分子構造論 (20100609) M: 以下は宮本のコメント
08s3002: 
自由原子価のところで C の最大の原子価は 4.7 だと説して[ママ]いました. では, 他の二重結合を持つことができる O や N でも 最原子価は 4.7 ということですか ? M: さすがにそれは違うんじゃないかなと. 炭素の場合, トリメチレンメタンを基準に最大値を決めたわけですが, その中心の炭素原子が単純に O や N に置換されることは無いでしょうね. 普通では考えられない分子になりますから.

08s3011: 
励起した電子が低いエネルギー状態へ戻るときに, 光や熱などを放出しますが, 同じ波性がある音などで放出しないのはなぜですか ? それとも次元がちがう話なのですか ? M: ``波'' と一言でまとめてしまっても, それぞれ何のどういう振動なのかを考えてみれば, 全くちがうものだと分かると思いますけど... 分からないのでしょうか ?? // ちなみに電子の波動性は二乗すると存在確率になるような波だし, 光 (電磁波) はエーテル中を伝わる :-p 波で, 言いかえれば電場と磁場の振動する横波ですし, 音は媒体中をその粗密が伝わる縦波だし...

08s3017: 
ラジカルの状態の電子密度は, $ ($HOMO の電荷密度$ )^2 + ($LUMO の電荷密度$ )^2$ と, 量子の本に書いてありましたが, どの電子密度の状態が反応性が高いのですか ? 不対電子を持つことを考えても, よく理解できません. M: どの本の何の話なのか, わかりません. また ``どの電子密度の状態'' という質問の意味も, よくわかりません. // とりあえずフロンティア電子の話だとすると, ``軌道の電荷密度'' というものがよくわかりませんが, ラジカル反応に対するフロンティア電子密度の定義式と似ているような気がしますね.

08s3021: 
量子化学で得られた計算結果と実験結果を比べると, なかなか完全には一致しないようです. ミクロがマクロを, 厳密に説明することはできないのでしょうか. M: 水素のスペクトルとか, ピッタリだと思いますけど. リドベルグ定数は, もっとも精密に測定されている物理定数のひとつだと, 聞いたことがあるような気がします. また He の電子のエネルギーの計算については, 教科書の近似法のところで紹介されていました. 今日の授業の HMO については, そりゃ近似のレベル・計算のレベルが低いので, 定性的に合っていれば充分で, 半定量的にもあっていればバンザイというレベルだと思いますよ. // これらの厳密解と近似のレベルの話と, ミクロがマクロを説明する云々の話は, また別の次元の話でしょう. ミクロの法則でマクロの現象を説明しようとしてもいいですが, 粒子数が膨大になってしまって, 手に負えないと思います.

08s3028: 
自由原子価の $ N_$max はどの分子でも $ \sqrt{3}$ をとるのか. $ N_$max はどのように測定もしくは算出し, なぜ $ \sqrt{3}$ という半端な数値をとるのか. M: 授業中でも説明したとおり, トリメチレンメタンの中心の炭素原子が基準になっています. この炭素原子の持つ三本の結合の結合次数の和が $ N_$max であり, すなわち当該炭素原子の原子価は飽和しており自由原子価 $ F_r$ はゼロであるものと考えています. 実際に結合次数を求めてみたりするのは, よい演習問題ですネ ;-)

08s3032: 
自由原子価 $ F_r$ の計算において結合最大手[ママ]の基準が 4.732 とありましたが, この小数点以下の数字は結合にどのように働きかけているのでしょうか. M: えぇと, 4.732 のうちの, 3.7-4.7 にかけての 1 と, 2.0-3.0 にかけての 1 とでは, 結合に対する働きかけは違うのでしょうか ? すなわち, 4.732 の小数点以下の数字の部分だけを特別視する意味があるのでしょうか ? 08s3028 も参照.

08s3040: 
リドベルグ遷移はなぜ, またどのようなときに起こるのですか ? また, 遷移エネルギーの大きさの他に, リドベルグ遷移と, ππ$ ^*$ 遷移や nπ$ ^*$ 遷移との間に違いはありますか ? あるとしたらそれは何ですか ? M: 遷移は, あくまでも, まずはボーアの振動数条件にしたがって起こると考えられます. すなわち状態間のエネルギー差に相当するエネルギーを持つ光が照射されたときに, その光を吸収して遷移すると. リドベルグ状態は高いエネルギーによって電子が励起された状態で, ほとんどイオン化状態みたいなものですが, 励起された電子は自由にどこかへいってしまうのではなくて, 未だ元の分子に束縛された状態にあるというものです. これに対して ππ$ ^*$ 遷移や nπ$ ^*$ 遷移は, 普通はもっとエネルギーの低い紫外可視スペクトルの領域の話です. 通常は ππ$ ^*$ 遷移は許容遷移なので, 有機色素の強い発色はこれによります.

08s3043: 
自由原子価の説明で出てきた $ \sqrt{3}$ はどうやって求めたんですか ? C は最大 4.7 本の手があるそうですが 0.7 本分は誰かからもらったものですか ? M: 08s3028, 08s3032 参照.

08s3049: 
励起エネルギーの電位差 $ \Delta E$ [ママ]が電子の反発などを無視して $ \Delta E = \varepsilon_$LUMO$ - \varepsilon_$HOMO と近似できるのはなぜですか ? M: 本当の励起エネルギーは, 状態間のエネルギー差として求められなければなりません. しかしここではそれを軌道エネルギーの差としているわけです. 授業でも計算して示したとおり, これは HMO では状態のエネルギーが電子が入っている軌道のエネルギーの和で表わされるからです. このために状態間のエネルギー差は, 関与する電子の入っている軌道のエネルギー差になります. 電子間反発を無視しないレベルの分子軌道法では, 状態のエネルギーを軌道エネルギーの和だけで表現できませんので, 本当はこのようにして励起エネルギーを求めることはできないはずです. しかしこの場合には, 励起状態のエネルギーを求めるのは困難になりますので, 次善の策として, エネルギーギャップ $ \Delta E = \varepsilon_$LUMO$ - \varepsilon_$HOMO を励起エネルギーの代用とすることもありえるでしょう.

07s3032: 
今日 (6 月 9 日 (水)) の授業内容で, どうして自由電子価[ママ]を求めることで, 共役能力を求めることになるんですか ? M: 自由原子価 $ F_r$ は, 結合時数のうちのπ電子の寄与する部分に関連しています. そこでもしも $ F_r$ がゼロの原子が, さらにもう一本の結合を形成しようとする場合を考えてみると, その新たな結合に π電子が寄与する可能性はゼロです. すなわち新たな結合が供役系に参加することはないものと考えられます. 一方 $ F_r$ がゼロでない場合には, 新しく形成される結合には, それなりのπ電子の寄与が期待できますネ.



Ryo MIYAMOTO, 2010-06-11