大学で豊かに学ぶには

—ファインマンと寺田寅彦から学ぶ—


おもしろ学問研究会主催
2005.4.15 宮永崇史
ホームページ:http://www.st.hirosaki-u.ac.jp/~mate_qnt/prof/miyanaga/miyanaga-j.html

1. イギリスの新入生—1年間休学を推奨される
・ その昔、イギリスのケンブリッジだったかオックスフォード大学で、入学後1年間は大学に来ないで、社会体験を学ぶという制度があったと聞きます。受験勉強で硬直した頭脳をほぐし、これから大学で学ぶための意義を見つけるという効果をねらってのことだそうです。現在の日本ではそのようなことは不可能に近いでしょうが、皆さんにはぜひこれに習って心気一転した気分で大学生活を迎えていただきたいと思います。

2. 自己を見つめる学問を目指そう
・ これまでは入学試験の勉強—いわゆる社会的条件をクリアするためのものでした。また、大学でも社会的な資格、就職、免許など、外(社会)に向けて自分をアピールするための学問もありますが、これでは、真に豊かに学ぶとはいえません。
・ これからは、自己を見つめるための学問が大切です。自分自身の血となり肉となる世界観の構築。学んだ知識をそのまま溜め込むのではなく、いったん自分のフィルターを通し、その後、自分自身で考える。—社会のいろんな場面で、その世界観に照らし合わせて判断できる(本当の自信につながる)—人生が楽しくなります。以下に独自の世界観を持った二人の物理学者の話をします。

3. ファインマンの話
・ 伝説の授業「ファインマンレクチャー」とは…
・ 「もし、この世の科学的知識がすべてなくなるとしたら…」
・ ワインの話「グラス1杯のワインの中には宇宙がある」(資料1)

4. 寺田寅彦の話
・ 茶の湯の話「ただ一杯の湯でも、その中の自然現象を観察すれば…」
・ 科学に志す人へ「科学の遊蕩児になろう」(資料2)

5. 二人の類似点
・ どちらも、身の回りの自然現象に対する興味をもっていた。流行の学問に背を向け、人からなんと思われようと自分の興味のある研究だけを行った結果、50年先を行っていた。
・ ファインマンおたくと寺田寅彦おたく

6. おわりに:最後にもう一度 !

自己を見つめるための学問を!そのためには、人からなんと思われようと、社会標準なんて気にせず、独自の世界観をつくろう!


資料編

参考文献:
(1) ファインマン物理学(岩波書店、全5巻)
(2) 寺田寅彦全集(岩波書店全30巻)、寺田寅彦随筆集(岩波文庫、全5巻)


1.ファインマン物理学(岩波書店)第1巻P47


かつて「一杯のワインの中には全宇宙がある」といった詩人がいた。詩人というものは、正確に理解されようとして詩を書くわけではないので、これが本当に意味するところを理解することはできない。だが、現にワインの注がれたグラスをじっくり観察するとその中に全宇宙が存在することも事実である。
(中略)
クラレット(ボルドー赤ワインの一種)のなんと生き生きとしたことよ!それからは、全く目が離せない。ちっぽけな人間が、この一杯のワイン、すなはちこの宇宙を、自分たちの都合で物理学、化学、生物学、地学、天文学、心理学などの学問分野に分けたとしても、自然はそんなことは関知しない。だから、このワイン(宇宙)が何のためにあるかに思いを馳せ、これまでの分類なんかはすべてご破算にしてしまおう。そして、最後にワインを楽しみ、すべてを忘れよう。


2.「科学に志す人へ」(寺田寅彦全集、第4巻、岩波書店)

(途中略)・・・抽象的な議論よりも、まず1番手近な自分自身の経験を語る方が学生諸君のために、かえって参考になるかもしれないと思って、同僚先輩には大いに笑われるつもりでこんなことを書いてしまった。しかし、この個人的な経験は恐らく一般的には応用が利かないであろうし、ましてや、科学の神殿を守る祭祀の司になろうと志す人、また科学の階段を登って栄達と権勢の花の山に遊ぼうと望む人達には余り参考になりそうに思われないのである。ただ科学の野辺に漂浪して名もない一輪の草の花を摘んではそのつつましい花冠の中に秘められた喜びを味わうために生涯を徒費しても惜しいと思わないような「遊蕩児」のために、このとりとめもない想い出話しが一つの道しるべともなれば仕合せである。

(下線は宮永による)