弘前大学 理工学部 物理科学科でも, 「宇宙物理学」 を学べる/研究できるようになりました. 「宇宙物理学」とは,宇宙の誕生から銀河や星に関することまでと 対象がとても広い学問分野です. 今回の月刊HPでは,一般相対論を用いた宇宙の研究について紹介します.
天体のように非常に重い物体の運動は重力により支配されています. この重力は,17世紀にニュートン により万有引力として説明されました. しかし,約300年後の20世紀はじめ, 天才アインシュタインは 重力を時空(時間と空間)の力学と捉え, 一般相対性理論を築きあげました. このアインシュタインの一般相対性理論は, 「水星の近日点移動」 や 「太陽重力による光の軌道の曲がり」 などの観測事実を理論的に説明します.
また,一般相対性理論は太陽系のようなわれわれの身近な対象とは 大きくかけ離れた極限的な現象を数多く予言しています. そのひとつこそ,ブラック・ホール. このブラック・ホール自体は光さえ脱出することのできない 強い重力をもつ天体なので,直接それを観測することは不可能です. しかし,その周囲の強重力によって生じる高エネルギー現象が すでにX線や電波を用いて観測されており, ブラック・ホールの存在を支持する証拠が たくさん得られています.
一方,まだ確かめられていない一般相対性理論の 予言は,「重力波」です. 電荷をもった物体が動くと電磁波が発生します. この電磁波のおかげで,われわれはテレビを見たり, 携帯電話を用いることができるのです. 電磁波と類似のことが,一般相対性理論でもおこります. 質量をもった物体が加速度運動する場合, 時空の歪みが伝わります.この時空のさざ波が「重力波」とよばれます. 未だ直接,重力波は検出されていません.信号が微弱すぎるのです. 現在,重力波検出の一番手を目指して, 世界中で重力波検出のための大型装置が稼働あるいは計画されています.
図:TAMA300 = 国立天文台にある重力波検出装置. 写真のL字型のトンネルの地下にあります.
図:LIGO = アメリカの巨大な重力波検出器.
弘前大でも重力波の研究を行っています. 最近の成果の一例は,「8の字軌道」から 放出される重力波の研究です. 3つの天体がなす軌道の形は様々あり, 1993年,アメリカの物理学者がユニークな「8の字」の形をなす軌道が あり得ることを初めて指摘しました. われわれは,この「8の字軌道」を描く物体からの重力波の 波形を初めて計算しました. (関連論文は,イギリス王立天文学会およびアメリカ物理学会発行の 専門誌に掲載されました.)
図:8の字軌道からの重力波.
縦軸は重力波の振幅、横軸は時間.波の成分は2種類あります.
また,最近の精密な宇宙観測データは, 宇宙の質量の大部分(9割以上!)は未知のものである事を 強く示唆しています.
図:宇宙における質量比. 宇宙の質量の約7割が未知のエネルギー(ダークエネルギー)で, 約2割が未知の物質(ダークマター)とされています. われわれが知っている物質は、宇宙の質量のわずか4パーセントにすぎません.
未知の質量を担うのは, 銀河のような天体を重力で集める性質をもつ 「ダークマター(暗黒物質)」 と,宇宙全体の膨脹を加速させる 「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」です. これらの正体を明らかにすることが21世紀の宇宙物理学における 大きな目標のひとつです. これらふたつのダーク(暗黒成分)は本当に 物質やエネルギーかもしれません. しかし,実は,一般相対性理論が記述する重力の理論を修正することで 観測事実を説明できる可能性もあります. 例えば,理論物理学者らによって, 「超ひも理論」や 「量子重力理論」といった 新しい理論が提唱されています. 今後,より精密なデータを得るための宇宙観測ならびに 新しい理論の探求がますます活発に行われるでしょう.
以上の通り,宇宙物理学には魅力的な問題がまだまだ多数あり, 宇宙物理学は物理学におけるフロンティアなのです.
図: NASAの研究者らがハッブル望遠鏡を用いて 撮影した遠方銀河の集団. こうした銀河の集団は,光で見える物質よりもはるかに多くの ダークマター(暗黒物質)を含んでいます。
最後になりましたが, もし読者が高校生以下で, 以上のような一般相対性理論に関連した宇宙物理学の 研究にチャレンジしてみたい場合, 本学への入学もぜひ選択肢に入れてほしいものです. 研究グループへの参加を歓迎します♪
(written by Asada, July 2008)