プログレス物理化学 II (20121025) M: 以下は宮本のコメント
10s3002: 
結合角から s 性がわかるということは, 結合角を設定して, 分子を想像することは可能なのでしょうか. M: ``結合角を設定して, 分子を想像する'' とは, どういうことでしょうか. まあ, 想像だけなら, どんな分子でも想像できるとは思いますけど...

10s3008: 
VSEPR 理論にもとづいて分子を配置すると, 異性体ができると思うのですが, その場合, 分子同士の反発の角度は変わるので, $ \displaystyle \psi_n$ の値も変わるのですか? M: 意味不明です. VSEPR は, ある原子の周りに結合する原子などを配置するものであって, 分子間の相互作用をあつかっているものではないと思うのですけど. // さらに, 反発の角度が変わると $ \displaystyle \psi_n$ の値が変わるって, いったいどういう話なのでしょうか?? そもそも $ \displaystyle \psi_n$ とは?

10s3010: 
群論を学んでいて, たくさんの記号が出てきて, 覚えづらいのですが, どうすればいいでしょうか. M: 複雑な漢字を覚えるときに全体像を一気に覚えるのではなく, 偏や旁に分解して, それぞれの部分の形とその配置として漢字を構成して覚えますよネ. そして部分の形の意味とか読みとかで, その漢字の意味や読みがなりたっていますよね.

10s3018: 
p 軌道のローブの長さは物質によって異なりますか? ローブの長さを求めることはできますか? M: ローブの長さを, どのように定義しますか? 例えば水素類似原子の動径分布関数は, 図 6.3 のような形をして, 無限遠まで延びています. もう少し角度方向の情報を加えて空間的な形をイメージするならば, 図 6.5 や 6.6 の様に, 濃淡や等高線表示ということになります. そうは言っても, CPK モデルのように, 分子の外形があるものと考えたくなるのが人情でしょう. すると, 簡単には, vdW 半径を考えれば, これは原子の種類 (元素) によって, 異なった値が割り振られています. もう少し分子の個性を強調したければ, 電子密度分布の一定の割合を囲む閉局面を考えたりすることもあるでしょう. あるいは電子密度分布がある一定の閾値をこえる領域を囲む閉局面という方法もあるでしょう.

10s3020: 
例えば CO$ _2$ の立体構造は直線形ですが それぞれの原子の同位体で同じように CO$ _2$ を作る場合, 立体構造は少し変化するのでしょうか? M: 20121019 の 10s3018 も参照. 同位体置換によってポテンシャル曲線が変わるということは, エネルギーが極小になる位置, すなわち平衡核間距離などの構造要素もわずかながら変化することが予想できますよね.

10s3023: 
分光光度計の検出器は, どんな仕組みで, 光を検知しているのですか? M: 高級なものだと光電子増倍管 (ホトマル, photomultiplier) を用いているでしょう. 他にも ccd やら 熱電対やら, いろいろあるでしょう. 機器のメーカーに聞いたり, カタログを参照してみればよいのではないでしょうか.

10s3026: 
VSEPR では角度まで求められないということだったが, 他の式で簡単に角度がわかる式はないのか? M: 残念ながら, 今のところ, ありません. あなたが見付けてもいいですよ. チャレンジしてみてはいかがでしょうか. :-) ちなみに, 難しい式はあります. 分子のシュレーディンガー方程式を解いて, ポテンシャルの極小点を見つけることです.

10s3028: 
今のところ存在が確認されている最の[ママ]混成軌導[ママ]はどの軌導[ママ]とどの軌導[ママ]の混成から出来ていますか. M: ``最の混成軌導'' とは, どういう意味ですか? どう補って読めばいいのか, 全く見当がつきません.

10s3029: 
CH$ _3$Cl の場合, 3 つの C-H 結合は等価な軌道ですが, C-Cl 結合は, C-H 結合と等価な軌道になるんですか? M: 立場によるでしょう. もっとも単純には, 四つの結合は等価であって, ただそのうちのひとつに Cl が結合していると. 高級な方では, CH$ _3$Cl は C$ _{3v}$ の点群に属するので, C-H と C-Cl とは非等価となります. またこの点群では, 縮重表現は 2 次のものまでしかないので, 3 本の等価な C-H 結合に対応した三つの等価な (三重に縮退した) 分子軌道は存在しないことになります. 09s3040 も参照.

10s3036: 
なぜ, 授業で 11 章の計算量子化学はやらないのですか. M: 現代の分子科学において, 計算機による量子化学計算 (分子軌道計算など) は, 非常に重要で強力な要素のひとつではあります. 計算によってここまで分かるとか, 実測値にあうように (ここまでで説明されていない) 様々な要素を考慮していることを知るのは, 将来, 計算化学的手法を使う場合に, ブラックボックスではなく, 少しは中身について知っておく意味でも大切な事だとは思います. しかし, 量子化学の入門者 (の全員) に説明するには, 11 章は「量子化学計算って, 中では色々複雑な事をやっているんだな」という感想以上のものは得られないにもかかわらず, ツールの使い方的な要素も大きく, 講義でとりあげる必要性は低いように思われます.

09s3040: 
H$ _2$O のときも sp$ ^3$ 混成のように電子の昇位が起きているんですか.
M メタン (CH$ _4$) の時も, 実際に昇位が起こっているわけではありません. 2s の電子のうちのひとつを 2p に移すとしたら, エネルギーが高くならなければいけないという意味でしかありません. 混成軌道を作るという話の範囲では, 2s と 2p の準位の間の位置に混成軌道のエネルギー準位が来ることで, 全体としてエネルギーは保存されています. 実際には, 水素の軌道も含めて, 分子全体に広がった分子軌道に電子が入っていると考えられます. すると実は, Td の点群には四重縮重の表現がないので, 等価な四本の C-H 結合に相当する等価な四個の軌道というものは, 存在しないのです. 後半には 10s3029 も参照.



Ryo MIYAMOTO, 2013-01-15