分子構造論 (20100630) M: 以下は宮本のコメント
08s3002: 
既約表現において, $ \displaystyle \left( 1 \right)$, $ \displaystyle \left( -1 \right)$ などとかかれているものが 1 次元既約表現であり, $ \displaystyle \left( \begin{matrix}1 & 0 \\ 0 & 1 \end{matrix} \right)$, $ \displaystyle \left( \begin{matrix}0 & 1 \\ 1 & 0 \end{matrix} \right)$ のようなものが 2 次元既約表現ということはわかりました. しかし, これらがどのように異なっているのかつかめません. これらの違いは何をあらわしているのですか ? M: まず, 授業中に登場した C$ _{2v}$ の二次元の表現は, $ \displaystyle \bm T = \left( \begin{matrix}1/\sqrt{2} & 1/\sqrt{2} \\ 1/\sqrt{2} & -1/\sqrt{2} \end{matrix} \right)$ により既約表現に分解されます. 次に, そうは言ってももちろん, 二次元の既約表現を持つ点群もあります. 教科書 p.502 の表 12.6 にあるように C$ _{3v}$ がその一つです. 二次元の表現が一次元のそれと何が違うかといえば, p.504 の記述の通り, 基底が必ず二次元じゃなければいけない, すなわち $ \bm u_x$$ \bm u_y$ が必ず組になって対称操作により変換されなければいけないということです. これに対して一次元の表現であれば, $ \bm u_x$$ \bm u_y$ はそれぞれ別々に対称操作で変換されることができるということです.

08s3011: 
互いに異値な既約表現をみちびきだした結果は, どのような意味, もしくは次の操作, 考察へつながるのですか ? また, 異値な既約表現の数は点群を用いた考察へどのような影響を与えるのですか ? M: p.501 の (12.7) 式のように, 既約表現の次元の二乗の総和は, 群の位数 (対称操作の数) に等しく, さらに, 既約表現の数は類の数に等しくなっています. // またこれは, 異値な既約表現は互いに直交している ((12.14) 式) という直交性定理 (より一般には大直交性定理, p.527) を与え, (12.18) 式とをあわせて考えると, 既約表現がある意味で規格化直交している (まとめて (12.20) 式) 抽象的なベクトル空間を張ると言えます. こうなるともう, 任意の可約表現が既約表現の和に分解 (``簡約'' という) できることは, 任意のベクトルが基底ベクトルの線形結合であらわせることと同じといえますネ. そうすると簡約とは, 基底ベクトルへの射影をとること, その成分がどれだけあるかを調べること, であり, 調べ方としては内積を計算すればいい ((12.22) 式) ということになります.

08s3017: 
p.507 ページにある「本質的に等価な対称操作は同じ類に属するという。」とあり, 数学的にはさらに別の定義があると書いていますが, どんな定義がありますか ? M: 実は授業でも紹介していたのでした. まず二つの要素 A, B が任意の要素 C を用いて $ \rm C^{-1} A C = B$ の関係にあるとき, A と B は共役であるといいます. 表現行列で言えば, 互いに相似変換で結ばれる関係のものですね. そして共役な関係にある要素をまとめて類を作ります. すなわち、共役な関係にある要素は同じ類に属するというわけです. ``共役'' の意味を国語辞典で調べてみると, 「二つが組になって現れ, それらを入れ替えたとしても全体の性質に変わりがないような相互関係に立っていること. (岩波国語辞典)」とあります. 例えば表 12.4 の積表において, C$ _3$ と C$ _3^2$ とを入れ替えたとしても, 全く同じ形の積表が得られることが分かると思います. そこで教科書では ``共役な関係にある要素'' のことを, ``本質的に等価な対称操作'' と言っているのでしょうね.

08s3021: 
ある行列 $ \bm A$ を相似変換するとき, $ \bm A$ $ \bm T^{-1} \bm T$ の間に挟んで変換します. このことは, 演算子を $ \psi^* \psi$ の間に挟むことと似ていると思うのですが, これらは同値な表現なのでしょうか. M: ちょっと違いますね. $ \int \psi^* \hat{A} \psi \,$d$ \tau$ は, 行列で表現すると $ \tilde{\bm u}^* \bm A \bm u$ なわけですが, 基底系を変換した場合 ( $ \bm v = \bm T \bm u$, $ \bm T$ はユニタリ行列) には, $ \tilde{\bm v}^* \bm T \bm A \bm T^{-1} \bm v = \tilde{\bm u}^* \bm T^{-1} \bm T \bm A \bm T^{-1} \bm T \bm u$ となります.

08s3028: 
エタンのように -C-C- 結合の回転によっていくつかの点群を持つ分子を 1 つにまとめて表現したりはしないのですか. M: そもそも対称性が異なるのですから, 一つにまとめて表現する意味がわかりません.

08s3032: 
化学の世界で関心のない点群でも可約表現, 既約表現が存在しているのでしょうか. M: reducible representation (可約表現), irreducible representation (既約表現) に, 化学的興味の有無 (個人のヒトの主観) が入り込む余地は, 無いと思いますけど ??

08s3040: 
今日の授業で学んだ基底とは, 分子の何を表わしているのですか ? また, 基底に演算子を作用させることによって, 何を得ることができるのですか ? M: 必要に応じて好きな基底を採用してください :-) {x, y, z} の軸 (単位ベクトル) は, 例えば分子に照射される電磁波の直線偏光の向きであったり (遷移の選択則に関連), {HA, HB} の位値は, 例えば二つの水素原子の二つの 1s 軌道からできる分子軌道の一部であったり (p.420, 図 10.13 の右側, 2 個の水素 1s 軌道の代わりに, $ \displaystyle \phi_\pm = \frac{1}{\sqrt{2}}(1s_$A$ \pm 1s_$B$ )$ とする. $ \phi_+$ は a$ _1$, $ \phi_-$ は b$ _2$ に属し, 同じ対称性の酸素のオービタルと相互作用する), また各原子上に置いた {x, y, z} の軸 (三原子分子の水なら 9 個の矢印) は, 分子内振動の基準モードを与えます (p.561).

08s3043: 
適当な行列 $ \bm S$ はどのようにしてつくるのですか ? $ \bm S$ を用いたブロック対角化は, 以前紹介されたユニタリ行列を用いたものと似ていると思ったのですが関係があるのですか ? M: 幸いにして (!) ``化学群論'' では, $ \bm S$ の具体的な形を知らなくても一向に構いません. なぜならば, 相似変換によって表現行列の形が変わったとしても, 依然として変わらないモノもあり, そのレベルの扱いで充分だからです. 行列の相似変換に対しても不変の量とは, 行列の対角和 (跡, trace) です. // 行列のユニタリ変換は, 行列の相似変換に含まれます. 相似変換で用いる変換行列が, ユニタリ行列という特別のものである場合に, それをユニタリ変換と呼びます.

08s3049: 
群の表現を変える意味はなんなのでしょうか ? M: 授業では言い直しましたが, 表現を変えるのではなく, 異なった表現があるだけです. 08s3021 のように, 基底を変えることで表現が変わる場合には, ヒトが理解しやすい基底を用いたり, 逆に分かりやすい行列になるような基底を選んだりすることは, あり得ます. 例えば, 原子オービタル AO という分かりやすい基底だと永年方程式は (12.1) 式になりますが, 対称性適応軌道 (12.3) 式を基底にすると, 永年行列式はブロック対角の形 (12.4) になり, 計算が容易になります.

07s3032: 
6 月 30 日 (水) の授業で, H$ _2$O 分子を表現する際 [水分子と座標軸の絵は省略] と, x 軸を HA と HB の間にとっていましたが, このように後の操作 (H$ _2$O では E, C$ _2$, $ \sigma_v(yz)$, $ \sigma_{v'}(xz)$) を楽にする軸のとり方に, 何か一般則はありますか ? M: 主軸を z 軸にするのは当然として, x 軸や y 軸は, 主軸に直交する C$ _2$ 軸の方向とか, $ \sigma_v$ (または $ \sigma_d$) に垂直な方向 (主軸に直交する) とかじゃないでしょうか. 特に意識しなくても, バランスのよさそうな方向で, だいたい間違いはないかと思いますけどね.



Ryo MIYAMOTO, 2010-07-06