分子分光学 (20200622) M: 以下は宮本のコメント
16s2008: 
今回の講義で $ ψ_1$$ ψ_4$ が基底状態から遷移許容であるとのことだったが、実際に光を当てて、$ ψ_1$ のように励起したのか $ ψ_4$ のように励起したのかを判断する方法はあるのか M: 遷移エネルギーが異なる. 励起状態での電子密度分布が異なり, それに伴った物性 (双極子モーメントなどの物理的物性や, 化学反応性) が異なる, かもしれない. .

16s2043: 
遷移可能な状態である選択確率を求めるための式で始状態と終状態とがありましたが中間体の時の状態は関係ないのですか。また電気遷移モーメントの e は何を表しているのですか。 M: 単一の光子を吸収して遷移する素過程を考えている. 中間に経由地点がある場合は, 素過程ではなく複合過程である. // 専門用語は正確に. ``電気遷移モーメント'' ではない. 用語をおろそかにしているから, 誤解が拡大して理解が得られない. $ e \bm{r}$ は, 電気双極子モーメント.

18s2045: 
1) 2電子以上の遷移の状態を考えるとどうなるのか // 2) z偏光の観測で例えば、1分子を固定するような方法ではなく、固体状態なら分子の方向がある程度揃うので観測できたりしないのか。 M: 1) 別に, 普通に考えればいいだけでしょ. // 2) 固体状態とは, どんな状態のことか? ある程度そろうとは, どうして? どの程度? どっち向きに揃うのか?

18s2051: 
遷移の選択則について、八面体錯体でのd-d遷移が禁制であることもおそらく今日の講義内容と同様のやり方で説明でき、ラポルテ禁制であることと一致するかと思いますが、分子振動などで対称性が低下してd-d遷移がわずかに許容となる場合遷移確率はゼロにならないかと思います。これを計算する際、どのように補正を行えばよろしいでしょうか。 M: いわゆる d-d 遷移の場合, 始状態で d-オービタルに入っていた電子が, 終状態では (別の) d-オービタルを占有しています. 具体的には例えば 銅(II) イオンを考えてみましょう. $ \DS d^9$ なので $ O_h$ 点群の元で基底状態の電子配置は $ \DS (t_{2g})^6(e_g)^3$ で, 励起状態の電子配置は $ \DS (t_{2g})^5(e_g)^4$ と考えられます (ヤーン・テラー効果による軸方向に伸びる歪みは無視する), すると $ \DS E_g \otimes T_{1u} \otimes T_{2g}$ であり, ここに全対称表現は含まれない. すなわち遷移確率は zero となり, 遷移は禁制 (振電相互作用によってわずかに許容になるので, 現実には *禁制遷移* が弱く観測される). // より一般的には, 始状態と終状態の電子が入っている d-オービタルは gerade であるのに対して, 電気双極子モーメントは ungerade なので, 三者の直積は全対称 (gerade) になることはありえない.



rmiya 平成32年6月29日