分子構造論 (20100707) M: 以下は宮本のコメント
08s3002: 
[表 12.5 のような表の $ A_1$ の行に z, $ B_1$ に x, $ B_2$ に y を添えた表 は省略] $ C_{2v}$ の既約表現において, なぜ $ A_1$ が z 軸, $ B_1$ が x 軸, $ B_2$ が y 軸に相応するのですか ? M: それぞれの軸に対称操作を施し, どのように変換されるか, 対称/反対称を考えてみてください.

08s3011: 
指標表 (教科書 表 12.9, 表 12.10) において, x, y, z の積が変換されたものが示されていて, d オービタルの議論やラマンスペクトルに用いると書いてあります. d オービタルは複雑な軌道の形を形成していると思うのですが, どのように用いるのですか ? また, 用いた後はどのようなアプローチで考察・議論をすすめていくのですか ? M: x, y, z そのものについては 08s3002 参照. // d オービタルの対称性の場合には直積を考える. x と z, y と z の積表現, および z の二乗については自明である. x と y の積表現については, より正確には対称積をとらねばならず $ [E \times E]$ = $ A_1 + E$ となる (普通の直積なら $ E \times E$ = $ A_1 + A_2 + E$). // ラマンについても直積を考えるが, 分光学的遷移の選択律に関する問題なので, § 13.9, § 13.10, § 13.14 あたりを参照.

08s3017: 
恒等要素 E が含まれない ``もの'' は例えばどのようなものがありますか ? M: 単位元を含まない集合は, 群になりません.

08s3021: 
ある点群の既約表現を行ベクトルと見たとき, 互いに直交することが分かりましたが, 列ベクトルも互いに直交します. 行ベクトルと見たときと, 列ベクトルと見たときでは, 何がどのように違っているのですか. M: $ C_{2v}$ のように一次元の表現だけなら指標表を見れば自明ですが, $ C_{3v}$ のように二次元の表現を含む場合には, 表現行列の行列要素 $ \displaystyle D_{ij}^{\Gamma}(R)$ を並べて表 1 を作ります.
表 1: $ C_{3v}$ の既約表現の行列要素
R E C$ _3$ C$ _3^2$ $ \sigma_v$ $ \sigma_v'$ $ \sigma_v''$
$ \displaystyle D_{11}^{A_1}(R)$ 1 1 1 1 1 1
$ \displaystyle D_{11}^{A_2}(R)$ 1 1 1 $ -1$ $ -1$ $ -1$
$ \displaystyle D_{11}^{E}(R)$ 1 $ -1/2$ $ -1/2$ 1 $ -1/2$ $ -1/2$
$ \displaystyle D_{12}^{E}(R)$ 0 $ -\sqrt{3}/2$ $ \sqrt{3}/2$ 0 $ -\sqrt{3}/2$ $ \sqrt{3}/2$
$ \displaystyle D_{21}^{E}(R)$ 0 $ \sqrt{3}/2$ $ -\sqrt{3}/2$ 0 $ -\sqrt{3}/2$ $ \sqrt{3}/2$
$ \displaystyle D_{22}^{E}(R)$ 1 $ -1/2$ $ -1/2$ $ -1$ 1/2 1/2
  
表 2: $ C_{3v}$ の類別重み付き指標
  E 2C$ _3$ 3$ \sigma_v$
$ A_1$ 1 $ \sqrt{2}$ $ \sqrt{3}$
$ A_2$ 1 $ \sqrt{2}$ $ -\sqrt{3}$
$ E$ 2 $ -\sqrt{2}$ 0
ここで表 1 の 6 個の各行について, これを 6 次元のベクトルと見ると互いに直交しているというのが, 大直交性定理でした (問題 12.33 参照). しかしこの表をよく見ると, 6 個の各列についてもまた, 互いに直交している 6 個の 6 次元ベクトルになっています. またクラスごとにまとめた指標表の場合には, クラスのメンバー数の平方根を重みとしてつけた表 2 を用いると, 行も列もそれぞれに直交関係を持っていることが分かります. 藤永・成田の本 (サポート Web ページ参照) では, このことを指標間の直交性と言っています. n 次元空間内で互いに直交する基底ベクトルは最大 n 個までしかとることができませんから, 上記のコトは, 規約表現の次元の二乗和が群の位数に等しいこと, 規約表現の数が類の数に等しいことを意味しています (厳密な証明は成書を参照のこと).

08s3028: 
なぜ, H$ _2$O ($ C_{2v}$) において対称操作によって位値が動かない水素の数が対角和と等しくなるのですか. M: アンモニア NH$ _3$ ($ C_{3v}$) の三つの水素原子の方が分かりやすいかもしれませんね. 列ベクトル $ \displaystyle \left( \begin{array}{c} \text{H}_\text{A} \\ \text{H}_\text{B} \\ \text{H}_\text{C} \end{array} \right)$ を基底とする表現行列を考えてください. 対称操作によって位値が動かない水素原子に対してのみ, 表現行列の対応する対角要素が 1 になります. 位値が動いてしまう原子に対しては, 対角要素は 0 で非対角要素が 1 になります. したがって対角和に寄与するのは, 位値が動かない水素原子だけというコトになります.

08s3032: 
図 10.14 (p.421) の水の光電子スペクトルが振動しているのは, スペクトルが混合しているからだと考えられますが, データを持っていたとして, 図の形をどのように予測すると良いだろうか. M: ``スペクトルが振動'', ``スペクトルが混合'' の意味がわかりません. で, データを持っていたら, 予測しなくても既にスペクトルの図を手にしているということなのではないでしょうか ? 全くもって, 意味不明です.

08s3040: 
既約表現の指標はある種の規格化直交系だそうですが, ある種とは具体的にどのような種のことですか ? また, 式 (12.20) で直交は示せますが, 規格化はどうやって示すのですか ? M: (12.18) に示されるように, ノルムの二乗に相当するものが 1 ではなくて h (群の位数) だという点で, ``ある種'' と言いました. (12.20) においては, $ i=j$ の場合が, ある種の規格化を表しています.

08s3043: 
行列を相似変換しても不変であるものが行列の対角和だそうですが, 保存されるのは下の (1) だけなのですか ? どうして (2) は使わないのですか ? [○数字は丸括弧数字に置き換えた; $ 2\times2$ 行列にタスキ掛けして左上から右下にかけて (1), 右上から左下にかけて (2) の図は省略] M: 線形代数を勉強してください. 相似変換によって保存されるのは, 固有値です. 行列を相似変換して対角行列が得られたとすると分かりやすいです. 対角和は固有値の総和ですし, また固有値全部の積が行列式の値になっています. すなわち相似変換では, トレース (跡, 対角和) と行列式が保存されています. これに対して質問にある (2) は, 全く関係ありません.

08s3049: 
p.512 で指数表[ママ]の任意の行に対応するベクトルの長さについて書いてありますが, このことが分かることによって何が得られるのですか ? M: 与えられた指標表の検算ができます, 本に載っていない点群の指標表を作成することもできます. そもそも射影を求めるときに, 基底ベクトルの長さ (ノルム) が 1 じゃないと, 内積の計算で正しく成分の大きさが求められません. ノルムが既知であれば, それを用いて正しく射影を計算することができます.

07s3032: 
分子の表現で, より根元的な表現はあるか ? とありましたが, どうやって一番根元的な表現だと判断すればいいですか ? M: 前回話をしましたが, 相似変換によって表現行列が同じ形のブロック対角に変換できなければ, それが既約表現といえます. 1 次元の表現は, これ以上小さなブロックに分解できませんね. また, 二次元以上の表現であっても, 表現の数と類の数の関係, または表現の次数の二乗和と群の位数の関係から, 得られた表現の組が既約表現を尽くしているかを判断できます.



Ryo MIYAMOTO, 2010-07-13