分子構造論 (20100714) M: 以下は宮本のコメント
08s3002: 
今日の授業で群の位数を A0 であらわせることがわかりました. では, 点群はオービタルエネルギー準位図を表すことができるのですか ? もし, あらわせるのであれば, どの群の位数, 既約表現がどのエネルギー準位に相当するのですか ? M: 何だかとても混乱している様子が見て取れます (でも本人は分かったつもりなのかしら, 不思議です). ``群の位数を A0 であらわせる'' って, 何のことでしょうか ? そんな話は, 授業でしていないはずなんだけどネ. さて, 今日は直接は話をしませんでしたが, 分子オービタルが群の既約表現に属する・分子オービタルが既約表現のいずれかと同じ対称性を持つということは, それぞれの分子オービタルの対称性を考えて (対称操作でどのように変換されるか), 表現行列を考えて (一次元の表現であれば $ +1$$ -1$ か), 指標を考えれて, 該当する指標表と見比べればわかります. 分子オービタルに電子が詰まった状態 (基底状態や励起状態など) については, 直積をとる必要がありますが… // 群論は, 対称性に基づいたオービタルや状態の分類や相互作用の有無については 非常に有用な知見を提供してくれますが, エネルギーの値そのものは, (ゼロで無い限り) 必要な積分などを計算しなければわかりません. これだけは群論の及ばないところです.

08s3011: 
群論では回転や鏡映の操作が主ですが, § 13.9, § 13.10, § 13.14 などをみると, スペクトルや振動について触れています. 振動と群論の関連性はどのようにしてうまれるのですか ? どのように考察するのですか ? M: 振動については 08s3049 参照. スペクトルについてはオービタルの対称性と直積の知識が必要. 08s3002 も参照.

08s3017: 
既約表現を, 和として表すメリットは何ですか ? M: うーむ, メリットとかそういう問題ではなくて, 単に簡約 (次の項を考えれば, 直和分解) できるというだけのこと. あるものの基本成分がわかれば, 色々なことが考えられるという一般則だと思うのですけど……

08s3021: 
点群 $ D_{3h}$ に属する分子は $ \rm A_1'$$ \rm E'$ という対称性を持つことが判りました. $ \displaystyle \rm\Gamma = A_1' + E'$ と書くということは, $ \rm A_1'$$ \rm E'$ を同時に作用させる場合, それぞれの表現行列の和が $ \Gamma$ の表現行列になるのですか. M: ``$ \rm A_1'$$ \rm E'$ を同時に作用〜'' のあたりから後ろ, 質問の意味がわかりません. たいていの本では, 可約表現を既約表現に簡約した結果を $ \displaystyle \rm\Gamma = A_1' + E'$ の様に書きますが, この $ +$ は通常の数やベクトルや行列の和ではないことに注意しなければなりません. 本来の簡約は, 表現行列を相似変換して小行列が対角線上にならんだ形 (ブロック対角) にすることです. 線形代数の本ではこれを ``直和分解'' 呼び, $ \oplus$ の記号を使っているものもあります. すなわち $ \displaystyle \rm\Gamma = A_1' \oplus E'$ というわけです. (既約表現の) 表現行列で見ると, $ \rm A_1'$$ \rm E'$ とでは行列の次元が異なりますから, 行列同士の普通の足し算はできないことに気づかれるかと思います.

08s3032: 
$ D_{3h}$$ C_{4v}$ 等の指標表の右側にある 2 つに分割された部分の右側だけに x, y, z や R$ _x$, R$ _y$, R$ _z$ がうまっている欄には どんな特別な意味が含まれているのでしょうか. [表の概略を書いて「この部分」と指し示している図は省略] M: 指標表の対称操作と既約表現の記号と指標以外の部分は, いわばオマケです. で, 問題の右端の部分ですが, 授業中にも説明しましたが, x, y, z の直交する軸方向の基底ベクトルがどの既約表現に属するか (既約表現で表される対称性を持っているか), x, y, z の直交する軸周りの回転がどの既約表現に属するかが, 多くの指標表には記載されています. あるいは二次の基底 xy や z$ ^2$, さらに三次の基底 xyz, z$ ^3$ などについて記載されているものもあります.

08s3040: 
可約表現 $ \Gamma$ を求めるために, 今日の授業の最後でやったように, 行列を一つ一つ求めなくてはいけないのですか ? そうでないなら, 他にもっと簡単に求まる方法はどのような方法がありますか ? M: 指標が表現行列の対角和であることに注意すれば, 対角要素だけを効率よく求めればよろしい. すなわち, 基底が対称操作によって位置を変えるかどうかを調べ, 位置が動かないモノの数を数えればよい. ただし, 位置が動かずに向きだけ変わる場合は $ -1$ と数える. 授業中では, z 方向の単位ベクトルを基底にするとどんな指標が得られるかを実演しました. この場合には, 位置は変わらずに向きだけ変わったり変わらなかったりした訳ですけど…

08s3043: 
回転を表すベクトル R で右まわりと左まわりがありましたが, この二つを区別するのはなぜですか ? 例えば, 右まわりに 120$ ^\circ$ と左まわりに 240$ ^\circ$ 回転するのは同じという感じに考えてしまうのですが…. M: 対称操作と, それが作用する対象 (!) とを区別してください. まず対称操作について言えば, 確かに例示された二つの操作は同じモノを与えます. 作用対象の方の回転としては, 例えば自転している独楽を想像してください (ただし上面と下面の区別はつかない). 時計の針でもいいですけど, ただし裏面からでも針の回転が観測でき, 時刻を表す 1-12 の数字は無いようなものに限ります. デジタル時計じゃ駄目です ;-) いずれも回転方向だけが考慮の対象になります.

08s3049: 
p.524 に群論は多原子分子の振動を分類するのにも使うことができるとあるが, 具体的にどのように分類されるのですか ? M: 基準振動については § 13.9, 13.10 参照, これらの振動モードの関与する振動スペクトルにおける赤外活性・ラマン活性などについては, § 13.14 参照. ていうか具体例については, 今まさに授業でやっていて, 一部は宿題として次の時間に継続していたところナノダ ;-)

07s3032: 
(12.22) 式を用いて可約表現 $ \Gamma$ を計算する際, 与えられている可約表現の次元と一致するとその他の対称操作については計算しなくてもよいということでしたが, この時, 可約表現の次元と合うように対称操作を選ぶコツはありますか ? M: ``その他の対称操作については計算しなくてもよい'' とか ``可約表現の次元と合うように対称操作を選ぶ'' の意味がわかりません. そもそもそんなこと言ってないし. 簡約により可約表現に含まれる既約表現の数を求めるときには, 既約表現ごとに計算しますから, ``その他の既約表現については計算を省略できる場合もあり'' ますが, それにしても, その時点までに計算間違いをしていない場合に限られます. 慣れないうちは, 全ての既約表現について計算し, さらに既約表現の次元の総和や, 対称操作ごとの既約表現の指標の総和などを求めることで, 検算した方が安全です. 慣れればこれら検算の過程もすぐにできるようになるでしょう.



Ryo MIYAMOTO, 2010-07-20