物質理工学演習 BII (2006-11-22) M: 以下は宮本のコメント
05s2001: 
先週配られたプリントの「今日の要点」の所で書かれている ``だれも見ていない時に月は存在するか ?'' や 今週発表を始める前にとりあげられていた``この命題はまちがっている''など, 量子力学の本にはこういう哲学的な難しいことが載っていますが, 量子力学を学ぶ上でこういう哲学的なこともわからなければいけないのですか ? M: シラバス的には, 授業の目的として理解を要求していません。 すなわち理解しなくても成績がマイナスされることはありません(たぶん)。 しかし, 分かった方が, 面白いでしょうね。2006-11-15 の 04s2011 も参照。

05s2005: 
今回の問3以降の問題で思ったのですが, 式の記号の意味がわからなく なったり, どう考えればいいのか, どう取り組めばいいかわからなくなりました。 そこで, 演算子がくわしく説明されている参考書とおすすめの解説付きの問題集を 教えて頂きたいのですが。 M: 数式を苦手とする理由のひとつに, 式に使われている記号が分からないということが あるようです。その点で量子力学は, 見慣れないギリシャ文字(ψ,φ等)が 多くて, 不利かもしれません。 さて記号の意味が分からないときは, ``分割して統治せよ''に従って細かく 見ていって, 分からない原因の言葉・概念が何であるかを明らかにしてみましょう。 ``演算子''は新しい概念かもしれませんが, 何か特別な新しいモノがあるのでは なくて, 抽象度が一段階上がったものの見方と言えるのではないでしょうか。 しかし個々の計算(ビブンする等)は既知のもので, たとえ演算子という名称がなくても $\displaystyle \int \psi^* \frac{\hbar}{i}\frac{\partial}{\partial x} \psi \,\text{d}\tau$ などは普通に(微分と)積分として計算すれば, 答を得られますよね。

05s2007: 
一次元の波動関数の確率密度は, 量子数が増えるにしたがって, 「両端の壁で跳ね返る粒子は平均してすべての点で等しい時間過ごす」という 古典的な考えと一致しますが, なぜ, 量子数が少ない時は, 分布に特長が あるのですか。[図は省略] M: そこが量子論の量子論たる面白いところですね。

05s2009: 
量子力学, 化学においても公式は覚えなくてはならないのでしょうか ? (例えば, 位置の期待値, 運動量の期待値など) ``なるものはなる''としか, うけとめられないのでしょうか ? M: 問題の答としての位置の期待値 などをおぼえるという意味ですか ? 文字式を全て``公式''と考えているのですか ? また``なるものはなる''という皮相的な受け止め方も, 困りますね。 結果の正当性を吟味しない態度(``計算してそうなった, だから正しい''と いう非論理性)につながりかねません。

05s2015: 
05s2040 の質問に関連して→先生は学生時代のときに, 量子力学(化学)の分野で, 一番大切な分野(→一番量子力学の基礎となる分野)はどこでしたか。 M: メシアの量子力学の本で, 波動力学の形式論の章を読んだときとか射影演算子の 話を聞いたときには, かなり視野が開けた気がしました。 その後, ザボの新しい量子化学の数学の準備の章も, 良くまとまっていると 思いました。 すなわち``線形代数''です。

05s2017: 
特になし M: 

05s2023: 
この授業で最低何回か発表しないと成績が悪い, もしくは単位を落とす とかあるのか ? 先生的には最低一人何回発表すればよいのか ? M: シラバスには``授業態度・レポート・試験などの成績を総合的に判断します''と 記載しています。得点を獲得することを強制するつもりはありませんので, 発表の回数はゼロでも良いのではないでしょうか。 授業態度で得点が低くても, レポートの得点でカバーすれば良いのでは ないでしょうか。

05s2025: 
先生は理学部出身だそうですが, 理学部と工学部で学ぶ内容は, どこがどう違いますか ?? M: 基本的な教科には, ほとんど差はないようなものもあります。 しかし研究レベル・学んだことを生かす段階になると, 思想的な差が出てくるようです。 すなわち理は自然の仕組を明らかにする, 工は人間社会に役立たせる, という事を 目的としている点です。

05s2028: 
今日の2の問題で得られた値は適切かどうかの説明で, 先生が解説して いたことは理解したのですが, 位置と運動量の平均値を実際に計算で, どのように 求めたらよいのですか。 M: 平均値・期待値の言葉通り, 取りうる値とその確率の積の総和(荷重平均)で良いの では ? 例えば位置の取りうる範囲は 0--a で, 位置が x から x+dx の範囲にある 確率は 1/a (確率の総和は 1 になっていることに注意)。したがって総和は, $\displaystyle \int_0^a \frac{1}{a} x \,\text{d}x$ になると。

05s2036: 
演算子を使わずに答えを求めることは可能ですか ? M: 05s2005 参照。

05s2038: 
古典的な式を図で考える。というなら, なんとなくイメージできるの ですが, 量子論で示された式を図でイメージできません。 どうしたらイメージができるようになるのかコツを教えて下さい。 あと今回の説明みたいに量子論の式を古典的に考えるとマズイときもあるのでは ないですか ? (例えば <p^2>について考えるときなど) M: 量子論といっても, 最終的には何らかの観測される物理量(これを ``オブザーバブル''という)を求めるのですから, 私達の実世界の(時には古典的な?) イメージとの対応がなければなりません。 しかしもちろん古典的なイメージは古典論なので, 量子論にとっては不都合がある 場合もあるでしょうが, 限界を知って使うぶんには有用です(何事もそうであるが)。 ところで例示された``運動量の自乗''って, 古典的にもイメージしにくいのですが ...

05s2039: 
私は脳科学と物理化学に興味がある。そこで問題となるのが, 人の脳は 人の心を理解できるのか ? という事であるが, この問題を最終的に突き詰めると, ミクロな世界で, つまり量子で人の心を表す事ができるのか ? という問題にたどり 着くと私は思う。この問題に対して先生はどのように考えますか ? M: ``人の脳は人の心を理解できるか ?'' と問われると, 二つのことが思い浮かび ます。 一つはゲーテルの不完全性定理で, 授業中に簡単に紹介したことの他にもうひとつ あって, それは``無矛盾な公理系の内部にあって, 自己の系の正当性を証明できない'' というもので, 実例がユークリッド幾何学です。 もう一つは, この場合に``心''とか``理解''をどう定義するのか? という疑問です。

05s2047: 
特になし M: 

05s2054: 
[白紙] M: 

05s2055: 
授業とは関係なくて申し訳ありませんが, 夏休みに青森県立美術館の シャガール展と奈良美智のAtoZを見に行きました。先生は奈良美智はイマイチと前回 答えていますが, シャガールは見に行かれましたか ?? M: はい, 見てきました。アレコホールに青森県で所有していない第三場の幕も借りて きて, 四枚そろえて展示していたのは, そうでなくっちゃね。でも, 展示位置が高い ! 多くの人の頭よりも高い位置に掲げてあるので, 見上げるような姿勢をとらなければ ならず, 首が疲れる。椅子もおいてあって, 座ってみたけど, 背もたれが半端だった。

05s2060: 
学内の図書館に物理化学の本が他の化学・物理学の基礎学問寄りの分野の 本(無機・有機化学等)と比べて少ないように思いました。 それは物理化学という分野が多くの分野を広く浅く集めたものという性質をもっている せいなのか, それとも単にその図書館の蔵書の比率がそうなっていただけなので しょうか。どのように思われますか ? M: まずそのような統計に出会ったとき, 眉に唾つけることが必要です。 実際に弘大図書館の蔵書検索でタイトル・ワードに入れて件数を調べてみました。 その結果: ``無機化学'', 78件, ``有機化学'', 136件, ``物理化学'', 80件, ``量子化学'', 31件, ``化学熱力学'', 13件, ``反応速度'', 10件 でした。 この結果を見てどうですか ?

05s2061: 
授業の内容には関係ないですが, 前回も今回も教室が寒いので暖房を つけてほしいです。 M: はい, 善処します。

05s2063: 
特にありません M: 

05s2067: 
先生が好きな, 「計算を用いず, 理論で導く結論」は実生活で すごく有効だと思いました。しかしこれは前提として非常に知識が必要なことです。 こういった問題へのアプローチは, 論文などでは有効なのでしょうか ? M: 2006-11-15 の 03s2050 と関連あり。 高度に訓練された直観は, 非常に有用だと思います。 しかし直観で得られた答は, 他人に理解・納得してもらえない可能性が大だし, 正しさの客観的根拠もありません。 そこで, 論理的な説明を後付けすることが必要になります。 研究の現場ではそういったことがしばしば起こることでしょう。 もちろん論文などで研究成果, もっと一般的には``考え''を発表するときには, その内容を他人に理解してもらうことが重要ですから, 論理を記載することに なりますね。

05s2069: 
演算子には, 線形以外に何があるんですか ? M: もちろん, 演算子は, 線形で``ある''ものと線形で``ない''ものがあります(笑)。 11/22 配布のプリント (4) 式が演算子の定義の一例ですから, 問題に出した ``平方根をとる''という操作も, ある関数に作用して別の関数を与えますから, 演算子と見なすこともできるでしょう。

05s2072: 
量子化学の問題を解く上で定義に数値を代入して答えを出していますが, やはり, どうしてその定義になるのかも考えながら問題を解くべきなのでしょうか ? M: そうですね。でも, どこまでさかのぼるかという問題は, あります。 もちろん一律な規準は無くて, 説明の論理性や分かりやすさに応じて臨機応変に。 でも, 義務教育で教わるレベルまでさかのぼる必要は無いと思いたいです。

05s2077: 
先生が尊敬する人(化学者か物理学者の中で)は誰ですか ? 先生がもう一度勉強し直したいと思っている教科はありますか ? M: えっと, シャーロック・ホームズは, 化学者に含まれますか ? しばしば化学実験をしているみたいなので, 含まれることにしよう, うんうん。 勉強し直したいのは, 物理かなぁ。

05s2079: 
プリントに書く場合, 計算の省略はしすぎないほうがいいですか ? M: 古来``過ぎたるは及ばざるが如し''と言いますね。 この場合の``過ぎる''が, 省略のしすぎなのか説明の詳しすぎなのか, 意見が分かれるところですが, 中庸で。

05s2081: 
先生は本を出したことがありますか。あるなら, タイトルを 教えてください。 M: 残念ながら, 未だありません。

04s2011: 
問題を解いていて難しいと思ったんですけど, 先生は難しめに 作っているんですか ? M: 難しいことに挑戦しなければ能力は伸びないと思います, という話は初めの時間に 言ったと思うのですが ......

03s2050: 
仮に量子論という理論がなかったとしたら, 量子力学や量子化学といった 学問は誕生しなかったと思いますが, 先生は量子力学や量子化学といった学問の他に どのようなものがなかったと考えますか。(モノでも何でも結講[原文ママ]です) M: 仮に歴史上のある発見が無かったとしても, いずれは別の人によって同様の発見が なされるというのは, 数学者ガウスの例を引くまでもなく, 歴史の教えるところです。 したがってボーア, シュレディンガー, ハイゼンベルグらによって量子力学が 構築されなかったとしても, いずれ別の人たちによって類似のものができたでしょう。 量子力学の(不存在の)影響については, 2006-11-08 の 05s2035 も参照。 現代社会では, 物質を原子・分子のレベルで理解し活用していますから, もしもそれが 無ければ, 文明社会は二世紀前(19世紀後半)のレベルだったことでしょう。 もしかして高校世界史の履修漏れデスカ ?



Ryo MIYAMOTO, 2006-11-24