プログレス物理化学 II (20121130) M: 以下は宮本のコメント
10s3003: 
反応性を示す指標には様々ありますが, フロンティア電子密度との欠点はなんですか? (実験で用いたのですが, よく理解していなかったので) M: まず対象化合物が芳香族化合物であること, そして反応は置換反応であることでしょうか. もうひとつ重要なことは, あるひとつの化合物の置換位置の間での比較はできるが, 異なる化合物間での比較はできないということ. 例えばベンゼンとナフタレンの反応性を互いに比較することはできない. なぜならば, $ i$-番めの分子軌道の係数は $ \displaystyle \sum_r^$all atom$ \vert C_{ir}\vert^2 = 1$ と規格化されているので, 分子が大きくなればなるほど, 全体の傾向としてフロンティア電子密度は小さくなるだろうから.

10s3010: 
今ではスペクトルなどで簡単に分子構造や分子式を同定することができますが, このような機器が発達する前は どうやって分子式を決定していたのでしょうか. M: 元素分析で, 含有元素の組成比を実験式として求めた後は, 基礎化学実験でもやったような官能基の有無の試験や, 異性体の数, 様々な反応により既知の化合物に変換したり (反応ルートから元を推定), いろいろと考え付きませんか? こういった入手できる情報を相互に組み合わせて考えたのでしょう. さながら暗号解読のようですね, 先人の苦労が偲ばれます. 逆に言えば, 現代の様々な機器を開発し, データ解析方法を考案した人達は, これまた凄いことを成し遂げてくれたわけですね.

10s3018: 
水は 4 $ ^{\circ}$C で一番密度が大きくなるのは なぜですか? M: 水の結晶 (氷) の構造の絵を見たことないんですか? // 氷の構造は, 細密充填ではなく, 分子間の水素結合による網目構造 (酸素原子の配置はダイヤモンドと同じ) で, けっこうすき間の大きな構造をしていますね. 熱をかけて融点で液化しても, ミクロに見れば, この網目構造が完全に壊れたわけではないということでしょう. 網目構造を構成する水素結合に打ち勝つ運動エネルギーを得るには, もう少し温度を上げないといけない.

10s3020: 
蛍光灯は切れかけるとき, なぜ黒いラインが入るのですか? M: その黒いラインは, いったい何なのでしょうか? 自分で調べてみてはいかが? // 白熱電球は, フィラメントに電流を流してフィラメントが暖まると, 可視 (から赤外) 領域に渡って幅広く発光します. すなわち黒体輻射ですね. 一方蛍光灯は, 水銀原子の発光 (紫外線) によって励起された物質の蛍光を利用しています. 蛍光体は管の内壁に塗布されており, 水銀は蒸気として管に封入されており, その水銀原子は, 放電によって励起されます. ということで, 実は蛍光灯は, 身近で利用されている量子力学的現象だったのだ〜 ;-)

10s3023: 
原子の周期表で, ある金属の両隣の金属を溶融して, そのある金属と似た性質を引き出すというものを見たのですが, どういう理由で, 間の金属の性質に似てしまうのですか? M: 具体的には, 何でしょうか? // すぐに思い付くのは, III-V 化合物ですが (現在の族番号では 13 族と 15 族). 例えば BN は, 相によって黒鉛あるいはダイヤモンドと類似の性質を持つし, GaAs は半導体ですね. 平均としての電子の数や核の電荷, 原子間距離などが似ているために, バンド構造も類似することになり, 類似した物性となると予想されます. いずれにしても, 原子はランダムで均一に混ざっている必要がありそうで, 特異な構造を作ってしまうようではダメでしょう.

10s3026: 
なぜ $ N_$max は中心炭素の結合次数の総和で表せるのか. M: いろんな構造を考えて, そのときの当該原子のまわりの結合次数の総和を求めてみればいいのでは? で, どうやったら結合次数の総和が最大になるか, 考えてみてください.

10s3028: 
章末 10:43 と 44 における, 直鎖状・環状のポリエンについての一般解がありますが, これに NH$ _3$ や COOH 等の官能基を加味した一般解もありますか. M: それらの官能基を, どこにいくつ付けるのでしょうか? 官能基の一般的な導入方法って, あるんですか?

10s3029: 
フロンティア電子密度は, 電子密度と何が違うために, ナフタレンの 1,2 位の反応性を求めることができたんですか? M: フロンティア電子密度と (普通の) 電子密度の, それぞれの定義を比較すればいいのでは?

10s3036: 
光は粒子性を持っているのに質量がないのはなぜですか. M: 質量を持たないものは粒子性を持つとは言えないとの主張でしょうか? あるいは, 一般の粒子が持つすべての性質を持っていないと, 粒子性を持つと言ってはいけないのですか? あなたのいう ``粒子性'' とは, 何のことですか? // もしも光が (ゼロでない) 有限の質量を持っていたら, 相対性理論により, 光速度では運動できないことになりますネ (光を光速度まで加速するのに無限のエネルギーが必要). あるいは光速度で運動する光は無限大の質量を持つことになる :-p

09s3040: 
自己分極率で出てきた試薬とは どのようなものですか? M: 興味の対象となっている分子自体の一般的な性質を述べるのに, 反応する相手の試薬が具体的に何であるかは, あまり関係ないと思いますけど? 議論の構造がわかってないのならば, フロンティア電子論では, 反応する相手としてどんな試薬が登場したか, 思い出してみればいいのでは?



Ryo MIYAMOTO, 2013-01-15