プログレス物理化学 II (20150130) M: 以下は宮本のコメント
12s3033: 
C$ _6$H$ _6$ で振電相互作用の説明で電子の遷移で振動を伴う遷移と言っていたが エネルギーは一電子遷移の時より大きくなるとは考えられないのか. M: 何を想定して ``大きくなる'' と言っているのか不明だが, 電子状態の励起エネルギーと振動状態の励起エネルギーの和は, 単なる電子遷移よりは大きくなるだろうが, でも 500 nm の可視光の振動数は 20000 cm$ ^{-1}$ であり, 振動のエネルギーは 1000 cm$ ^{-1}$ 程度であるので, その位のズレはもちろんある.

12s3035: 
振電相互作用があるなら, 配位子を作って形を歪ませることで吸光を変えたりもできるのでしょうか. M: 何を想定しているのかわかりませんが, そもそも金属イオンがどんな対称性の場にいるかということは, そもそも配位子による負の電荷をもった結晶場あるいは配位子場の対称性で決まる話です. すなわち, 配位子の構造や組み合わせを工夫することで, 配位子場の対称性をコントロールするのは, 普通というか当たり前のことなんですけど......

12s3036: 
今回は振電相互作用による許容遷移を考えたが, スピンによる許容遷移を考えるときも似たような考え方があるのか? M: 何を持って ``似たような'' を言うつもりなのかはわかりませんが. 遷移確率というか遷移の許容か禁制かを考えるときに, 遷移モーメント積分がゼロか否かを考えるのは, 基本中の基本です. そこでスピン禁制の遷移が観測されるためには, スピン軌道相互作用 $ \hat{\bm L}\cdot\hat{\bm S}$ を考えることになります.

12s3040: 
振動について, 何故結合音で $ \DS \nu_i$ $ \DS \nu_j$ が別々ではなく合わさったものが観測されるのは どのような原理なのでしょうか. M: 別に. もしもそれぞれの遷移が許容であれば, 普通に個別の振動モードの遷移 (吸収) が観測されます. それに加えて, (もしも許容ならば) 結合音や倍音も観測されるというだけの話ですが...

12s3045: 
振動とカップリングした際, 対称性が低くなりますが, 対称性が失われることはあるのでしょうか. M: ``対称性が失われる'' とは, どういう意味ですか? 対称要素が一つしかない群も, もちろん考えることができます. すなわち恒等操作だけという意味で, $ \DS C_1$ という点群ですけど. そもそも対称性が低下するということは, もともとあった対称要素が失われることにより, もとの点群の部分群になるということですけど, わかってるのかなぁ. 例えば $ \DS D_{6h}$ のベンゼンが, 1,3,5 位方向に引き伸ばされて $ \DS C_6$ の要素を失って $ \DS D_{3h}$ の点群になるとか.

12s3047: 
振動によって対称性が減るとおっしゃっていましたが, 振動によって変化した対称性はどのようにし予想するのでしょうか? M: 考えている振動モードによって, それぞれの原子がどの方向に動くかはわかりますから, それによって分子の歪み方がわかります. そうして歪んだ構造をした分子の点群を決めることは, 普通にやればいいことですよね.

11s3013: 
ベンゼンの振動相互作用を考えたところで, 一電子励起が許容された $ \DS E_{1u}$ が含まれる $ \DS \psi_1$ の内, 残りの 2 つ ( $ \DS B_{1u}$ $ \DS B_{2u}$) が観測されるという結果でした. $ \DS \psi_1$ の成分が全て観測される結果となりましたが, これは偶然ですか? 許容されるものがあっても, 振動相互作用が考えられないものがあることもありますか. M: いろいろと混線している様子. まず, ``振電相互作用'' です. vibrational と electronic の頭と尾をとって vibronic なのです. // 次に, $ \DS \psi_1$ への遷移が全て振電相互作用で許容になったのは, たぶん偶然でしょうね. 同じ一電子励起状態でも別の電子配置への遷移はどうかとか, 振動モードが 30 もあればとか, 思うのです. // 最後の部分は, ちょっと意味が取りにくいけど. まあ直前の ``偶然'' という答えで答えていることになるよね.



rmiya, 20150202