地質学実験ホーム
「地質学実験」ガイダンス資料
2003年4月11日
1.本実験の目的及び内容
地質学実験は,
地質学的データを野外で得るための野外地質調査の基礎を体得することを目的とする.
そのため,4月には事前の室内での予備訓練を行い,
5月から6月には実際に野外に出て地質調査を行う.
また,7月にはそれまで得たデータを室内でまとめる.
野外で行う地質調査は,調査地までの移動等にも時間を要するため,
正規の時間では行なえない.
そのため,本実験は5月から6月にかけては土曜日に行い,金曜日には行わない.
また,レポートを各調査毎に提出してもらう.
したがって,本来休日である土曜日をほぼ終日費やし,
レポートの作成にも多大な労力を要する.
にも拘わらず2単位にしかならない実験なので,多くの落伍者が出ることが予想される.
知的欲求の充足や将来の必要性以外の理由
(例えば単なる単位の取得やハイキング)での参加は,
履修放棄につながる可能性が高い.
履修放棄は他の履修者や教官の迷惑となるので,確固たる理由のない履修は慎んで頂きたい.
なお,数日間野外調査に参加出来なかった場合は,後日各自該当する日の調査ルートを調査し,
レポートを提出すれば出席と同等に扱う.
本年度は弘前盆地南縁周辺の調査を予定している.
毎週の調査ルートはその都度地球環境学科掲示板(2F)に掲示する.
地形図はその都度現地でコピーを配付するが,
国土地理院発行の1/25,000地形図「阿闍羅山」を購入しておくと便利である.
なお,本実験の野外調査は現地集合,現地解散なので,野外での調査中はもちろんのこと,
現地までの移動等に際しても安全には充分留意すること.
また,怪我等に備えて学生教育研究賠償責任保険
(学生便覧参照)等に加入すること.
2.日程
以下の日程を予定している.野外調査は天候によっては中止するが,その場合の連
絡方法は,調査ルートの掲示に合わせて示す.
4/11(金) ガイダンス(全教官)[3番講義室]
4/18(金) 地形図の読図及びそれに基づく地形解析(堀内教官)[3番講義室]
4/25(金) クリノメーターの使用法及び地質図学(根本教官)[3番講義室]
5/10,17,24,6/7,14,21,28(土) 野外調査(全教官)
7/4 (金) 野外調査のデータのまとめ方(根本教官)[3番講義室]
7/12(土) 野外巡検(全教官)
7/18(金) 空中写真判読(佐々木教官)[3番講義室]
7月下旬 まとめのレポート提出期限(日時は7/4に指示する)
3.野外調査の装備
終日野外を歩くので,以下を遵守する事.なお,危険なので
移動時には荷物を手に持たないこと.
- 上着またはシャツ:薮を歩く時など腕を保護するため,長袖を着用する.
ある程度汚れても良いものを準備する.
なお,作業用ベスト等ポケットが多い上着は
フィールドノート,筆記用具等を収納出来て便利である.
- ボトム:川の中に入るので,濡れても良いものを準備する.
なお,ジーンズは乾燥が遅く,水を吸うと重くなる.
半ズボン等足の一部を露出するものは不可.
- ザック:1日中背負うので,肩パットが付いているものを準備する.
ショルダーバックは不可.
サンプル等を持ち帰る事もあるので,容量に余裕のあるものを選ぶ.
- 靴:登山靴,軽登山靴,安全靴等が望ましい.水の中に入るので濡れても良いもの
を準備する.古い靴は底が滑るので危険.
長靴は水が入ると歩きにくくなる.
- 帽子又はヘルメット:日光から頭部を保護するために,最低限帽子が必要である.
強風などに備えて,顎ひも等で固定できるものが望ましい.
落石等から頭部を保護するには,ヘルメットが望ましい.
- その他必要な物([ ]内はあれば便利な物)
- ハンマー
- クリノメーター
- ルーペ
- 野帳(フィールドノート)
- 筆記用具
- 折り尺又はメジャー
- タオル
- 軍手
- 雨具
- 飲料水
- 弁当
- [タガネ]
- [ねじり鎌]
- [サンプル袋]
- [地形図]
- [マジックペン]
- [調査鞄]
- [粒度表]
- [救急セット(カットバン,虫除けスプレーetc.]
※ハンマー及びクリノメーターは希望者には貸与するので,丁寧に扱うこと.
なお,4年次に地質系教官の元で野外地質調査を伴う卒業論文の作成を希望する者は,
この機会に地質調査用具を購入する事を勧める
(購入法は,後刻説明).
主要な地質調査用具(下線を付した物)を準備出来ない者の履修は認めないので,
事前に購入するか先輩等から借りておくこと.
4.参考文献等
以下に掲げた文献は,野外調査を行う上での参考文献であり,室内における各実験
に関する参考文献は,その都度紹介する.
(1) 教科書
狩野謙一,1992,野外地質調査の基礎.古今書院,東京,120 p.
高安克巳・大西郁夫,1985,地質図学.地学ハンドブックシリーズ1,地学団体研究
会,東京,160 p.
(2)地質学一般に関するもの
地学団体研究会新版地学事典編集委員会編,1996,新版地学事典.平凡社,東京
,1,443+374 p.
垣見俊弘・加藤碵一,1994,地質構造の解析−理論と実際−.愛知出版,東京,274p.
狩野謙一・村田明広,1998,構造地質学.朝倉書店,東京,298 p.
勘米良亀齢・水谷伸治郎・鎮西清高編,1991,地球表層の物質と環境.岩波地球科学
選書,岩波書店,東京,326 p.
木村敏雄編,1984,地質構造の科学.朝倉書店,東京,370 p.
中村一明,1989,火山とプレートテクトニクス.東京大学出版会,東京,334 p.
平 朝彦,2001,地質学I 地球のダイナミックス.岩波書店,東京,296p.
平 朝彦・阿部 豊・川上紳一・清川昌一・有馬 真・田近英一・箕浦幸治,1998,
地球進化論.岩波講座地球惑星科学13,岩波書店,東京,527 p.
平 朝彦・浜野洋三・藤井敏嗣・下田陽久・末広 潔・徳山英一・上田 博・竹内謙介
・住 明正・佐野有司・蒲生俊敬・井澤英二,1996,地球の観測.
岩波講座地球惑星科学4,岩波書店,東京,130 p.
横山 泉・荒牧重雄・中村一明編,1992,火山.岩波地球科学選書,岩波書店.東京
,306 p.
(3) 地質調査に関するもの
藤田和夫・池辺 穣・杉村 新・小島丈児・宮田隆夫,1984,地質図の読み方と書き
方.古今書院,東京,194 p.
羽田 忍,1990,地質図の読み方・書き方.地学ワンポイント,共立出版,東京
,124 p.
公文富士夫・立石雅昭編,1998,新版堆積物の研究法.地学双書29,地学団体研究会
,東京,399 p.
野尻湖火山灰グループ,2001,新版火山灰分析の手引き.地学ハンドブックシリーズ14,
地学団体研究会,東京,56 p.
Tucker, M., 1982, The Field Description of Sedimentary Rocks. John Wiley &
Sons Ltd., Chichester, 112 p.
山内靖喜・三梨 昂編著,2001,新版地質調査法.地学ハンドブックシリーズ13,
地学団体研究会,東京,251 p.
(4) 調査地域に関するもの
青森県史編さん自然部会編,青森県史 自然編 地学.青森県,青森,627p.
Hayakawa, Y., 1985, Pyroclastic geology of Towada Volcano. Bull. Earthq.
Res. Inst. Univ. Tokyo, vol. 60, p. 507-592.
岩井武彦,1986,北村 信編,「新生代東北本州弧地質資料集」第1巻,島弧横断ル
ートno. 12(十二湖−白神山−大鰐−十和田湖),地質図,地質断面図および同説明
書.宝文堂,仙台,12 p.
箕浦幸治・小菅正裕・柴 正敏・根本直樹・山口義伸,1998,青森県の地質.
青森県商工観光労働部鉱政保安課,あおもり,207p.
村岡洋文,1986,沖浦カルデラの形成年代.地質調査所月報,vol. 28, p. 293-296.
村岡洋文,1991,八甲田地熱地域の熱源系.地質調査所報告,no. 275, p. 113-134.
村岡洋文・長谷紘和,1990,黒石地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図図幅),
地質調査所,つくば,124 p.
村岡洋文・高倉伸一,1988,10万分の1八甲田地熱地域地質図説明書.特殊地質図,
地質調査所,つくば,27 p.
村岡洋文・上田 晃,1991,八甲田地熱地域の熱水系.地質調査所報告,no. 275,
p. 135-152.
村岡洋文・山口 靖・長谷紘和,1983,
碇ヶ関カルデラと遠部層を噴出した第三紀クレーター型カルデラ.
日本地質学会第90年大会講演要旨, p. 341.
須崎俊秋・箕浦幸治,1992,青森県地域上部新生界の層序と古地理.地質学論集,
no. 37, p. 25-37.
氏家良博・宮城一男,1989,津軽地域.日本の地質『東北地方』編集委員会編,東北
地方.日本の地質2,共立出版,東京,p. 153-158.
(5) HP
佐々木教官が以下のURLで本実験のHPを運用している.
配布されたプリントや実験風景が掲載される予定である.
http://www.st.hirosaki-u.ac.jp/~earth_solid/geoexp2003/
5.レポートについて
野外調査のレポートは,調査毎に1通ずつと全体をまとめたもの1通を提出する.
調査毎のレポートは,当該調査の2日後(月曜日)の午後5時迄に根本のレターケースに提出する.
期限迄に提出されたレポートは,その週の金曜日迄に各自のレターケースに返却するので,
書きこまれた教官のコメントに留意し,次回の調査及びそのレポートの作成に臨むこと.
なお,教官のコメントにも拘わらず改善が見られないレポートには,再提出又は再調査を求める.
また,やむを得ず提出期限に間に合わなかった場合も,レポートは速やかに必ず提出すること.
各調査毎のレポートの提出が滞っている者には,履修放棄勧告をする.
全体をまとめたレポートについては,7月4日に改めて指示する.
(1) レポート作成上の一般的注意
- レポートはA4のレポート用紙(ワードプロセッサ等でレポートを作成する場合は,
同サイズのワープロ用紙)を主として用いる.
図表類については方眼紙,トレース用紙およびコピーを用いても良い.
ただし,トレース用紙上の文字は見にくいので,必要以上に文字を書き込まない.
また,トレース用紙の下に白紙を1枚挟み込む事が望ましい.
A4より大きくなる図表類は,適当な大きさに折って挟む.
- 手書きのレポートは黒色のインク(万年筆,製図ペン,ボールペン等)を用い,
鉛筆は用いない.ただし,地図,スケッチ等の塗色には色鉛筆を用いる.
- レポートは教官が読み,コメント等を書き込むので,1行おきに書く.
ワードプロセッサ等でレポートを作成する場合も,約1行分行間を空ける.
- レポートは日本語で作成し,化石の種名,適当な訳のない専門用語,
外国語の文献の引用等を除き,外国語を用いない.
- 地図類(地形図,地質図,ルートマップ等),スケッチ,柱状図にはスケールを付す.
なお,地図類は真上が北でない場合は北を明示する.
また,必要に応じて凡例を付す.
- 他人(教官を含む)から聞いた話ではなく,あくまで自分の観察及び考察が重要なので,
「…だそうだ.」や「…という話だった.」などという表現は用いてはならない.
ただし,各自が文献調査によって知識を得ることは大変有意義である.
文献から資料や考えを引用する際は,レポートの本文中に著者名と発表年を書き
(例えば,「中村(1989)によると…」,
「…と考えられている(垣見・加藤,1994;勘米良ほか,1991)」),
レポートの末尾に引用文献の一覧表を付す.
その際は,前項の"4.参考文献"の書式に従って列挙する.
順番は著者名のアルファベット順である.
- 調査地域の磁針方位は7°50′である.走向は補正後の値を示す.
ただし,測定精度から考えて,分単位の補正は不要である.
(2) 調査毎のレポートのスタイルについて
- タイトル(「地質学実験レポート」),調査日,学籍番号および氏名を記した表紙を付す.
- 露頭の位置図(地形図またはそのコピーに露頭の位置を示した図)を付す.
後述の野稿図上に合わせて表現しても良い.
- 各露頭の記載を行う.露頭番号は露頭の位置図に一致させる.
各露頭での観察事項を,箇条書きではなく文章で書く.
文章のみで説明が不充分な場合はスケッチ等を付す.
スケッチを塗色する場合は実際の色に近い色を用いる.
なお,柱状図は極力付す.
柱状図の色及び模様は教科書を参照して慣習的なものを用いる.
- 1日の調査を通しての考察を付す.
考察には,調査地域の地質構造,岩相の垂直変化,堆積環境,その他気付いた事を書く.
- 引用文献がある場合は,引用文献の一覧表を付す.
引用文献とは本文や図表に引用した文献の事で,参考にした文献ではない.
- 野稿図を付す.
野稿図とは,地形図(又はそのコピー)の露頭の位置又は範囲をその岩相に見合った色で塗色し,
層理面等の「姿勢」を記号で記入した図である.
本実験のレポートでは露頭の位置図中に合わせて表現しても良い.
岩相と色との対応は,教科書を参照する.
同様の岩相が幾つかに区分できる場合は,同系統の異なる色を用いる.
層理面等の姿勢の記号は教科書を参照する.
(3) レポートによく見られる問題点
以下にこれまで地質学実験等のレポートで頻繁に見られた問題点を示す.
同じ轍を踏まないように留意すること.
- まず岩相の記載から:各露頭の記載が,
その露頭で見られた断層や化石の記載から始まるレポートがあったが,
その露頭がどのような岩相から構成されているかが最も重要な情報なので,
必ず岩相の記載から始める.
断層や化石の記載のみで,岩相の記載がなされていないレポートもあったが,
そのような場合は再調査を要求する.
- 地層の記載は下位の地層から:累重した地層を順に記載する場合,
下位層から上位層へと記載するのが地質学における慣習である.
野外でどのような順序で観察し,記載するかは自由であるが,
レポートでは各露頭毎に下位層から記載する.
- 単調な表現:大きな露頭では多数の地層が見られることがあるが,
同じような表現を繰り返して記載すると文章が単調になる.
地層に番号等を付し,共通の性格を持つものをまとめる等の工夫が必要である.
- 「…ぽい色」:これは「…色を帯びた○○色」という意味であるが,
「…」より重要な「○○」に関する情報が欠けている.
- 「大きい」,「小さい」,「厚い」,「薄い」:
これらは主観的表現であり,第三者には大きさや厚さに関する情報は全く伝わらない.
どうしてもこれらの表現を用いる場合は,比較の対象を示す.
なお,数値を用いて定量的に表現することが望ましい.
- 考察:
考察は調査によって明らかになった事実に基づいて論理的に考えを発展させ,
その過程と結論を述べるものである.
単なる観察事実の補足説明やまとめは考察ではない.
- 隠し玉:
各露頭の記載で述べられていない観察事実がいきなり考察に出てくる事がある.
観察事実は必ず各露頭の記載で述べておく.
- 写経:調査の前後に関連文献を読んで知識を得ることは大変望ましい.
しかし,その調査に直接関係しない内容は,レポートには引用しない.
例えば,津軽地方のある一点の特定の時代の地層を観察したのみであるにもかかわらず,
東北日本の新第三紀初頭から現在迄の古環境の変化を
数ページに渡って延々と引用(写経)したレポートがあった.
自分が観察した事実から考察できる範囲をわきまえて引用する.
6.露頭観察の手順
- 露頭が地山かどうか(巨大な転石でない事を)確認する.
- 露頭の位置を地形図上で確認し,その範囲を記録する.
- 一歩退き,遠くから露頭全体を眺め,岩相や構造(層理面や断層,節理,不整合)等,
露頭の概要と特徴を把握する.
- 露頭に近づいて観察,記載を行う.岩石の色は風化面と未風化部とでは異なるので,
ハンマーで未風化部を出して観察する.
面構造(層理面や断層面)の姿勢は,必ず自分で測定する.
7.露頭での記載事項
- <岩相>
- 泥岩(シルト岩を含む):色,堆積構造
- 砂岩:色,粒度(極細粒〜極粗粒),堆積構造,構成鉱物等
- 礫岩:含礫率(礫支持礫岩>80%>基質支持礫岩),淘汰,基質
- 火山砕屑岩:色,岩型(玄武岩質,安山岩質,…),粒度,堆積構造,含有鉱物
- 溶岩:色,岩型(玄武岩,安山岩,…),気孔,急冷周縁相,斑晶,節理その他の構造
- <含有物>
- 礫:礫種,礫径(細〜巨),円磨度(円〜角礫)
- 軽石:色,粒径,発泡の仕方,斑晶
- <1つの露頭で2層以上の地層が見られる場合>
- <断層>
- 断層面の走向・傾斜,条線の方向・傾斜又はレイク(観察される場合),
変位又は落差,断層面の形状,センス.
*来週(4/18)の準備
筆記用具,赤または青のボールペン,色鉛筆,定規
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