分子構造論 (20100512) M: 以下は宮本のコメント
08s3002: 
規約表現の A と E は何を表わすのですか ? M: pp 508-509 の下にも少し書かれていますが, 詳細は群論の参考書を参照してください. 当該記号はマリケンの記号 (Mulliken symbol) と呼ばれるもので,
  1. 一次元の表現は A または B で, 二次元は E, 三次元は T (または F) で表わす.
  2. 主軸まわりの C$ _n$ 操作に対して, 対称 (指標が 1) なら A, 反対称 (指標は $ -1$) なら B を使う.
  3. 主軸に直交する C$ _2$ (無い場合は主軸を含む鏡映面) に対して対称または反対称に応じて, 添字の 1 または 2 をつける.
  4. $ \sigma_h$ に対して対称または反対称に応じて, プライム (') またはダブルプライム ('') をつける.
  5. 対称中心 i に対して対称または反対称に応じて, 添字の g または u をつける.
  6. E や T に 1, 2 の添字をつける規則を説明するのは容易ではない (ので, とりあえずは任意の記号と考えておく).
などとなっているようです. 添字の g/u は, 二原子分子のオービタルを表わすとき (p.367) や二原子分子の項の記号 (p.388) にも用いました. またこのマリケンの記号は, 分子オービタルを表現するとき (pp 417-423) に英小文字で使用されました. また分子の基準振動も, 規約表現の記号で呼ぶことがあります (例題 13.14 (p.573) など).

08s3011: 
ある原子で核と電子があり, 電子オービタル概念を使って, オービタルに人工的に作った粒子などを導入してみると, どんな反応がおきますか ? また電子や核はどのようなふるまいをすると考えられますか ? M: 電子の代わりに, 同じ電荷同じスピンを持つ同じくレプトンである負ミューオンを使うという方法があるらしい. ただし質量が 200 倍なので, 軌道半径は電子の 1/200 で…… :-)

08s3017: 
原子オービタル $ \chi_$r を NTO にする時の利点は何ですか ? M: 正確な水素原子型の動径分布, あるいはさらに任意の動径分布関数を得ることができる. 積分を解析的にではなく数値的に行うのであれば, 離散的な点における関数の値が正確にわかっていれば充分という考え方も納得できる.

08s3021: 
なぜ, ガウス型の関数を用いる方法に至ったのか. ガウス型と電子の確率分布に, 何か関係があるのか. M: そういう問題じゃないと思う. 授業中でも少し述べたが, 分子積分を計算する場合に複数の原点の異なるガウス関数の積が被積分関数中にあらわれる (多中心積分) が, ガウス関数はそれをひとつのガウス関数にまとめることができるという性質を持つ. したがって, 積分を解析的に行うことができる, すなわち公式を用いて容易に計算できる. §11.1 および問題 11.6〜11.9 参照.

08s3028: 
MO 法で重要と考えられるもののみ残したり, 重なり積分を無視すると, 実験値との誤差はどれくらいになるのか. M: その手法が提案された当時は, 実験値との対応が問題にされたかもしれません. しかし今では, 定性的・半定量的という程度のものとしてあつかわれていると思います. そういうレベルでの議論にしか用いない. それでも化学的現象の理解には充分な場合が沢山あります. MNDO など半経験的手法や少し前の非経験的手法は, 化学的精度 (数 kcal/mol) の達成を目指していて, まあまあ健闘しているかなという所. 今後の目標は, 分光学的精度 (数 cm$ ^{-1}$) だそうな.

08s3032: 
有機溶媒は有機化合物を主に溶かす液体ですが, 溶けた有機溶質はアンモニア等が水に溶けたときイオン化するように, 有機基と水素イオン等に分かれるのだろうか. イオンになる場合, 水に溶ける極性分子となるので, 違う構造で存在していると考えられますが, どのような測定で有機溶質のみを同定できるでしょうか. M: えーと, どのくらい本気なんですか ? それから ``有機溶質を同定'' って, どういうことでしょうか ? (有機) 機器分析は, 何をしているとのお考えですか ?

08s3040: 
電子がもつエネルギーが 0 になること, すなわち, 電子が全くエネルギーをもたない状態というのはありえるのでしょうか ? もしそういう状態になったとき, 電子はどうなってしまうのでしょうか ? M: エネルギーがゼロならば, 運動エネルギーもゼロで, すなわち静止しているということですよね ? ``不確定性原理'' はどうしましょうか ?

08s3043: 
量子数が大きくなると粒子が古典的に振るまうのはなぜですか. M: ``対応原理'' ですからねぇ, 原理に理由の説明を求めても...... 量子論の微視的世界と古典論の巨視的世界とが矛盾なく継るためには, そうするしかないのでは ?

08s3045: 
対称性の求め方はなんとなくわかりましたが, 対称性の良し悪しは結局どういう影響を与えるのですか ? M: まず ``良し悪し'' の基準は何ですか ? 群論の応用に関しては, ここでは説明しきれませんので, 教科書や参考書を見てください.

08s3049: 
MO 法は 6 種類ありますが, この場合この方法を使うなどのルールはあるのでしょうか. M: まず, 紹介したものが何種類であったにせよ, それが全てではない. それぞれの特徴 (長所・短所) をわきまえて, 使用者の要求との兼ね合い (や好み) で選べば良いでしょう :-) 道具ってそういうものでしょ ?

07s3032: 
混成軌道の結合角度を求める際に s 性を計算するだけで p 性 d 性…を求める必要がないのはなぜですか ? M: s 軌道と p 軌道との混成なら s 性と p 性とは相補的であるので, 一方を用いて議論すれば充分こと足りる. d 性については, 意味のある議論ができるかどうか, 自分で考えてみてください.



Ryo MIYAMOTO, 2010-05-20