気象学観点からみた地表面*の役割

太陽エネルギーが大気を動かす主要なエネルギー源であることは、よくご存じのことと思う。大気は、雲の存在などで不透明でない限り、太陽のエネルギー(以下日射Insolationと呼ぶ)を透過させる。地球上でまず太陽のエネルギーを受け取るのは地表面か雲ということになる。雲は白いのでほとんどの日射を反射して宇宙空間に逃がしてしまう。一方地表面には、黒っぽい面(海洋などの水面、暗い色の陸面)や白っぽい面(雪氷面など)があり、色の暗い面は日射を反射せず吸収し、放射のエネルギーを熱エネルギーに変える。その暖まった地表面に触れている大気は熱伝導によって暖められ、暖まった空気塊は軽いので上昇し対流を発生させる。これが大気を動かす原動力(の一つ)となっている。もちろん、緯度によってそもそも地表面に到達するエネルギー量は変化するが、地表面の種類によっても大気へ与えるエネルギーの大小は変わってくる。

上では直接的な熱の伝達(顕熱Sensible Heatと呼ぶ)について書いたが、水が蒸発Evaporateするときに地表面から気化熱を奪い雲などで凝結するときに熱を解放する間接的な熱の伝達(潜熱Latetnt Heatと呼ぶ)もある。この一連の過程は俗に気象学では地表面過程Surface Processと呼ばれる。よって、地表面の色だけでなく湿り具合や蒸発のしやすさ(地表面の形状や保水性など)も大気へ与えるインパクトを左右する。森林伐採や都市化がその土地の気候を変えてしまうと言われるのは上記が理由となる。

大気境界層Atmospheric Boundary Layer(ABL)とは?

地表面の摩擦Frictionや熱の影響を直接受ける、高度1-2kmまでの大気の層を大気境界層と呼ぶ。この層内では、風上側の地表面が多様であればそれに対応して大気も乱れた状態になる。その中でも、より地表面に近い(概ね100m程度まで)層は気温や風速の鉛直勾配が大きく、接地境界層Surface Boundary Layer(SBL)と呼ばれる。接地境界層では、乱れが強いものの規則正しく乱れている。この層内では地表面が水平一様であれば、上記の地表面からの顕熱輸送量や潜熱輸送量は鉛直方向にほとんど変わらず(厳密に一定ではない)、また数分平均の風速や気温が鉛直高度に対して対数に近い分布をしている。そこで、ある時間の顕熱輸送量高さ温位Potential Temperature、水平風速を鉛直方向に対数分布していると仮定した時の勾配の4つのパラメータを用いて、この層を説明しようとしたのがモニンオブコフの相似則Monin-Obukhov's Similarity Theory(MOS)である。

接地境界層の中で起きている現象が、私の第1の研究対象です。

乱流輸送量Turbulent Flux計測

近年接地境界層の顕熱輸送量、潜熱輸送量を測定するプロジェクトが次々に生まれ、漸く観測技術も確なものになり、世界中いろいろな場所で観測が行われている。(しかし、これは一様な地表面で植生Vegitationがあまり高くない場合だけである。)また森林の炭酸ガス吸収能力を調べるために、同様な手法を用いた炭酸ガスFluxの計測も盛んに行われるようになった。

古くからある乱流輸送量の計測方法を直接的な方法から順に挙げると、

である。直接測定は渦相関法のみであるが、10Hz 程度の周波数でのサンプリングが必要でありデータ量が多くなり、しかもメンテナンスが大変である。現在では、乱流統計量である分散値を使ったバンドパスコヴァリアンス法Band-pass Covariance Maethod分散法Variance Method等も用いられるようになってきた。

こういった方法で、地表面の種類や季節、地理的位置によってどのように乱流輸送量が変わってくるのか、多くの研究者の手で研究が進められている。

直接観測でさえ10%の誤差が限度であったり、水平一様でない地表面での観測はまだ始まったばかりであったり、森林などの高い植生上で直接測定をすると熱の収支が合わなかったり、まだまだ問題点が絶えない。こういった問題点を興味対象とした任意研究グループ Flux野郎の会に参加して現在研究を行っている。

特に、風が弱く不安定な自然(自由)対流の条件において乱流輸送量を定量的に評価することが、私の修士論文までの研究対象でした。現在もやや遠縁になっていますが継続中です。



地表面*: 陸面と海面などの水面両方を含む。
短時間でまとめましたので、間違いコメントなどありましたらご遠慮なくメール下さい。