** 質問と回答 (2003-01-15, M が宮本による回答)

01s2001: 光は波動性と粒子性があり, 波か粒子かが分かるのはその観測する装置の 選択によるという相補性があるというのを読んで思ったのですが, 目は波と粒子 どちらで観測しているのですか。目の観測がもし波であるとすると粒子で観測した 世界はどのように見えるのですか。

M: ボーアは波動的性質と粒子的性質の相補性を述べました。しかし例えば, 二重 スリットにより干渉縞が生じる実験で, スクリーンに写真乾板や CCD 素子を用いたら どうなるでしょう ? 干渉縞の全体は波動的な性質ですが, 写真の像の元となって いるのは個々の銀原子のイオン化などであって, 光の粒子的な性質によります。 さてこの観測装置は光の波動性と粒子性のどちらを検出しているのでしょう ?

生物の目が光を感じるのは, 網膜にある物質 (例えば レチナール) の光化学反応に 基づいています。そこで目は光の粒子的な性質の検出器といえるかもしれませんが, 上記のようにあまり意味のある区別ではないかもしれません。 曜日によって違うのかも ;-p

01s2002: 聖アウグストゥス曰く, 「時間は何かと聞かれれば, わからないが, 聞かれなければ, わかる」というのがあるが, 先生は, 時間を, どのようなものとして とらえているのか。

M: 特に考えたことはありません。日常生活では相対論的効果は目立ちませんので, ふだんは古典的なイメージでいます。ところで聖アウグストゥスは, 何をもって 「わかる」と言っているのでしょうね ?

01s2006: 人の精神というものも科学で解明することはできますか ? (他には超能力と 呼ばれるものなど)

M: 精神については将来は科学で解明されるかもしれませんね。 なお超能力 *と呼ばれるもの* が, もし言われている通りのものならば, 物理的な 作用の原理 (因果律, 近接作用, 作用反作用) を満足していないので, それは数理科学ではありえません。

01s2019: 参考書等で, 古典力学では〜〜であるが, 量子力学では……であるという のをよく見かけます。しかし, 問題では, 量子力学での答えがほとんどです。 それなのになぜ古典力学においてどうであるか書かれているのですか。問題を解くに あたって, どちらを使うか考える必要があるのですか。

M: 古典論にふれた方が, 問題についてイメージをつかみやすいと著者が考えた からでしょう。

01s2031: アインシュタインは思考実験で, ΔE と Δt の不確定性の矛盾をうったえ ようとしてボーアに一般相対論によって反論されて矛盾はないとされたそうですが, なぜに相対論でかたがつくのですか ? アインシュタインは自分の相対論のことを考え なかったのですかね ?

M: そのアインシュタインとボーアとの論争は有名ですね。アインシュタインの問い かけに答えるためにボーアも必死で考えたでしょうから, 気づきにくい点だったのかも しれませんね。あるいは, アインシュタインでも見落としがあることから, 人間の 不完全性を示しているのかも ;-p

01s2032: α崩壊はトンネル効果の初期の例であると参考書で読んだのですが, α崩壊 の他にもトンネル効果の初期の例で挙げられるものはあるのですか。(その参考書は α崩壊しか載っていませんでした。)

M: いつ頃までを初期と言うのかわかりませんが, 日本人なら「エサキダイオード」を 挙げなくちゃ。江崎玲於奈は 1973 年にノーベル物理学賞を受賞しましたが, エサキダイオードの発明自体はもっと前のはずですね (1958 年ごろらしい)。

01s2034: ポリエン系分子は, 鎖長を長くするほど長い波長の電磁波を吸収する らしいが, かなり長い分子を作れば, 電波なども吸収することができるのか ? もしできるのなら, 病院などの壁をその材料で作れば, 携帯電話の電波などの不要な 電波を遮断することができるのではないだろうか。

M: 携帯電話の電波 (数メガヘルツ) を吸収する分子鎖の長さはどのくらいになるか 計算してみてください。実際にはミリ波からマイクロ波のオーダーのエネルギーは, 分子の回転運動などを励起します (電子遷移ではありません)。

01s2035: 今回の問で C-C 間や C-N 間などの長さが問題となりましたが, 巨大分子と なったときでデータが無い場合, 机上 (例えば PC の chemdraw) 等から出しても 良いのですか ?

M: 新規物質や稀な物質・不安定物質のデータが存在しないのは当たり前です。 でも無いからといって議論ができないのでは困りますね。そういうときには何らかの 合理的な仮定をおくしかありません。あなたの採用した仮定が充分な合理性を持って いるかどうかは, 聞き手が判断するでしょう。例えば ChemDraw の結果が信用されて いるのは, コンピュータだからではなく, 合理的な仮定にもとづいて計算するように 作られているからです。

01s2041: 直鎖状のポリエンの炭素数が多くなると吸収スペクトルが長波長側に移行 したら, 何色に見えますか ?

M: 可視光の吸収波長と物質の色とは補色の関係にあります。簡単には 「赤橙黄緑青紫」を円周上にならべたときの対向色が補色の関係になります。 よって, 紫を吸収したら黄色。

01s2051: 今まで (現在に至るまで) 自分が知っていること, 信じていることが根底 から覆された場合, そのまま受け入れることができるか ? また, すぐに適応できるか ?

M: 人それぞれだと思いますが, そのことの自分にとっての重要度によるでしょう。

01s2059: 波動関数を求めることで粒子の動きを知るということになるのでしょうか ? 関数やグラフを書いてもあまりイメージがわかないのですが。

M: 下記 Q1 参照。

01s2061: 「不確定性原理」と書いている場合と, 「不確定性関係」と書いている 場合があるが, 意味的に区別して使い分けているのですか ?

M: 「原理」と「関係」ですから意味は明らかに異なります。しかし常に用法を 区別する必要があるかというと, そうでない場合もあるかと思われます。

01s2063: マイナスイオンのことで, ある電化製品の説明書をみたら, マイナスイオン のしくみは, 実際には, プラスイオンとマイナスイオンが両方等しい割合で存在して いて, それぞれのイオンのまわりには, 水分子がとりかこんでいる状態で, それが, 空気中のゴミなどを吸着して, きれいにしてくれるとかいてあったのですが, はたしてこれは, 理論的に成り立つことなのですか ? 先生はどう思いますか。

M: 静電気で帯電したプラスチックの下敷に髪の毛を吸いつけさせて遊んだことは ありませんか ? 正電荷が負電荷を引き寄せ, また逆に負電荷が正電荷を引き寄せる ことは良く知られていることですね。 しかし, プラスイオンとマイナスイオンが両方等しい割合で存在しているにもかかわら ず, それらをまとめて「マイナスイオン」と呼ぶのは化学的に間違っています。 そしてプラスイオンもマイナスイオンと同様にゴミを吸着するのであれば, 特別に後者をとりあげて 善 とする (場合によっては前者を悪とする) 根拠は 何なのでしょうね ?

01s2070: 「挙動を調べる」というのは, 具体的には「Schrodinger 方程式」を 解けということなのか。(o にはウムラウト付き)

M: 下記 Q1 参照。

01s2071: 現代科学では近似を多用するが, 近似する以外では, 問題を解いたりは できないのか ?

M: 厳密解と近似解以外に意味のある解はあるのでしょうか ?

01s2073: 有限の高さ, 有限の幅の壁を粒子は通りぬけることができるが, その粒子が より大きい多原子分子のようなものでも通りぬけられるのでしょうか ?

M: 多原子分子をまとめて一つの大きな粒子と考えたら, 通りぬける確率はどうなるで しょうか ? また多数の粒子からなる物体がそっくりそのまま壁を通りぬける確率と, 構成する個々の粒子が壁を通りぬける確率との間にはどんな関係があるでしょうか ?

01s2074: 良い学者, 研究者の条件は何なのでしょうか ?

M: 何に対する良し悪しなのでしょうか ?

00s2022: 不完全性定理で, 閉じた中にいる人は自分はそれが閉じているのか閉じて いないのかわからないということが認められたという話で, それは, 次元の話の, 4 次元の人はそれより下の 1 次元, 2 次元などはわかるが, それ以上の上の次元に ついてはわからない, というのと同じことなんでしょうか。でも哲学かなんかで, 創造してどのようになっているかを論じている人っていると思うんですけど。 それに, 脳研究だって, 脳を解析しようとしても, 人間の脳で脳を理解することは 不可能とされたら, 脳研究は全く意味のないものにはなってしまわないのですか。

M: 不完全性定理定理をもうちょっとちゃんと言うと, a) 真偽決定不能な命題が存在する b) 無矛盾な公理系 S の内部で「S は無矛盾である」という命題の真偽は決定できない です。後者について誤解しているのでしょうか。

99s2062: 不確定性原理が正しいとされているが, 電子の位置と運動量を確定する ことが出来る理論が出てもおかしくはないのではないか ?

M: 量子論を越える理論が出てくるとしても, 全く異なったものではなくて, しかるべき近似として現在の量子論を含むものでなければいけません。すなわち ○○論で△△とした近似が量子論になってる必要があるということです。 これまでも, 古典力学は, 量子力学でプランク定数をゼロと置いた近似だとか, 相対論で光速を無限大とおいた近似だとかいう言い方もあります。

99s2076: 先生は, 弘前大学へ来る前に研究所?の様な所で仕事をしていたと, プロフィールで見ましたが, そこでも, 弘大で今行なっているような研究をして いたのですか ? 小豆畑先生も同じ研究所にいたことがあると, これもプロフィールで見ましたが 知っていました ?

M: 研究対象の化合物に金属イオンを含むことと電子スピンに注目することなどには, こだわりを持っているかもしれません。 私が分子科学研究所に在籍していた時期は小豆畑先生のと重ならないので, 岡崎で会ったことはありません。 また, 小豆畑先生の弘大への赴任が決まってから調べたら, 所属していた部門は 異なっていたようです。

--- まとめて回答します。

Q1: 波動関数を求めることと, 粒子の挙動を知ること。

M: 例えば古典力学では, 物体の軌跡を表わす関数がわかれば, その物体の位置や 速度を求めることができますね。それと同様に量子論では, 波動関数が分かれば, 粒子の存在確率やその他の物理量を求めることができるということです。 また今回のような単純なポテンシャルを取り扱う問題の場合には, 入射波と反射波の 強度の比率を調べたり, 透過波の強度を調べたりすることもあります。 しかし, 波動関数が表わしているものは, 古典的にはなじみの薄いものかもしれま せんね。訓練してイメージを持てるようになってください。


2003-01-15, Ryo MIYAMOTO