学園だより:コンピュータは電子計算機か文房具か?:補足

学園だよりに 「コンピュータは電子計算機か文房具か?」 という題で文章を書きました。 しかしこれは個人で使うコンピュータに偏った内容でありました。 化学に関する情報処理という面では、 いささか不十分な点があると思われますので、少し補足したいと思います。

化学の分野では、古くから各種化合物の物性・取り扱い方法・合成法などに関する 膨大な情報が蓄積されてきました。 これはおもに、多くの研究者が学術雑誌に論文として公表されたデータです。 研究や開発においては、これらの情報の中から必要なものを素早く 探し出さなければなりません。 現代ではこれらの論文の数は膨大なものがあり、 個人でそれらの全てに目を通して情報を探すことは不可能でしょう。 そこで、二次情報としての抄録誌・三次情報としてのデータブックが、 化学の世界では古くから整備されてきました。 これらは冊子体のものとして出版されています。

このような抄録誌であってさえも現代では全てに目を通すことは 不可能に近い状況にあります。 こんな時に役に立つのが、データベースのコンピュータによる検索だという訳で、 Chemical Abstractsなどのように on-lineで利用できる抄録誌もあります。 (もちろん有料です。情報はタダではありません。) 以前は大学の図書館などに専用線が引いてあり、 利用のためにわざわざ出向いていかねばならず、 (割引の時間は早朝か夜遅くであった)使いにくい思いをしました。 しかし今ではネットワークの整備にともない、 どこからでも利用できるようになりつつあるようです。 (もちろん永遠の問題はコストであるが。) また最近は、抄録誌を機械可読型のメディア(CD-ROMなど)として 出版しているものもあります。 これならば、重たい冊子を何冊も積み上げて調べる代わりに、 個人のパソコンで検索ソフトを利用して調べれば良いので、 労力としてはずいぶん軽減されます。

これからの情報過剰化社会で情報の洪水に溺れず、 また時代に取り残されずにゆくためには、 必要な情報を素早く捜し出す能力が要求されることと思います。 そのための道具であるコンピュータを多いに利用しましょう。


もうひとつおまけ

実験科学とは、つまるところ自然に対してある働きかけをして、 観測されたその結果から、有用な情報(法則)を抜き出すという作業です。 コンピュータは、 実験事実の整理や法則の確認、 すなわち情報処理にとって非常に有力な道具です。 そのための道具であるコンピュータを多いに利用しましょう。

ただしここで重要なことは、 クズの入力からはクズの出力しか得られないということです。 また、コンピュータに誤った指示をすれば、 正しい結果は得られません。 したがって、データ処理をコンピュータで行なったからといって、 結論が正しいということにはなりません。