる。260Kに昇温するとこのバンドは強度を減少させ2064cm-1にシフトする。さらに270Kでは消失する。そのかわりに2050cm-1にバンドが現れ、280Kで消失する。260KではFe3(CO)12が生成していることが予想される。