分子構造論 (20100721) M: 以下は宮本のコメント
08s3002: 
励起状態の波動関数はなぜ振動の自由度である 2A$ _1$ と B$ _2$ しか与えないのですか ? 並進の自由度と回転の自由度は励起に関与しないのはなぜですか ? M: 分子内振動のエネルギーについての励起を考えていたからです. 電子状態の励起であれば, 電子の入っている分子オービタルの対称性が関与してくる話になります.

08s3011: 
§ 13.9 で基準モードという新しい座標が導入されていますが, これの他のモードというものはあるのですか ? また, 他のモードにおいての分子の点群, はどのようなものになるのでしょうか ? M: 08s3043 参照. で, モードがどうであれ, 分子の属する点群は分子の幾何学的構造によって決まりますけど…

08s3017: 
normal mode の数は IR のスペクトルを観測することからわかりますが, そこからどのモード (変角モード 等) かを知る方法はありますか ? M: 08s3043 参照

08s3021: 
対称操作を行った結果, 値が変わってしまう物性値は例外なく存在しないのですか. M: 例外のない規則はない, と成りそうな所ですが…… 物性値が分子の対称性を反映している以上, また対称操作により (見かけの) 分子の原子配置が変わらない以上, 値が変わることは無いと思われます. // 物理量には三種類あります. すなわちスカラー量・ベクトル量・テンソル量です. 前者は値のみの量で, 分子の向きに依存しない物理量です. 後ろ二者は大きさと方向を持った物理量ですが, その方向は分子軸に固定されていると見るべきでしょう. したがって対称操作では見かけの分子の向きが変わらないので, 値は変わらないと言えるでしょう.

08s3028: 
直和とは何を表したものなのですか. M: 可約表現の簡約は, 言い換えれば表現行列の直和分解です. 行列が相似変換によりブロック対角化された場合に, そのブロック対角行列は (ブロック部分の) 小行列の直和に等しい. すなわち,

$\displaystyle \bm A \equiv \left( \begin{array}{@{\,}ccc@{\,}} \multicolumn{1}{...
...\ \cline{2-3} \bm 0 && \multicolumn{1}{\vert c}{\bm A_3} \\ \end{array} \right)$    

のとき

$\displaystyle \bm A = \bm A_1 \oplus \bm A_2 \oplus \bm A_3$    

という話は, 授業中でしましたよネ.

08s3032: 
$ C_{2v}$ において既約表現は A$ _1$, A$ _2$, B$ _1$, B$ _2$ の 4 種類があるので, $ \Gamma_i \otimes \Gamma_j =$   A$ _1$ となる組み合わせは 4 通り $ \Gamma_i \otimes \Gamma_j \neq$   A$ _1$ となる組み合わせは $ 2 \times 3$ 通りであり, A$ _1$ が A$ _2$, B$ _1$, B$ _2$ の 2 倍になっているのは どのような意味があるのでしょうか. M: その ``2 倍になっている'' って, 何のことですか ? $ C_{2v}$ 以外の, 例えば $ D_{6h}$ など, 他の点群についてはどうですか ?

08s3040: 
遷移モーメントは, 振動についての遷移が観測可能かどうかを調べることができますが, 振動にしか適用できないのですか ? 例えば回転についての遷移は, どのような方法で観測可能かを調べるのですか ? その方法に, 群論を用いることはできますか ? M: 基底状態・励起状態の波動関数をどうとるか, 励起を引き起こす摂動のハミルトニアンをどうとるか, によって色々な種類の遷移に対応できます. 講義では振動状態の遷移について, 赤外線吸収を考えましたが, 同じ振動でもラマン散乱はまた別扱いになります. さらに同じ電磁波の吸収でも, 電子状態の遷移に対応する UV-vis の吸収であれば, 波動関数は電子状態を表わすものになります.

08s3043: 
水分子の既約表現は $ \Gamma = 2$   A$ _2 +$   B$ _2$ [ママ] で, 赤外スペクトルに 3 つのバンドを持ちますが, 二つの A$ _1$ と B$ _2$ がどのバンドに対応しているというのは どうやってわかったのですか ? M: その分子がどんな基準モードを持つかは, 基準振動解析により (その対称性が) わかります. 具体的な核の変位の方向などは, もう少し別のことをしないとわかりませんが (生成演算子とか GF 行列法とか, 後述). まあ対称心を持つ分子であれば, 振動モードが IR とラマン散乱とで相互禁制なので分類できますね. // さて振動モードがラマン散乱で観測されるなら, 偏光解消度の測定により, 全対称振動 (A$ _1$) か否かがわかります. あとは理論的考察でも判断できるのではないでしょうか. 例えば, 伸縮振動に比べて変角振動は一般に振動数がずっと低いと考えられる. あるいは二つの O-H 結合に対応して二つの O-H 伸縮振動があるはずであるが, これが等価な (同じ振動数の) O-H のためにカップリングして, 対称伸縮・逆対称伸縮を形成して分裂する; O-H 伸縮振動領域に二つの振動モードがある, などかなぁ. その他, 最近では理論的な振動数や振動モードの計算結果との比較も帰属には有力な手段. さらに実験的には, 同位体置換した試料による振動スペクトルの測定も, 非常に有力な手段.

08s3049: 
遷移モーメントを求める部分で $ \psi_E^*$$ \hat{Q}$$ C_{2v}$ の場合ではそれぞれ B$ _2$ と A$ _1$, B$ _1$, B$ _2$ となるのはなぜですか ? また, 最後の部分で $ \psi_E^*$ が 2A$ _1$ と B$ _1$ になるのはなぜですか ? M: 前者について, 例示したものの意味は考えなくても結構です. 被積分関数の各因子が示された対称性の場合に, 積分全体の対称性がどうなるかを考える必要があるという話です. // 後者については, 振動状態の基音の遷移なので, (振動) 励起状態は振動モードの対称性のいずれかになります. また最後の板書の ``$ \psi_E^*$ が 2A$ _1$ と B$ _1$'' は ``2A$ _1$ と B$ _2$'' の誤りでした. 手元のノートでの軸のとり方が板書と違っていたので間違えました, スミマセン m(__)m 皆さんもご注意ください.

07s3032: 
H$ _2$O の 3 つの基準モード (対称伸縮, 変形[ママ], 逆対称伸縮) の振動数は, どのような操作の結果得られた値ですか ? M: 実測のスペクトルにおける吸収波数を読むという操作 ;-p    08s3043 参照



Ryo MIYAMOTO, 2010-07-26