長鎖アルキル基により可溶化した
カーボンナノチューブセグメントの化学合成
炭素には三つの同素体であるダイヤモンドグラファイトフラーレンが存在します。
1991年に日本の飯島澄男(当時NEC筑波研究所、現NEC特別主席研究員)によって、ダイヤモンド、グラファイトに次ぐ第三の炭素同素体であるフラーレンを作っている途中にアーク放電した炭素電の陰極側の堆積物中からカーボンナノチューブが発見されました。

図. カーボンナノチューブ(左:単層、右:多層)

カーボンナノチューブは炭素だけからなる半径1ナノメートル、長さが1ミクロンの細長い円筒状の物質です。キラル型アームチェア型ジグザグ型があります。


これら
カーボンナノチューブの種類は、物理的な生成法において自由にナノチューブの形状を制御して作り出すことは難しいとされています。

グラファイトセグメント、フラーレン自身の化学合成は試みられていますが、カーボンナノチューブの純粋な化学合成は、溶媒に不溶で昇華性もなく精製が困難であるため、試みられていません。

そこで、純粋化学合成が可能になれば、構造の明確なカーボンナノチューブを得ることができ、その特性を正確に明らかにすることが可能となると考えました。

炭素同素体であるグラファイトセグメントの部分構造である蜂の巣状の構造は、テトラフェニルシクロペンタジエノンとのDiels-Alder反応、続く環状脱水素反応により合成されています。


Scheme. グラファイトセグメントの合成

1) S. Ito, M. Wehmeier, J. D. Brand, C. Kübel, R. Epsch, J. P. Rabe, K. Müllen, Chem. Eur. J., 6, 4327-4342 (2000)

ポリフェニレン骨格を有する環状化合物を合成できれば、環状脱水素反応により、グラフェンシートを丸めたようなストロー状のカーボンナノチューブセグメントが化学合成可能であると考えられます。