プログレス物理化学 II (20121012) M: 以下は宮本のコメント
10s3003: 
$ \sigma$, $ \pi$, $ \delta$, $ \varphi$ 結合が同時に存在する分子は原理的には可能なのでしょうか? 実際に存在しているのでしょうか? M: 四重結合以上であれば, $ \delta$ 結合まで利用しなければなりませんが, $ \varphi$ 結合を持つ化合物については, 残念ながら私は知りません.

10s3008: 
結合の符号が変化することは, その分子の振る舞いに影響するのですか? また, 結合の種類を知ること以外になにか役割はあるのですか? M: 物理的実体は波動関数を自乗した電子密度分布であるので, 波動関数の符号によって, 分子の振る舞いが変わることは考え難いというのが, 最初の感想かと思われます. しかし Woodward-Hoffman 則は, 生成物の構造が反応に関与する HOMO, LUMO などの軌道の対称性 (MO を構成している AO の符号) に支配されるというものですから, 軌道の符号にも物理的実体に影響を与えることが可能な場合もあるようです. また, 例えば $ \sigma$-結合と $ \pi$-結合を比べれば分かるように, 結合の強さや反応性に差異はありますネ.

10s3010: 
結合性軌道のエネルギーと反結合性軌道のエネルギーをどちらも求めるのはなぜでしょうか. 反結合性軌道の $ E$ はどのようなことに役立つのでしょうか. M: 要不要の観点からしか物を見ることが出来ないのは残念です :-p 直接的には, 原子間の結合を弱めることに役立つと言えますが, 空軌道であれば電子を受け入れる役に立つことでしょう. 軌道間の相互作用について, 今後登場することがあると思いますが, 軌道間の相互作用の大小には, 軌道の重なりだけでなく軌道エネルギーの差も関与していると考えられます.

10s3018: 
N$ _2$ と O$ _2$ では $ \sigma_{g}2p_z$ 軌道のエネルギー準位が $ \pi_{u}2p_x, \pi_{u}2p_y$ 軌道より低くなるのは なぜ? M: えーと, 図 9.13 を見ると, そんな風にはなっていませんけど(?) // 軌道間の相互作用に対する軌道エネルギーの影響については, 今後の話題ですが, 私は F$ _2$ における軌道の順番の方が, 第一義的な姿ではないかなと思っています. これに対して, 周期表で小さい原子番号の元素になるにつれて, 2s 軌道に由来する MO のエネルギー準位が上昇してきていることに気づかれるでしょう. 軌道のエネルギーが接近すると, 軌道間の相互作用が増加して, 対称性が同じ軌道の間で混合が起こります. 結果として下の軌道は少し下へ, 上の軌道は少し上へとエネルギーも変化します. こうして $ \sigma_{g}2p_z$ の位置が $ \pi_{u}2p_x, \pi_{u}2p_y$ の位置を飛び越えて上昇してしまったと見ればいいのではないかと思われます.

10s3020: 
指標表の数値でどういったことがわかるのですか? M: 群論を勉強してください (キリッ). // 直接的には対称か反対称かがわかりますが, それを元にした豊かな世界が広がっています.

10s3023: 
今年のノーベル化学賞で, 放射性ヨウ素をトレーサーとして, ホルモンにつけているとあったのですが, 目的のホルモンに決まった, ヨウ素を, どうやってつけるのですか? M: 詳しくは知りませんが, 機能とはあまり関係ない部位に, 普通にヨウ素置換とかヨウ素付加とかするのではないでしょうか? 放射性であっても, ヨウ素の化学的性質に違いはないのだから.

10s3025: 
物理化学の勉強法がわかりません. 教科書をくり返しやれば理解できるようになりますか? M: 昔の人が漢文の素養を身に着けるにあたって, ``読書百遍, 意自ずから通ず'' と言ったことに習えば, 一理くらいはあるかもしれませんネ. しかし, あなたの言うところの ``やる'' が, 何をどうすることなのか分かりませんので, 何とも言えません.

10s3026: 
結合軸まわりで 45回すと符号が変わる結合はあるのか? M: 最終的に $ \displaystyle 360\Deg \times (\frac{1}{2})^n$ の回転角度とまとめられたので, 自分で考えてみればいいのではないでしょうか?

10s3028: 
f-f 結合を考えると, 四重結合はありえますか. M: 2p 軌道による $ \pi$-結合まで考えれば三重結合が可能であり, 実際にそのような化合物があるので (何だかわかりますよネ?), 四重結合をするのに f-f 結合まで考慮する必要はないと思われます.

10s3029: 
ボルン-オッペンハイマー近似で核の運動について考えるときは, 電子の運動を無視するということが, 平均的な電子密度分布で考えるということなのか? M: 電子と核の質量の違い (プロトンとで 1800 倍!) から, 運動速度に違いがあるだろうと考えているわけです. 比較的ゆっくり動く核から見ると, 電子の運動はどう見えるでしょうか? という話です. で, 図 9.9 のようなポテンシャル中を運動する振動子にとって, 電子は何なんでしょうかネ?

10s3036: 
変数分離が使えると判断する基準は何ですか. M: 変数分離の手順を考えてみてはいかがでしょうか. その手順のうちで, どこに支障があれば, 変数分離できないかを.

08s3003: 
結合次数で Li$ _2$ の例を出しているのは なぜでしょうか? M: 著者に聞いてみればいいのでは? それがわかると, 何がウレシイのでしょうか??

09s3040: 
等核二原子分子のとき, わざわざ結合性オービタルを $ \sigma_{\uline{g}}$, 反結合性を $ \sigma_{\uline{u}}$ と添字をつけて表すのは なぜですか? M: それらの添字の意味は何でしょうか? 名前 (記号) を見るだけで性質が分かるのは, 便利ではありませんか??



Ryo MIYAMOTO, 2013-01-15