プログレス物理化学 II (20141114) M: 以下は宮本のコメント
12s3033: 
今回の講義でブタジエンの $ \pi$ 分子オービタルに関してとり扱ったが cis, trans で分子のエネルギーは異なると思うんですが, cis, trans は考慮しないのか. M: HMO はトポロジーだけが問題になっているので, 原子間距離は無関係です. しかし, 原子間距離に応じて共鳴積分 $ \beta$ を調節することにすれば, 例えば cis と trans とでは, 末端の炭素間の距離が異なるので, 影響が出てくるでしょう. 分子軌道法は ``教わったものだけ'' が存在するのではなく, 前に述べた注意点をそれぞれに工夫した様々なものを考案できますし, 実際にされています. ある種の MO 法で考慮されていないが, 自分では考慮すべきだと思う事項があるならば, そういう分子軌道法を考案すればいいのです.

12s3035: 
立体構造も加味して考える場合, どのような近似が一般的なのでしょうか. M: 単純 Hückel 以外

12s3036: 
拡張 HMO 法で計算をすると, 今回の計算がどのように変わるのか? また拡張 HMO 法でも対称性を用いて計算できるのか? M: 拡張 HMO (Extended Hückel MO, EHMO) が, 何をどう ``拡張'' したものなのか, 自分で調べてみればいいのではないでしょうか? // 種々の分子積分がゼロかゼロでないかは, 対称性の議論によって容易に可能です. HMO とか EHMO といった特定の分子軌道法に固有の問題ではありません. (本講義の後のパートで登場するでしょう, お楽しみに)

12s3040: 
新しい化合物や, 珍しい化合物に対して, 今までの量子力学の理論が当てはまるか計算したりするのですか. (また, もし, しなかったらその物質を例外として それにのみ適用されるような定数や変数を足したりして, みたいな事をするのか) M: 例外を増やすというのは, 筋の悪い作戦だと思われます. なぜなら, これでは, 初めて出会う分子が例外なのかどうか, あらかじめ予測することができないからです. // π電子系に適用されるヒュッケル法を拡張してσ系にも使えるようにしたり (文字通り拡張ヒュッケル法) とか, 科学の理論は定量性と汎用性を高める方向に発展してきました. このへんは科学史に学ぶ科学観の基本では(?)

12s3045: 
ブタジエンなどの分子において $ \pi$ 電子が非局在化することよりも安定性が得られる手段は無いのでしょうか. M: 私は知りませんが, ヘテロ原子を導入してそこに深いポテンシャルを持たせるか, または電子の運動範囲が広くなるように非局在化させるかしかないのでは? いずれにしても, 電子のエネルギーは運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和ですから, その範囲を超えることはできません.

11s3013+: 
ブタジエンは 4 個という偶数の炭素の対称性を利用しましたが, 3 個や 5 個といった奇数の場合についても滴応[原文ママ]できますか? M: 別に, 普通に適用すればいいのでは(?) 用いた論理に炭素数 ($ p_\pi$ オービタルの数) の制限はありましたか? またさらに, 一つの対称面について symmetric/antisymmetric (S/A) の二通りの場合分けをするだけでなく, 直交する二つの対称面を用いて SS, SA, AS, AA の四通りの場合分けをすることについての禁止もされていないのでは? // 例えば C$ _3$ の場合(末端から順に 1, 2, 3 の番号を付けるとする), 得られる分子オービタルの数は 3 個のはずなので, S と A とで永年方程式の次数は異なるはずです. そして S なら $ \displaystyle C_3 = C_1$ だし, 一方 A なら $ \displaystyle C_3 = -C_1$ です. ここで注意点として中点の炭素の係数 $ \displaystyle C_2$ のあつかいが挙げられます. 中点でひっくり返せば, 中央のこの 2 番の炭素は自分自身に重なります. そこで S のときは $ \displaystyle C_2 = C_2$ (あたりまえ) ですが, A のときは $ \displaystyle C_2 = -C_2$ ということになります. 後者を満たす $ \displaystyle C_2$ がどんなものか, もうお分かりですネ :-)



rmiya, 2014-11-27