分子構造論 (20100623) M: 以下は宮本のコメント
08s3002: 
キラルな分子は $ E$$ S_n$ を持たないものとありましたが, プリントでは $ E$ はすべての分子は $ E$ を持つとあります. また, $ E$ は動かしていない, 全く触っていない, 360$ ^\circ$ 回転させてもとにもどってきた と考えると, キラルな分子でも $ E$ を持つように思えます. キラルな分子は $ E$ を持たないというのは聞きまちがいでしょうか ? M: えーと, 自分では判断できず, 他人の神託を必要とするという意味でしょうか ? それでは困りますね.

08s3011: 
FT-NMR という基本的な考え方が多数の異なる核に一度に摂動を与えると書かれていますが, 摂動法は知っていますが, それを異なる核多数に, しかも一度に与えるという仕組みが理解に苦しみます. どのような操作・方法を行なうのですか ? 多数のしかも核に摂動は使うのは可能なのですか ? M: 「摂動法」と「摂動」は, すごく似ていて意味も近いかもしれないけれども, でもやっぱり別の言葉ですヨ. 摂動法がなぜ「摂動法」というのか, 「摂動」とは何なのか ? 言葉の意味をもう一度整理して考えてみてください. // で FT-NMR ですが, 試料にラジオ波を連続波 (continuous wave, cw) として照射するのではなくパルスとして与え, またその応答も経時的に観測するという点が特徴的ではありますが, 基本的にはやっぱり NMR です. (パルス) ラジオ波が照射されていない状態を非摂動状態と見て, そこに照射されるラジオ波を摂動ととらえるわけです. その意味では, cw 法であっても同様の見方ができますね. もっと一般に, 分子と電磁波との相互作用について考える場合, § 13.11 に記載のように, 定常状態を非摂動状態, 電磁波を時間に依存した摂動と見ます.

08s3017: 
カーボンナノチューブのような分子は, どのような点群をとりますか ? M: グラフェンシートの巻く方向や, 巻く太さなども, 対称性に影響を与えるようです. もちろん末端の閉じ方/開き方も, いろいろと考えられますね.

08s3021: 
分子の属する点群が判ると, どんないいことがあるのですか ? 抽象的になって, かえって対称性が分かりにくいような気がしますが… M: いろいろイイコトがあるのですけど… てゆうか〜, 抽象化ということが, いかに強力な思考法なのか, わかってないのかな. リンゴを 1 個, 2 個と数えていた人々が, リンゴという具象を捨てたところから数学が生まれて発展し, リンゴが落下する様子を記述することができるようになった. さらにここでまたリンゴという具象を捨てることで, 万物の運動の法則を記述することができた. なんてね. // 私たち化学屋が点群・対称性を考えるときは, いつも具体例としての分子の構造を念頭において参照していますので, わかりにくくはならないと思いますけど.

08s3028: 
指標表を見れば cis-ブタジエンで C$ _2$, $ \sigma_v$ があることさえわかれば C$ _{2v}$ から $ \sigma_{v'}$ の存在もわかるということは, C$ _{2v}$ $ \sigma_{v'}$ がない分子は絶対ないということですか. M: C$ _{2v}$ 点群の要素の一つ $ \sigma_{v'}$ がなくなると, 残りの要素だけでは群を成さない.

08s3032: 
分子 (イオン) の点群が決定すると, 反応の進行やその分子の反応活性は考えられるでしょうか. M: 分子の対称性は色々なところに活用できます. 反応に関するウッドワード-ホフマン (Woodward-Hoffmann) 則も, 軌道の対称性の問題でしたね.

08s3040: 
p.490 の表 12.1 にある演算子は, 分子の何に作用させるのですか ? また, 作用させることによって, 分子の何かが変化したりするのですか ? M: 対称要素は対称操作 (symmetry operation) と表裏一体ですが, これらもまた ``操作'' の一種なので, 当然演算子 (operator) と見ることもできます. で, 操作であるからには, 操作される対象・作用させる対象がなければいけないというか, あるはずです. そうでなくっちゃ意味がない. 今のところそれは, 三次元空間内の立体図形なのですが, 化学屋の強みとしては, 分子の立体構造そのものと考えていてください. この後で, それをもっと抽象化した ``表現 (representation)'' の話をします. そこでは演算子の作用対象として ``基底 (basis set)'' をきちんと考えます. ちなみに, 分子に対称操作をほどこして, 分子の持つエネルギーが変化してしまったら, それはおかしな事になってしまいますね. すなわち対称操作の演算子を分子に作用させても, その分子の持つエネルギーは変わらないことが期待されます. 当たり前かもしれませんが, 実は重要なことです. と, 種を蒔いておく.

08s3043: 
対称要素を見つけて, それを演算子として作用させるのはわかるのですが, 対称操作をした結果をどう使ったらいいのですか ? M: 確かに分子を回したりひっくり返したりしているだけでは, はじめは面白いかもしれないけど, ただそれだけでは何の役に立つのかわからない. そこでもう一段階の抽象化が必要とされるわけです. 群の表現や指標について, このあと学びます.

08s3049: 
p.429 で「化学者に関心があるのは約 30 の点群」とありますが, 関心がない (?) ものも含めて点群はおよそどのくらいの数があるのですか ? M: 例えば C$ _n$ と総称される点群を考えて見ましょう. $ n$ に当てはまる数値は, 何通りくらい考えられるでしょうか ;-)

07s3032: 
空間群とはどういうものなのか教えてください. M: 質問になっていません. // 空間群は, 主に結晶学の分野で広く用いられています. 7 種類の結晶系, 32 の結晶族群, 14 個の Bravais 格子, そして 230 種類の空間群. 空間群では, 並進も対称要素 (対称操作) として考えます. すなわち基本的な対称要素は, 点群で考えた 恒等操作, 回転軸, 鏡映面, 反転, 回映軸 の他に, 単純並進, らせん軸, 映進面 があります. ただし空間群では 回映軸 の代わりに 回反軸 (回転軸+反転) を用います. すると 230 種類の空間群が発生します. 詳細はサポート web ページに記載の参考書や, X線結晶構造解析の本など *も* 参照してみてください.



Ryo MIYAMOTO, 2010-06-23