分子構造論 (20100519) M: 以下は宮本のコメント
08s3002: 
今日のπ電子近似で 2 つの電子間相互作用を 1 つの電子のものとして近似しました. [ハミルトニアンの式は省略] 1 つの電子のものとして考えるというのは どういう状態なのでしょうか ? 2 つの電子間相互作用は [絵は省略] こういうのだとわかるのですが, 1 つとはどういうことですか ? [絵は省略] M: 「〜ものとする」というところが味噌です ;-) そのような仮定・前提を採用するということで, どんなことが言えるだろうかという論理展開. 結論が実験事実と良く合っていれば, 採用された前提の妥当性を担保すると言いたいわけだ [*1]. しかし良く考えると, 「合うようにパラメータを決め」ているのだ. あれ B-) 実際には, パラメータフィッティングに用いたのとは異なる実験事実について, そこそこ良い予測ができているということか. 簡単な仮定を採用することで, たくさんのことが言えるとなれば, なかなか有用な仮定ということになる. またこのような理論には, パラメータの値に依存しない議論を展開するという使い方もあるよね.

[*1] 関連して, 科学的思考の論理について: よく知られていて, また学校でも習うものとしては「帰納法 (induction)」と「演繹法 (deduction)」がある. これは

原因・前提  $\displaystyle \underrightarrow{~法則・理論~}$     結果・結論    

の様な図式で考えてみると, 二つの要素がわかっているときに第三の要素を導出する手法であるといえる. するとすぐに思い当たることは, 三つめの思考方法があるだろうということ. これは広義の帰納法に含める場合もあるが, 「アブダクション (abduction)」と言われるものである. 以上のことは次のようにまとめられる.

08s3011: 
レプトンである負ミューオンを使う方法で軌道半径は電子の 1/200 というコトは, 核に近いし, 電子との軌道の間に存在しているとしたら, 電子間の反発力や核との引力に影響されて何らかの支障など反応をおこすコトはないのですか ? M: 詳細は調べてください. 実際は核の電荷を遮蔽して $ -1$ することになるようです. 注目すべきなのは, $ +1$ の電荷を持つ核に適応した場合だそうです. 実質的に電荷が中和された原子核ですから, 互いのクーロン反発が効きませんね ;-)

08s3017: 
N 個のπ電子系についてのハミルトニアンの第 2 項を有効ポテンシャルでおきかえますが, どのような論理から至った近似なのですか ? M: 論理も何も, 非常に荒っぽい近似ということだし, 「〜というものとする」のように前提として採用したら, 以後どんなことが言えるだろうか, ということだと思います. 結果が前提を正当化する (?)

08s3021: 
電子密度分布は, 電子の確率分布とは別物ですか. // 電子密度分布は測定できる量なのか. できるとしたら, どのように測定されるのか. M: 厳密な意味論・解釈論としては違うのかもしれませんが, 実際的には同じと言ってもさしつかえないでしょう. // X 線は電子により散乱されます. X 線結晶構造解析で分子の構造を解明するかのように一般には思われているかもしれませんが, X 線が電子によって散乱されていることを考えると, あれは電子密度分布を観測していることになります. もちろん, 電子密度の高い位置に原子が存在していると考えるわけで, 重原子であるほど内殻に束縛された電子をたくさん持っているので, 位置を決めやすいということになります.

08s3028: 
Hückel MO で第 2 項を有効ポテンシャルの和でおきかえられるとした. これは, 方程式を 1 電子方程式にするためとしたが, おきかえて何かしらの影響はないのか. M: そりゃもちろんあるでしょう. 採用前後で全く影響の無い近似は, それは近似ではなくて本質的にそうだということでしょう. 既に説明したことから言うと, 電子間反発を無視したことになるので, 全電子エネルギーが個々の電子のエネルギーの総和になっている.

08s3032: 
今日の講義で σ電子の作るポテンシャル中をπ電子が運動しているということはσ結合のみの分子よりもπ結合を持つ分子の方がより柔らかい分子と言えますでしょうか. M: 「柔らかい」とはどういうことですか ? π電子は分子全体に非局在化しているだけでなく, σ電子に比べて核から遠方にまで広がって分布しているだろうと. 核から遠方に薄く電子があるということは, 分子表面に薄い衣を羽織っている→手触りが柔らかい, という連想でしょうか. 連想はいいけど, 化学的議論をするのであれば, 概念をきちんと物理的なものと対応させないと, 無意味な空論をもてあそぶことになりますよ.

08s3040: 
太陽の中では核融合が起こって原子をつくっているそうですが, 太陽くらいの大きさの恒星だと鉄の原子までしか作ることができないそうです. それはなぜですか ? もっと大きな恒星ならば, もっと大きな原子番号の原子をつくることができるのでしょうか ? M: 鉄よりも原子番号の大きな元素が天然に存在するところを見ると, どこかで作られたハズです. で, それは超新星爆発のときなどと考えられているようです.

08s3043: 
Hückel MO で出てきたクーロン積分と交換積分は, 9 章のそれと内容はどのように違うのですか ? M: 重要な指摘ですね. 同じものには同じ名前, 違うものには違う名前をつけるのは, きちんとした理解や議論の大前提です. その意味で, 同じ名前で中身が少しづつ違うものがあるのが, この分野のいやらしい所です. クーロン積分について教科書からちょっと抜書きしてまとめてみると…

08s3049: 
汎関数とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか. M: 数学的には関数の関数ということですから, 適当に考えればいいのではないでしょうか ? $ f(y)$ が汎関数 $ f(y) = y^2$ で, $ y(x)$ が多項式だったり指数関数・対数関数だったり, というのはどう ?

07s3032: 
5 月 12 日 (水) の授業の内容で, (iii) 分子積分の「重要と考えられるもののみを残す近似」とありますが, どうやって重要かどうかを判断するんですか ? M: 最も簡単なのは NDO ですね. 異なる核の場合は全て無視し, 同一核 (自分自身) の上にある軌道間の積分のみ残す. 次に考えられるのは, AO が核の近傍から遠ざかるにつれて急激に減衰することを考慮して, 近くの核のうえにあるものは残し, 遠い場合は無視するとかね. 実際にそういうものがあるかどうかはわかりませんが.



Ryo MIYAMOTO, 2010-05-31