はじめに
1999年3月10日未明,十和田湖町奥瀬の奥入瀬渓流沿いで大規模な地すべりが起こりました. 青森県は3月中に「奥入瀬渓流調査委員会」を組織し,地すべりの原因を検討することにしました. 合計5回の委員会が開催され,現地調査のデータ及びその解析をもとに次のような結論を出しています.
以下に示した図は,クリックすると別ウインドウで拡大表示されます.


地すべり発生の場所及び規模
平成11年3月10日,十和田湖町奥瀬の奥入瀬渓流沿いにおいて地すべり災害が発生し, 国道102号および奥入瀬川が土砂で埋没しました(図1及び図2).地すべりの規模は, 幅が約200メートル,長さが約200メートル,崩壊の最大の高さが約80メートルで, 推定土砂は約20万立方メートルでした.

図1 山崩れの全景 図2 被災前の地形
(青森県「奥入瀬渓流調査委員会報告書」(2000)より)



被災箇所の地質と地すべりの素因
被災箇所周辺の地質は,下位より第四紀更新統子ノ口層(Le),八甲田第0期堆積物 (H0), 八甲田第I期火砕流堆積物 (強溶結部H1-H及び弱溶結部H1-L),及び先十和田カルデラ火山噴出物 (To) からなります(図3).地すべり土塊は,上に述べたの層序をよく保存しながらすべっていて, ボーリング調査などの結果,すべり面は子ノ口層中にあることがわかりました. 本被災箇所周辺の子ノ口層は凝灰質シルト岩の互層よりなり,それらは各単層の厚さが1〜3 センチメートルで, 層理面より剥離しやすい性質を持っているうえに,熱水変質作用をうけてモンモリロナイト化しています. 子ノ口層の層理面の傾斜は約5°の緩い北西傾斜で受け盤構造をとりますが(図3), 野外及びボーリング調査の結果,層理面と斜交する高角な東傾斜の割れ目が顕著に発達することから, これらの割れた面に沿って地すべりが起こったものと考えられます. 子ノ口層の上位に重なる八甲田第I期火砕流堆積物は主に,厚さ約50 メートルで柱状節理(柱状の割れ目)の 発達する溶結凝灰岩からなります.その柱状節理は表層水を効果的に子ノ口層に供給し, また,固くてち密な溶結凝灰岩という岩相は,軟弱な子ノ口層のキャップロックなっていたと考えられます.

図3 地すべり発生後の地質断層図
(青森県「奥入瀬渓流調査委員会報告書」(2000)より)



地すべりの誘因
被災箇所より採集した子ノ口層シルト岩についてリング剪断試験などを行い,それらのデータを用い SHIN(シン)−Janbu(ヤンブ)法を適用し安定解析を行うと,地下水位が約3 メートル上昇すると安全率が 1以下になる(すべりを起こす境界条件が安全率1)ことがわかりました.被災5日前に降雨があり,被災当時, 被災箇所付近で地下水位が通常より2.7 メートル上昇していたことがわかっていて,地下水位の上昇が 地すべり発生の誘因となったと考えられています(青森県「奥入瀬渓流委員会報告書」,2000). 今回の地すべりは,前兆現象がなく突発的に起こる「岩盤地すべり」とよばれるものに分類され, その挙動特性が明らかになっていません.今回の事例が,その挙動特性を明らかにする上で 重要なデータを提供するものと期待されています.


(c) Masatoshi SHIBA, 2001, shibamas@cc.hirosaki-u.ac.jp


[前のページへ]