プログレス物理化学 II (20121116) M: 以下は宮本のコメント
10s3003: 
$ ^1$H NMR で, 隣接炭素においてプロトンが存在すると, ピークが分裂しますが, どのような原理で分裂するのでしょうか. M: スペクトルがそうなることは, 教科書 § 14.6 参照. それとも, スピン-スピン相互作用の中身の話か? それなら p.600 の前半にも書いてあるとおり, スピン磁気モーメント間の相互作用, すなわち相手の磁気モーメントにより生じる磁場を感じているということ.

10s3008: 
ものすごく複雑な分子であっても余因子展開で求める答えは 4 乗になるんですか? また, その複雑な分子の場合もブロック対角を利用した方が簡単なのですか? M: いいえ. 今日の講義で 4 次の行列や行列式をあつかったのは, 対象となる分子がブタジエンだったからです. ブタジエンでは 4 個のπ電子を考え, ひいては 4 個の 2p 軌道から分子軌道が構成されているからです. したがって, 他の分子であれば, 用いる AO の数に応じた次元になるし, 小ブロックの次数も, 用いた直交行列すなわち分子の対称性に依存する話でしょう.

10s3010: 
NMR において (CH$ _3$)$ _4$Si を加え, それをスペクトルの標準にするらしいのですが, なぜ (CH$ _3$)$ _4$Si を用いるのでしょうか? M: 別に. 安定で他の化合物とは反応せず, 電子的環境としても素直(?)だからでしょうか. 最初に選んだ人に聞いてみればいいのかも :-p

10s3018: 
NMR において, 隣接する炭素に N 個の等価なプロトンがある場合, シグナルが $ (N+1)$ 本に分裂するのはなぜ? M: 今日は NMR についての質問が多いけど, どしてかな (笑) // 教科書の § 14.7-14.8 あたりが関係しているかな. p.613 で納得できないときには, きちんと図 14.9 に相当するものを考えてください.

10s3020: 
別の授業で点群の掛算表を作ったあと, フローチャートを使って点群を求めたのですが, その後は どういうことにつながっていくんですか? M: あぁ, あの授業ですね :-) その授業では, その後の話はしなかったのでしょうか? もう少し具体的には, 指標表を使って... わたしの方ではちゃんとやるつもりですので, お楽しみにぃ〜 ;-)

10s3023: 
プロトン NMR 分光計において, 周波数 60 MHz ないし 750 MHz で運転するとあって, 周波数を上げると分解能が上がるそうですが, 60 MHz の低い方を使う利点は何ですか? M: 教科書 § 14.3 の題目にそうあるわけですが, 本文も読んだのでしょうか? 歴史的には, 装置は低周波数から高周波数へ向かって発展してきたのですが, これは磁石や高周波回路の発達や, パルス化に必須の FT のアルゴリズムとコンピュータ化などの要素もからんでいそうです. 現在では 300 MHz 以上の装置が普及したため, 普通はあえて 60 MHz の装置を併設して使用する利点は少ないでしょう. しかし, 装置の価格が安く, またメンテナンスが容易 (液体ヘリウムが要らない(!)) であることから, 世界の市場では一定の需要はあると思われます.

10s3026: 
定量的な値を得るために α, β には経験的な値を入れると板書にあったが, α, β の正確な値はわからないのか? M: 正確な値を求めるために必要なものは, 何でしょう?

10s3028: 
今回学んだ行列を用いて炭素鎖が 50 とかの物質のものを求める場合, 行列式も 50×50 になると思いますが, この計算はパソコンだと一瞬で出来てしまいますか. M: 使用するパソコンの性能次第だと思いますが. 直鎖や円環の場合には一般解がありますので (章末問題 10.43, 10.44 参照), その意味ではパソコンを使用しなくても一瞬かな :-)

10s3029: 
E の定量的な値を得るために, α, β に経験的な値を入れるとあるが, α, β はどのような実験から求めることができるんですか? M: もともと講義で紹介したような大胆な近似 (仮定) に基づく分子軌道法なので, 得られる結果についても, その限界をわきまえて使用するのが吉かと思われます. すなわちこれらのパラメータに具体的な値を入れなくても済む範囲で議論するのが美しい. どうしても値を入れたければ, 例えば一連の化合物のイオン化ポテンシャルの実測値と計算値を比較し, あるひとつの化合物の値が合うように α, β の値を決めるなどしているようです. 下の表は米澤らの量子化学入門に載っていたものの抜粋ですが, ここに示した計算値は, $ \alpha = -7.06$    eV, $ \beta = -2.49$    eV とおいて得た値です. (cf. 講義では $ \alpha = 0$, $ \beta = -75$    kJ/mol$ = -0.777$    eV を紹介した. このように ``どの値が正解か'' ではなくて TPO に応じて.)
表  芳香族炭化水素のイオン化ポテンシャル
化合物 $ E_$HOMO $ E_$calc/eV $ E_$obs/eV
ベンゼン $ \alpha + \beta$ 9.55 9.52
ナフタレン $ \alpha + 0.6180 \beta$ 8.60 8.68
フェナントレン $ \alpha + 0.6050 \beta$ 8.57 8.62
アントラセン $ \alpha + 0.4140 \beta$ 8.06 8.20
ナフタセン $ \alpha + 0.2950 \beta$ 7.80 7.71
3,4-ベンズフェナントレン $ \alpha + 0.5680 \beta$ 8.48 8.40

10s3036: 
(関数の複素共役)×(演算子)×(関数) を積分することで その演算子に対応する物理量の平均値が計算できるのは どうしてですか. M: どの段階が疑問なのでしょうか? 平均値が得えられることについては, 任意の関数が演算子の固有関数系で展開できることからわかります. この証明は, よい演習問題です.



Ryo MIYAMOTO, 2013-01-15